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頑磨、大地に立てない!


新世紀エヴァンゲリオンというアニメが好きだ。

映画は最高だが、TV最終回のおめでとうの拍手もたまらない。

これを見てないなんて人生の半分を損している。


ジョジョの奇妙な冒険という漫画が好きだ。

お決まりの何部が一番面白いかという議論など胸が躍る。

これがわからないなんて人生の半分を損している。


ドラゴンクエストというゲームが好きだ。

タイトルごとに違う魅力もあるが、シリーズを通しての魅力がある。

これをやってないなんて人生の半分を損している。


計算が合わないだと?

だから貴様はアホなのだ!


誰が俺の人生の半分だと言った?

損しているのは、お前の人生だ!

儂の人生は貴様の人生の何千倍だ!


見ろ、読め、やれ!

人生を損するぞ!


以上が世界で一番のエリート校、東京秋葉原にあるオタク学園、その学園長の言葉である。

この考えはすでに世界の常識となっていた。


日本のアニメ、漫画、ゲームを中心としたいわゆる日本のオタク文化。

それをどれだけ知り、語り、愛したか。

それこそが人生を謳歌している証であり、人間の価値を測る唯一の指標なのだ。


人生とはオタクの道。

オタクを極めた者こそが勝者。

そしてオタクの優劣を決める方法が、オタバトである。

オタク学園では今日も、オタバトが行われていた。


「お前のようなGガンダムもわからん女に、とやかく言われる筋合いはないな」

「あんたみたいな、マリア様がみてるすら理解しない男に、何がわかるっていうの?」


学食堂で隣り合っただけの学生服の男と女は、あっという間に口喧嘩を始めた。

ヒートアップした二人は当然のごとく、同じセリフを言う。


「「オタバトを申し込む!」」


ドタタタタ!

