今日も、明日も、その先も。
「あの旦那様?」
「なんです?」
あの日、旦那様のお気持ちを聞けた日から旦那様は私と一日を過ごしてくださる。
『迷惑でなければ、一緒にアフタヌーンティーはどうだろうか』
『貴女が良ければ、朝食を一緒にとってもよいだろうか?』
『貴女が嫌でなければ、貴女のお菓子を食べたいのだが…いいだろうか』
『友人とお茶会?えぇ、楽しんできてください。』
そう、私のことを一番に尊重してくださるのだ。
そして、私が頷けばまるで蕩けるように優しい笑みを見せてくださる。
それは、その、すごく嬉しいけれど…
「私にも、わがままを言ってくださらないと…私ばかり甘やかされているのでは?『良き妻のすすめ』では…」
「良き妻のすすめでは?」
楽しそうに復唱される旦那様。
「その…妻たるもの、旦那様のことをいつなんどきもお支えし…」
「それで?」
「…尽くすものだと…」
「そうですか。」
それだけ言うと、口許に手を当てられなにか思案されているようだ。
やはり、私では良き妻にはなれないでしょうか…。
「その…私は充分わがままを言っているつもりだったので…これ以上のわがままはないんですが…。」
え?
「旦那様がわがままを?」
わがまま…?
わがまま、とは?
「貴女とアフタヌーンティーまで一緒に過ごしましたし、朝早くに貴女を起こしてまで朝食を一緒にとりました。貴女の手料理のお菓子まで食べさせていただいた…。この一週間、仕事を忘れて愛する人と傍にいて独り占めした。…今も、貴女が私のことを想ってくださる。
…充分にわがままでは?」
??
わが、まま…?
「旦那様…?それは、…」
ご冗談ですか?と聞きたかったけれど、旦那様は真面目なお顔。
真面目なお顔も素敵なのですが…。
それがわがままなのであれば、きっと私はもっと欲張りな…駄目な妻です…。
「あぁ。でも…許されるなら…」
「なんでしょうか、旦那様」
旦那様の言葉を遮るなどと良き妻の姿ではない…はしたないとは思うのですが、旦那様のわがままなのです。
きっと『良き妻のすすめ』も目をつぶってくださるはず。
「貴女の名前を呼んでもいいだろうか?」
え?
名前?
旦那様が、私の名前を…?
「いや、嫌ならば」
「嫌ではありません!よ、呼んでください…私の名前…。」
慌てて首を横に振って、思わず名前呼びをねだる。
「よかった…ユウ」
それだけで旦那様は嬉しそうな、蕩けるように優しい笑みを見せてくださる。
ただ名前を呼んでいただいただけなのに、きゅっとなって…ふわふわする。
もし…許されるなら…。
「旦那様。私からもお願いがございます」
「なんでも言ってください。なにか欲しいものでも?」
「…旦那様のお名前をお呼びしてもよろしいでしょうか?…それから、言葉遣いも…その、もっと砕けた…殿下とお話しされていたような旦那様の話しやすい言葉で、話していただけないでしょうか?」
…ふ…ふたつも、お願いしてしまった。
『良き妻のすすめ』だと旦那様にねだるなどとはしたないと書かれていたけれども…。
沈黙が痛い。
やっぱりはしたなかったでしょうか…。
「…俺の…名前を呼んでくれると?」
旦那様の声に慌てて頷く。
「はい!旦那様が嫌でなければ…ですが…」
「嫌なわけない!すごく嬉しい!」
ぎゅっと抱き締められたかと思うと、旦那様の満面の笑みが広がる。
喜んでくださった…嬉しい…。
無意識のうちに、笑顔が零れた。
その笑顔をみて旦那様…ヨウ様が赤くなるのはそのすぐあとだった。
そんなヨウ様を見て、あの日分からなかった答えを、私はようやく知った。
――溺愛って、こんなにも幸せなものだったのですね。
「愛している、ユウ」
そう言ってくださる旦那様は、今日も私の横で笑ってくださる。
だから私も。
「えぇ、私も、愛しています。…ヨウ様」
今日も。
明日も。
明後日も。
ずっと、この先も。
ヨウ様の隣で。
お付き合いありがとうございました!




