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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十章 『生物と無生物のあいだ』
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4. 〝ニュースの真相〟

「ニュースの真相」(ジェームズ・ヴァンダービル監督 2015年のアメリカ、オーストラリア映画)から

 更に北上し、小田井宿に入る。

「公式にわかっている範囲だけでも毎年プール金が積み立てられているようですし、先ほどの試算の五割増しくらいまでの経費なら問題なく捻出できるでしょう。そもそも、そういう背景がありますから、『赤字だからできません』とは絶対に言えません」

「子供の手によるものだけど、大人の事情で潰せないわけね」

「そしてその窓口になる者は、これも概算で三千万から四千万の斡旋手数料が毎年入ります。同時に、七億越えの大口顧客の窓口ですから、組織内での発言力も非常に強くなるでしょう」

「まあ、そうかもね」

「他の可能性もあります。IT大手『GN』が子会社『GNロジスティクス』を作り、ヴェーバーの物流版の準備をしているようです。例えば、野宮伝が情報やノウハウ、ツテを持ってGNロジに役員待遇で迎えられる、ということも考えられます」

「ええ?」

「先ほど『六年前』と申し上げましたが、部員だけで配達していた時期は過去にもありました。十六年前、雨月でのネスト創設時、野宮伝が部員だったころです。そして当時の部長が、先日私たちも会った、現在の雨月学園御代田中等教育学校校長、雨月一陽ですが、彼女はGNからGNロジに移った、道成寺九重彦と四年前に結婚し、三年前に離婚しています」

「まじですか」

「一方、ほぼ断絶関係だったようですが、その母親、道成寺圓博士が、埼玉の施設から軽井沢の自宅に戻った時、引越しをしたのが野宮伝でした」

「何か、そこまで行くとでき過ぎだよね」

「そうかもしれません。でも、ネストの出身であり、かつての同級生が部数増大の爆心地の校長、そして現在妹がネストに在籍する野宮伝は、背景を考慮しても、この窓口の最右翼の一人です」

「じゃあ、それが目的でこれまでの一連の事件を起こしたっての?野宮君が?校長と共謀して?」

 田村が笑った。

「いやー、彼には何度か会っているけど、さすがにそんな商才も度胸もないだろ?日々右往左往する、俺と同じ小市民だよ」

「経済的利益だけが目的なら、田村さんがおっしゃる通りかもしれません」

「と言うと?」

「田村さんが二年前に担当された絵馬真昼の死亡事故から、野宮伝はずっと雨月に関わっています。同時に重傷を負った絵馬深夜の救命はもちろん、その後のリハビリでもあらゆる面から助けています。そして銀行強盗グループとの接触というリーク、事件へのあらゆる関わり」

「うーん、やっぱでき過ぎかな」

「更にその妹、野宮萌も絵馬真昼、深夜の友達。三人は幼い頃からきょうだいのように育ち、本当に密接な関係を築いて来たようです。例えば、実の妹である野宮萌は、二年前の事故までは、中学生でありながら全国版の雑誌に載るほどの人気モデルでした。たまたま古書店にあったこちらにも」

 巴が二年前の日付のティーン雑誌を取り出す。しゃれた洋服を着た萌が笑顔を浮かべている。田村が横目で見て、「へえ」とだけ答えた。

「当時は尋常ではない人気で、一時は東京でのデビューの話もあったといいます。ところが、事故を機に地元の雑誌以外での扱いがほとんどなくなりました。『オーディションに落ちた』とか『お偉いさんに嫌われた』などと言っているようですが、実際には県外での撮影は全て断っている、というのが真相のようです」

「態度はともかく、確かにきれいな子だよね」

「絵馬真昼の事件の時は沖縄で撮影でした。おそらく、そばにいられなかったこと自体がトラウマになっているのでしょう。そして、そんな密接な関係の三人にとって、野宮伝は兄、というか保護者のような存在でした。妹である野宮萌はもちろん、絵馬深夜、真昼ともとてもかわいがっていたようです。そんな三人のうちの一人を失い、更に一人を失いかければ、例えどんなに好人物でも、何かがおかしくなっても不思議ではありません」

「うーん」

「テロには資金が必要です。対象が何であれ、弟のような存在だった絵馬真昼を失った彼が、同窓生の雨月一陽の協力を得て、何らかの破壊活動を企てている、とは考えられないでしょうか?又は逆に、彼のその感情を利用して、雨月一陽が操っている、という線もあり得ます」

「巴に言われるとそんな気もするけど、もう少し冷静に考えた方が良くない?」

「それに、絵馬深夜が入院していた時も、立件はされていませんし、いろいろな意味で罰せられることもないと思いますが、不審な事件が」

 巴が一度深呼吸をしてから言った。

「不審な事件が、二つありました」

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