周りの人間が速やかに机と椅子を片付け始める。

すぐにジャッジがやってきた。


「9年の関口智一と、同じく9年の植田佳奈子のオタバトを始める!」


白と黒の縞の服を着た、オールバックの男性がマイクを持って登場する。

胸にはオタバトの公式ジャッジである証のバッジが付いている。

ジャッジはお題箱から、一枚の紙を取り出した。


「お題は、名言当てクイズ! お互い名言を言って、言った者を当てよ」

「「望むところ!」」


どこからともなく、二人の女子がやってくる。


「さぁ、始まりました~。本日最初のオタバトです! 実況はわたくし、ヨッシー改です。名言当てクイズということですが解説の中野さん」

「クイズということで知識の勝負になりますが、名言というのはジャンルを超えますからね。これは選ぶセンスの勝負といってもいいですね」

「なるほど~、どうやら関口くんから行くようですよ」


関口は悩んだ末にフリップを出す。


『人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて地獄に堕ちろ!』


それを見た植田はあっさりと答えを書いた。


『機動武闘伝Gガンダム ドモン・カッシュ』


「関口くん、植田さんがGガンダムには詳しくないと見たが、これは即答」

「この程度は知らないほうがどうかしています。5年生カリキュラムのガンダム(基礎)で習いますし。出題ミスですね」

「さぁ、ここはマリみてで行くのか、変えてくるのか」

「マリみても7年生の百合(基礎)でかなり詳しく習いますからね」


植田の回答が書かれる。


『嶺上開花』


様子を伺うようにフリップを出す植田。

ポーカーフェイスの関口。

ざわ…ざわ…とするオーディエンス。

2人の応酬を見て、実況が声を上げる。


「ああ~っと、これはー? 私はそもそも読めな~い」

「考えましたね、仮にセリフをアニメで知っていても漢字がわからないと答えられませんからね」


どうだ、と眉を上げる植田。

関口は不敵な笑みを浮かべた。


『咲 宮永咲』


フリップをドンと出して笑い出す関口。


嶺上開花リンシャンカイホウくらい読めないわけがないだろう」


拳を震わせて悔しがる植田。


「今の勝負はどうですか、解説の中野さん」

「リンシャンカイホウはタダの麻雀の役ですが、世間一般としては咲の名言として認知されていますからね」

「そうですね、リンシャンカイホウと言えば咲、咲といえばリンシャンカイホウですね。これで1対1のイーブンです」


関口はすぐにペンを走らせた。


『かわいいは、正義』


ハッとする植田。


「なるほど名言です、よく使われますよね」

「それこそ日本人で知らない人なんて、いないですよね」


植田の顔に汗が流れる。

もちろん、知っている。

知っているが、あまりにもよく見かけるため初出オリジナルがわからないのだ。

ニヤリ、と口角を上げて関口は早くも勝利を確信していた。

植田は、ぐぬぬという声を漏らす。

様子を見ていたジャッジが口を開く。


「正解を言えるか、関口くん」

「これは苺ましまろのキャッチコピーだ」

「それでは駄目だ。言った者を当てるルールだ。この場合、言葉を最初に発表した者となる」

「な、何? コピーを考えた人物ってことか?」

「そうなるな」


関口は慌てた。

キャラクターや漫画家ならまだしも、コピーライターなど知る由もない。

この場合、ルールでは問題を出したのに正解を知らなかった関口の負けとなる。


「里見英樹さんだろ」


ぼそりと、その場に居合わせただけの男が言った。

ざわ……ざわ……

あっけにとられる勝負中の二人。


「な、な~んと意外な結末を迎えた~!?」

「これは予想外でしたねえ」


ジャッジが結論を出す前に実況と解説は片付を始めた。

あまりの異常事態に周囲が騒ぎ出す。

一人の女性がその男に近づき、人差し指を突きつけた。


「あなた何を考えてるの!? オタバトに口を挟むなんて、恥を知りなさい俗物!」

「な、なんだ? ハマーン様か?」

「よく言われるけど違うわ!」

「よく言われるのかよ……」

「生徒会役員の早見メニアよ、覚えておくがいいわ」


やり慣れているのだろう、ビシッと腕を振り下ろし決めポーズをとる。


「おお、あの史上最年少の13歳で学園100位以内になった……」

「8年生で唯一の生徒会役員、メニア様じゃないか」


有名人の登場に周りの生徒達が騒ぐ。


「ふ~ん、あんた有名なんだな。 俺は昨日転校してきたばかりで何もわかんねえんだ」

「あ、あなたが噂の転校生、松岡頑磨マツオカガンマ!?」

「俺って噂になってるのか?」

「そりゃそうでしょう、自己紹介をしろって言われて何でダカール演説をするわけ? ティターンズの横暴ぶりよりも目に余ると思うわ」

「一回やってみたかったんだよ」

「大体、最高学府たるこの学園に8年生で転校してくるなんて前代未聞よ」

「そ~かい」


椅子の前足を浮かせながら、対して興味もなさそうに返事をしたことに早見メニアは少し腹を立てた。


「オタバトの邪魔をしたことは、転校生だからと言って許されません」

「困ってるみたいだからちょっと助言しただけじゃんか」

「どこが助言ですか、完全に正解そのものじゃない」


二人のやりとりに、周りからは感嘆の声が漏れた。


「今のが正解って言い切れるなんて、流石はメニア様」

「それにしても今の回答を知ってるなんて転校生って何者なの?」


それらの意見を聞いた頑磨は、眉をしかめてぼそりと言った。


「里見さんは有名だと思うけどなあ。よつばと!のプロデューサーとしても装丁デザイナーとしても」


こいつ何者? とメニアは思った。

メニアは家庭教師の一人である漫画評論家から聞いたことがあったので知っていたが、この学園で習うことはない人物だ。

それを有名だと、大した知識ではないと言い放ったのだ。

静観していたジャッジが周囲の騒ぎ声を制止するように強めの声を出す。


「このオタバトは第三者の介入で没収試合とする。松岡くんにはペナルティとして10敗が付与される」


関口は周囲に隠すこともなく、ホッと胸を撫で下ろした。

それだけ1敗しなくてすむことが有り難いのである。

ジャッジの台詞を受けて早見メニアは松岡頑磨に食って掛かる。


「あなた、転校生ってことは0戦0勝ってことでしょう? 今0戦0勝10敗になったのよ?」

「そうみたいだな」

「史上最低の戦績だわ」

「そいつは名誉だな」


かんらかんらと場にそぐわない笑い声をあげた。

その態度がますます少女の声を強くさせる。


「笑い事ではないわよっ!? この学園では戦績による序列が全て。あなたはダントツの最下位なのよ?」

「あんた随分俺のこと心配してくれるんだな。意外といいやつなのか?」

「はっ、はぁ~!? 別にあんたの心配なんてしてないわよ。それに意外とって何よ!」

「様付で呼ばれてるような奴だからなあ」

「周りが勝手に様を付けてくるのよ!」


この事態に全く動じていないこの少年に、メニアは苛立ちを隠せなかった。

自分の立場だったらと考えたら、想像するだけでも冷や汗をかく。

頑磨は何にも考えていなさそうな顔で、間の抜けた声を出す。


「なーに、11勝すりゃいいんだろ、楽勝楽勝」


メニアは右手で自分の顔を覆ってかぶりを振った。

やはり何もわかっていない。


「果たして勝負を受けてくれる人がいるかしら」

「なんで? いるだろ」

「ダントツの最下位に勝っても何の意味も無いじゃない。序列上がらないし。しかも深い知識を持ったオタクだと言うことが今、知られてしまった。あなたに勝てる見込みは低いわよね?」

「あ~なるほど、あんた頭良いな?」

「あなたがアホなのよッ!」


テンションが上りきったメニアはそこで気がつく。

ジャッジと実況と解説、そして勝負していた2人はいつの間にか去っている。

残ったここにいる全員が、今やこの二人に注目しているということに。


「わ、私は忙しい身だから失礼するわっ」


何やら恥ずかしくなったメニアはその場を立ち去ることにした。

取り残された頑磨は、右手を上げて言った。


「誰か俺とオタバトしてくれませんか~?」


頑磨は蜘蛛の子を散らすように、全員が去っていくのを見る他無かった。



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