一緒に、帰りましょう。
目の前の彼女は黙り込んだまま、俺を見ていた。
あぁ、もうおしまいだ。
あのくそ殿下のせいで、彼女に引かれたじゃないか。
重くならないように…。
彼女の負担にならないように…。
細心の注意を払って…。
そうやって、少しずつ夫として認めてもらえたらよかった。
なのに…。
「あの、旦那様…」
申し訳なさそうに小さく呼び掛ける彼女。
「あ、あぁ…どうしました?」
今さら繕っても仕方ないだろうが、それでも意地というものが…。
「私、旦那様の妻でいていいですか?…愛されていると思って…いいでしょうか?」
「…は?」
思わず間抜けな声が零れた。
「え…?」
「当たり前でしょう。俺は貴女を愛しているし、貴女以外を妻にするつもりは毛頭ない」
不安そうに揺れた彼女の瞳に、慌てて言葉を紡ぐ。
「そうですか…よかった」
そう言って安堵するようにはにかんだ彼女のなんて愛らしいこと…。
恐る恐る抱き寄せれば、小さく掴まれる服。
幸せとは、こういうことをいうのだろう。
幸せに浸りたい気持ちと彼女の背に見える殿下のにやけ顔に殴りたい気持ちとを押し込める。
「…こほん。今日はこれで仕事を切り上げます。一緒に家に帰りましょう」
驚いたように俺を見上げる彼女。
遠慮するかのように小さく口を開く前に
「私が貴女と過ごしたいんです。駄目でしょうか?」
と言葉を重ねれば、彼女は少し考えるように目を伏せるが
「…嬉しいです」と小さくはにかんだ。
「すぐに支度をしますから、お待ちください。
…ということで、私は帰ります。」
にやつき顔のシュトライヒ殿下を振り返りそう宣言する。
「あぁ。もちろん、構わないが。」
「それから、一週間ほど休みます。引き継ぎはエガリテ侯爵閣下にお願いしています。私がいなくとも仕事は回るでしょう。」
エガリテ侯爵閣下の名前を出せば、シュトライヒ殿下の顔が固まった。
公正公平なエガリテ侯爵閣下はサボりに厳しくシュトライヒ殿下の苦手な人の一人だ。
なお、シュトライヒ殿下のせいで新婚生活を邪魔されたことも耳にいれたため、配慮してくださるだろう。
「ちゃんと、仕事してくださいね?」
人の新婚生活を散々邪魔しやがって。
…ざまぁみろ、シュトライヒ殿下。




