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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十二章 『くぐつ名義考』
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4. 〝サルタヒコの謎を解く〟

「サルタヒコの謎を解く」(藤井耕一郎)から

「あの、くどいようですし、また怒られてしまうかもしれませんが」

 巴が取り出したタブレットの上で指を滑らせ、別のウィンドウを見せる。

「昨日もお話ししたタニグクですが、これはローマ字表記なら『TANIGUKU』です。そして、この内のT、G、U、Uは、『UGETSU』のうちの四文字です」

「それはいくら何でもこじつけじゃ?一部が合う程度じゃアナグラムとは言えないだろ?」

「雨月校長は、三年前、校長になる前ですが、帰国後大学の講師をしていた時にウルヴズ問題にギリギリ掠る内容の本を書いています。当然それほど部数は出ていませんが、特にこのあたりは地元ですから、それぞれの図書館には所蔵されています。題名は『Es ist Kain!』。これは英語で言う『It is Cain!』と同じです。雨月一陽の本の題名は、聖書の中で、アベルの血が殺人者である兄カインを告発した、という節からつけられた題名のようですが、これを『Es=Kain』と考え、『UGETSU』のうちのE、SをK、A、I、Nに置き換えれば、『TANIGUKU』とのアナグラムが成立します」

 田村が画面を無言で見つめる。

「ウルヴズの解錠権限者は、先日田村さんがおっしゃったように、各方面の要請で増え続け、現在は誰も把握できないほどになっています。例えば地方自治体で言えば、以前は助役や副知事までだったのが、部長、更には課長にまで広がっています。そして公立学校の校長は、県で言うと課長級となります」

「タニグクは、野宮君ではなくて雨月校長だと?」

「又は、野宮伝と雨月一陽の両者とも意味するものかも知れません。そうすれば道成寺九重彦ともつながります。例えば、道成寺九重彦が雨月一陽を通じて野宮伝を操っていたという可能性もありますし、野宮伝は、自身の目的のためにその状況を利用した、とも考えられます」

「で、それも、箙司馬が、『わかる人にはわかるように組み込んでおいた』ってこと?」

「あ」

 巴が田村を見つめ、そして目を伏せた。

「すみません。『|自分を頭がいいと思っているバカ《スマートアス》』みたいな発言だったかもしれません」

「あれ?巴の口から出るとは思えない言葉が聴こえたような気がする」

「私自身、そういうところがあるのは否定しませんが。ただ、あのようなCDをわざわざ部屋に残す意味がわかりません」

「それは多分、道標(みちしるべ)だ」

「道標?誰に対して?」

「巴あての」

「はい?」

「巴は、どうして雨月校長が書いた本を知ってたの?」

「え、あ、あ、あの、一応出版されてる本ですし、同じ地域出身ですし」

「俺は少なくとも、巴が言っていた古事記と日本書紀の違いからして気づかない。雨月校長が書いたって本のことも、同じ地区にずっと住んでるのに初めて聞いた。核酸塩基の暗号解読なんて、やろうとも思わないだろうし、多分、うちでは皆それほど違いはないはずだ。でも、もし巴の推論が正しいなら、箙司馬は、令状も取れなければ暗号を専門機関に回せないこちら側の事情はもちろん、俺じゃ解けなかった謎を解いてくれる警官が浅麓署に来ることを知っていたか、少なくとも期待していたように感じる。もっとはっきり言えば、直接的か間接的かはわからないが、箙司馬は巴を知っていた、と思う」

 田村の言葉に、巴が目を見開く。

「以前も聞いたが、いくら制度が変わって修行期間が長くなったからと言っても、巴のようなキャリアなら大都市勤務が続いてもおかしくない。それが春になってまだできたばかりの浅麓署に来たこと自体不思議だった。でも、箙司馬は、むしろそれを待っていたんじゃないか?」

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