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Fランク魔王と魔眼メリエス  作者: はかまだ
一章 【独立】
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5話 人間

 目の前の遺跡は、最低でもここ1か月以内に誰かしらが棲みついたと予想できる。

 通常であれば、まだ熟成されたダンジョン構成にはなっていないはずだ。


 斥候に出した【ディジェネスライム】の報告によると、遺跡部分は1階建て、地下は5階層までの規模を成す。

 そこまで深いダンジョンではないけど、如何せんこの遺跡は敷地が広大だ。

 地下も同じ敷地を有しているかは分からないけどね。


「そのスライム便利ですね、こんなの初めて見ました。液体になって地面とか壁を移動できるなんて凄いですよ」

「特製のスライムだからね。種明かしは僕たちがもっと信頼できる関係になったらかな」

「も、もっと信頼できる……ですかっ! そ、それはもう、お、お、お嫁さんって事ですよね?」


 なぜそこまでひとっ跳びで関係が深まるのだろうか。

 まだ友達って間柄でもない気がするし、せめてお付き合いの手順は踏んでもらいたい。


 妄想の中でね。


 さて、どうしたものか。


 ある程度の規模を把握したはいいものの、別のディジェネスライムによれば、地上1階と地下4階までは閑散としているらしい。

 地下5階だけは、結界が張られていて侵入出来ないのだと。


 何故か。


 様々な報告を繋ぎ合わせ、その理由が浮かび上がる。


「もしかしたら、この遺跡は現在進行形で攻略されているかも」

「えっ、なんでですか! だから静かなんですかね?」


 そう。

 レイミーの言う通り、入り口を包囲したのに迎撃らしき動きが全く見られない。

 よほど鈍感な魔王って事なら話は別だけど、ここまで大規模な戦力を揃えていて気付かないはずがないよ。


 そして地下4階に行き着く道中には、おびただしい数の魔物が息絶えていたそうだ。これが決定的に遺跡内部の異常を物語っている。


「魔除けの結界だろうね」

「ですね……となると、地下5階は人間がいそうです」


 魔除けの結界なんて言う魔道具は、人間しか扱わない。

 魔族や魔物を跳ね返すのがそれの効果だからね。


 僕らと同じように魔力を扱うにも関わらず人間には効果がなく、人間に都合よく作られた厄介な代物と言える。



 ◆



 報告通り地下5階の扉までには、大量の魔物が死体となって放置されていた。


「【生命の泉】を回収していないけど、いったい何が目的なんだろう?」

「ですね。となると何か別の目的なのでしょうか」


 死体が残っていると言う事は、生命の泉がまだその体内にあると言う証。


 考えていても埒が明かない。


『と言う訳で、メリエス。この扉に張られている結界を破壊しよう』

『そうね。それはいいのだけれど、少し嫌な予感がするわ。気を付けてねネル』

『ああ。心配してくれてありがとうね』


 一度右眼を閉じて、再度開く。

 瞼を持ち上げたその瞬間から、右眼が熱を帯び黒い炎が噴き出した。


「わっ、またそれですか?」

「後ろにいてくれるかなレイミー。これからこの結界を壊すから僕の視界には入らないで」


 さっきの衝撃を思い出したのか、レイミーはすぐさまピョコっと飛び退り、僕の背中へ回って上着の裾を握り出した。

 きっと僕じゃない他の男からすると、小動物的な愛らしさが女性としての魅力へと直結されるのだと思う。

 クレア程じゃないにしろ、彼女も男子生徒に言い寄られていた記憶があるしね。 


「こ、こうしていれば、あ、安全ですからね!」


 隙あらば密着。


 まあいいや。害はないから放っておこう。

 そう、この子は小動物。竜を従えるウサギとかリスのような小さな愛玩動物だ。。


 そう思う事にしよう。


 目覚めた右眼で扉の内側に張られているであろう結界。その形跡を見落とさないように見回していく。


『あった』

『この揺らぎが結界の位置ね』


 転位眼が結界を対象と認識したと同時。

 そこに刻まれている、膨大な情報が右眼を通して脳内に流れ込んでくる。

 ここから結界としての在り方を決めている情報を、別の情報に転位させるのだ。


 とは言え、魔道具に内包される情報など、生き物や空間に比べれば大した量じゃない。


『うん、やっぱりこの結界の持ち主は人間だね』

『ええ。しかもかなりの手練れ……のようね』


 珍しくメリエスが言い淀んだ。

 しかし、その気持ちはなんとなく理解できる。


 手練れは手練れでも、この人間の魔力からは痛い程の殺気が溢れ出ている。

 人間のようで人間じゃない。そんな感覚だ。


「扉が開くよ! いつでも戦闘出来る準備をしといてね。それと、中にはやっぱり人間がいる。かなり危ない奴だから、もし敵わないと思ったら僕には構わず逃げるんだ。いいね?」

