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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十二章 『くぐつ名義考』
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2. 〝不都合な真実〟

「不都合な真実」(デイビス・グッゲンハイム監督 2006年のアメリカ映画)から

「まだヘリがうろちょろしてるよ。地方のマスコミって暇なんだね」

 薄暗くなりかけた空を見上げた萌が呟く。

「今は私たちだって一応はマスコミの立場なんだから、それって、いわゆるブーメランだよ。それに」

 深夜がバックステージを指さす。

「地方だけじゃないよ。ほら、全国放送もあっちに。それだけ重要視されてるってことだよ」

「確かに。たかが公立の学校の十五周年でパンフまで作って、しかも来賓が、知事、県議会、まあ、大げさだけどわかんないでもない。教育長。これは仕方ない。でも、わざわざ文部科学大臣まで来るかね?ノーベル平和賞だか何だか知らないけど。そんなに暇だったらゴルフでもやってろっての」

「仕事熱心でいい大臣さんじゃない」

「深夜が肩持つのはわかるよ? あの文科大臣って、同室だったお婆さんの娘だし」

「そういうわけじゃないけど」

「でも、逆にあいつらのせいであたしたちがこんな状況になってるとも言えるし」

 萌が取材用の二階席への階段を上りながら言う。

「警備は強化されるわ式典が長くなるわで、こっちはいい迷惑だっての。大体、仕事熱心な大臣なんかいるわけないじゃん。全員関心事は保身とゴルフのスコアだけ。男女関係なし!」

「ひどい偏見」

「きれいごと言ったって、しょせん槍作るのを進めてるか、少なくとも放置してる大臣なんてろくなもんじゃないし」

「それはどうかわかんないけど、とにかく、雨月がそれだけ注目されてるってことだよ。私たちも頑張らないと」

「それにあいつの弟って、お兄ちゃんのライバル会社の社長じゃん」

「う、うん」

「どうせあんな奴ら、別荘かタワマンに住んで、お兄ちゃんやあたしたちなんて利用するか弾き出すことしか考えてないんだよ」

「また偏見!」

「環境問題がどうのとか言う前に、お前らの家建てるのにどれだけ鳥や虫や動物追い出したと思ってんだよ」

「タワーマンションはたいてい都会の、もともとビルがあったところだよ」

「そのビルが建つ前の前の前の前のずーっと前には動物が住んでたし。それにあいつら、『環境問題を考えましょう』なんて言うけど、自分たちは冷房や暖房ガンガンつけてんじゃん」

「でも、きれいごとだとしても誰かが言わないと」

 深夜が眉を寄せると、萌が肩をすくめる。

「はあー、ほんとに深夜は深夜だね」

「それに、伝さんだって会場の設営と撤去で来てるんだよ。待機中に萌ちゃんの仕事っぷりだって見てるかもしれないし」

「やばっ」

 萌がコンパクトミラーを取り出して髪を直し始めた。それから、隣の微笑を睨む。

「何か文句ある?」

「あ、いえ、別に」

「あんたも、ネストとしての初の大仕事なんだから、がんばんなよ」

「はい」

 微笑が頷く。深夜がその肩に右手を伸ばす。

「そんなに緊張しないで。大丈夫だから」

 微笑が半歩飛びのき、そして深夜に笑顔を向けた。

「あ、ありがとうございます、深夜先輩。微笑、もう一度会場をぐるっと見てきます」

 そう言って走り出す微笑を、右手を上げたまま深夜が見送る。

「エミちゃん?」

「あいつも相変わらずわかんないね。まあ、いいか。あたしたちも段取り確認しとこ。キモオタの奴、どこ行きやがったんだろう。それに、八島クンも」

「砧さんは機材なんかを車で持ってきたから、裏の方にでもいらっしゃるんじゃないかな。八島さんはどちらだろう。一応荷台に毛皮も隠しておくっておっしゃってたけど」

「三年のくせにさぼってやがるんだ、きっと」

「でも、あの二人だけで大丈夫かな?あんな事件もあったし、心配だよね」

「大丈夫でしょ。現実、景清クンと呉服サンは、真昼じゃないけどあたしたちの中では最強の盾と矛なわけで」

「それはそうだけど」

「そんな心配大人にまかせとけばいいじゃん。警察も来てるし。あの気に入らない女も含めて」

 窓の外を見下ろした萌が顎をしゃくった先に、田村と巴が並んで歩いるのが見えた。

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