「そ、そんなに怖い人間なんですか? でも、分かりました。ネルさんの言う通りにします」


 と、ここで、扉の向こう側からとてつもない威力の波動が襲ってくる。

 あまりにも異様な魔力の奔流に対し、反射的にディジェネスライムを放って様子を探らせた。


 チラと横目にレイミーの顔を見ると、心なしか強張っているのが分かる。


「さて、お手並み拝見と行こうかな。僕が独立して初めての戦闘だからね」

「……は、はい」


 本来なら既にレイミーと戦闘しているはずなのに、って言う皮肉だったんだけど、当の本人は気が付いていない。

 「わたしが初めての戦闘じゃないんですかっ!」って言う突っ込み待ちだったんだけど。


『お馬鹿……』


 そうだね、緊張をほぐそうと試みた僕が馬鹿だったねメリエス。



 ◆



 結界を破った向こう側には、これまでの凄惨さが可愛く思える程に、むごたらしい光景が広がっていた。


 扉を開けると小部屋があり、その先には1本の通路が真っ直ぐ伸びている。

 この先には大部屋があり、そこがいわゆるボス部屋、魔王の玉座が置かれていると報告が入った。


 そしてこの小部屋には、人間、魔物問わず死体の山、山、山。


「うっ、むごたらしい……敵味方関係なく殺したような感じですね」

「かもしれないね」


 ここで混戦になったのは明らかだ。

 小部屋の中心で爆発でもあったのか、死体が壁に打ちつけられたような跡が見られた。

 死体の山は壁伝いにいくつも重ねられている。


 圧倒的な武力を前にして無差別攻撃でもされないと、こんな両者入り乱れた死体の山にはならない。

 やはりこの先には、殺人鬼とも言える魔王か狂人がいるのだ。




 偵察隊の報告によると、ボス部屋では今もなお人間と魔王とが一騎打ちの最中だそうだ。


 どちらかが倒れるまで、様子を見た方がいいだろうか。


 いや、そんな面倒臭い事しなくても、魔王も人間も一気に殺してしまうのがいいね。


「レイミーは後から来て大部屋の手前の通路で隠れててくれる? いくら竜の使い魔でも巻き込んでしまう可能性の方が高いからね」

「えっ、そ、そんなに強い人間が中にいるんですか?」

「ん~、どちらかと言うと、僕の攻撃に巻き込んでしまう、って感じかな」


 そう言うと、一度魔導書(ブック)に戻していた攻略スライムセットを再召喚させる。


「こ、このスライム達はそんなに凄いんですか?」

「まあね。そんじょそこらの魔王や人間ならすぐに片付けられるよ」


 あまりピンと来てなさそうに、レイミーの顔はポケーっと呆けている。


 まあ、ピンと来てくれなくてもいいんだけどね。

 この後、嫌でも思い知るだろうし。


「じゃあ、行ってくるよ」

「は、はい! お気を付けて!」


 夫婦のようなやりとりをしてしまった事は少し悔しいけど、気にしてる場合じゃないね。


『お馬鹿……』


 右眼が疼くと、呆れられてしまう始末だし。


 気にしない。先を急ごう。


 じめっとした通路を奥の部屋へ向けて走り出す。

 僕の目の前には、カタパルトスライムが既にバレットスライムを体内に装填し、およそスライムとは思えない速度で駆け抜けていく。


 【拡張】と【魔動】の魔術(ガルドラル)も既に展開。


『メリエスも準備よろしく』

『了解。解析は任せて』


 と、示し合わせた所で、奥の部屋が見えて来た。


 そこに扉はなく、中では小柄な女魔王と、長身の人間が向きあっている。


「何なのだ貴様はぁ! さっさと殺されてしまえ! 何回も斬ってやってると言うのに何故死なないのだ!」

「ふっはははははぁ! 何が魔王だ! 何が魔物だ! 俺のチートの前にゃ雑魚っしょ、雑魚!」


 魔王の手には、大ぶりの鎌が握られている。

 それを見るに、あの魔王がBランクである事が予想された。


 それにしても、あの人間。

 魔王を前に随分と威勢がいいみたいだね。


 ただ、鎌の魔王が劣勢の様子だから、その実力はかなりのものと思った方がいいかもしれない。


『Bランクのヘヴィマンティスか。また珍しい魔物を使い魔としているね』

『あっちの小娘魔王がここの遺跡の主で間違いないのだけど、それより、あの人間に見える男、あれ人間じゃないかもしれないわ』


 転位眼による情報に何か違和感でもあるのだろうか。


『人間じゃないって、どう見ても人間じゃない?』

『いえ、人間じゃないわね……少なくとも、この世界の生き物じゃない』


 こうして少しの解析結果が得られたところで、大部屋へとたどり着いた。


「ぬっ? だ、誰だ!」

「あん? なんだよ魔王の仲間か?」


 戦闘の真っ只中とは言え、僕の登場はその手を止めるだけの衝撃を与えた様だ。

 対峙していた2人が一斉に僕の方へと向き直ると、これまた揃って言葉を発した。


「僕の名はネルテスタ。ランクはFだよ。そっちの鎌の魔王に用事があるんだけど、人間の君はここへ何しに来たの?」


『あの人間の情報、解析できる? 少し時間作ってみるからさ』

『そうね。やれるだけやってみるわね』


 注意をこちらへ向けて、カタパルトスライム10匹を左右に展開させる。


「お、おいっ! Fランクが何しに来たのだ! はやく逃げろっ、この人間は化け物だぞ!」


 Bランクの魔王、どうやら名前は【サリー・テンデル】と言うらしい。

 

 サリーは姐御肌な魔王なんだね。

 Fランクとは言ったって、僕も魔王なんだから、ここで殺して生命の泉を回収すればいいものを。

 でもまあ、悪い魔王ではなさそうだから、利用価値があればこっちの同盟に誘ってみるのもいいかな。


 充分な時間を解析に費やせば、魔術(ガルドラル)などの詳細も割り出せるんだけど、今は人間【トモヤ・クボタ】の正体を突き止めた方がよさそうだ。


 Bランク魔王のダンジョンをあっという間に攻略する人間。

 いったいどんな素性の持ち主なんだろうね。

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