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Fランク魔王と魔眼メリエス  作者: はかまだ
一章 【独立】
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3話 理由

 レイミーと空竜が木々をなぎ倒してくれたおかげで、周囲に潜む獣や野良の魔物達が騒めき始めている。


 この森の出口付近には拠点候補の遺跡があって、もしそこに他の魔王がいたら、こちらの様子を探って来るだろう。


「血盟により契約せし我が化身 ここに顕現し我に平伏せ!」


 さっきレイミーが唱えたのとは、若干異なる召喚句。

 これは召喚してから指示を出すときに用いるものだ。


 空竜とは違い、僕の使役する魔物はFランク。

 すぐにその姿を現すと、足元までやってきて(ひざまず)いた。


 「跪いた」って言うのは、そんな雰囲気がしているだけ。

 なぜならその使い魔は1匹のスライムだから。


「この先の遺跡に行って、魔力反応があるか、もしあったら敵性反応か調査してきてくれ」


 そう指示を出すと、鈍色をしたスライムはポヨンと頷き、液状となって地面に吸い込まれるように消えていった。


 本来のFランクスライムにこんな芸当は出来ないけど、僕の魔物は全てが【魔改造】したオリジナルだからね。

 液体にも気体にも変質する優れた【使い魔】なのだ。


 さて、とりあえずあの子の様子を確認しとかないと。



 ◆



 レイミーは空竜の背の上で気絶しながら落下した。


 背の低い木がクッションとなり、大きな衝撃は避けられたのだろう。

 見た感じでは、数カ所にかすり傷が出来ているだけだった。


 空竜は既に召喚が解除され、レイミーのそばからは消えている。

 魔力の供給が途絶えた空竜は、強制的に魔導書(ブック)の中へと戻ったのだ。


『助かったよメリエス、ありがとう』

『気にしないで。わたしはあなたを最強の魔王にしてみせる。それがあなたの眼になった理由だもの』


 オリビア家の次にお世話になっているのが、今脳内で僕と会話している【魔眼メリエス】だ。


 僕を最強の魔王にする。

 何かあると、彼女は口癖のようにそう言ってくれる。


 メリエスとの出会い。

 少し昔に起きた、とある出来事に思いを馳せようとしたところで、レイミーの体がピクリと揺れる。


 地に落ちた衝撃が大した事なければ、そろそろ目覚める頃合いだろう。

 元々そう予想していた通りに、彼女の意識はほんの数分で復活した。


「ん、ん……いたっ、いたたたた」


 どうやら腰を打ちつけていたらしい。痛そうにさすりながら上半身だけを持ち上げる。

 ゆっくりと辺りを見回すレイミーと僕の視線が重なった。


 こちらとしては、目が合うタイミングを待ち構えていた。


「大丈夫?」


 用意していた言葉は社交辞令でしかないけど。


 それよりもレイミーは僕の顔を見て完全に意識が復活したみたいだ。

 混乱気味に目を白黒させた後、やがてその視線は僕に集中した。今自分が置かれた状況を整理しているようだ。

 数秒固まった後にガバっと立ち上がり、そのままの勢いで僕の肩を掴んできた。


 まあでも敵意もないし、何より今のレイミーは魔力を扱う事は出来ない。

 転位眼の能力によってね。


「ね、ネルさん! 目は、目は大丈夫ですか!」


 この第一声は意外だ。

 右眼から噴き出した黒い炎は余程の衝撃を与えたんだろうね。


 それにしたって、僕との戦いを楽しんでいた獰猛さが嘘のようだ。

 二重人格なのかな。

 それとも、戦闘狂?


 僕と対峙した時の彼女と、そして今僕を心配してくれてる彼女とでは、言い得ないズレのようなものを感じる。

 僕の考えすぎかもしれないし、これがレイミーなのだと言われたらそれまでだけどね。


「目は大丈夫だよ。それよりも、僕の質問に正直に答えてくれるかな?」


 せっかく心配してくれているところ悪いとは思う。

 しかし、一度でも僕に敵意を向けた相手に、心配されるのは気が引ける。

 それよりも今は、彼女が僕を襲った理由を聞き出さなくちゃならない。


 ここで殺して、彼女の核【生命の泉】を回収してもいい。

 Aランク魔王の核であれば、かなり高純度の結晶が取れるはずだから。


 しかし、それは少しもったいない。

 そうするのは、明らかな『敵』と判明した後でいいだろう。


 今のレイミーならば、僕じゃなくても簡単に殺せるからね。

 何せ彼女は今、思いのままに魔力を操れないのだから。

 そして、当の本人も自身の身体に起きた異変に気が付いたようだ。


「ま、魔力が湧いてきません……なんで……」

「なんでだろうね。僕の質問に答えてくれたら、いや、その答え次第では教えてあげてもいいよ」


 この言葉は、暗に僕の仕業だと言っているようなものだ。

 でもそれでいい。


 交渉の鍵は誰が握っているか。

 彼女にはそれを理解してもらいたいからね。


「わ、わかりました……」


 レイミーはそう言うと、言われてもいないのに正座をして居住まいを質した。


 遺跡の様子も気になるし、サクッと終わらせてしまおう。


「なんで僕を襲ったの?」

「す、すみません……先ほども言いましたが、ネルさんは学校で本当の能力を発揮していませんでしたよね?」

「続けて」


 僕が聞いてる側だからね。それに答える必要はない。


「少なくとも、わたしにはネルさんが何かを隠している様に見えたんです。それに……いつもオリビアさんと仲が良さそうで……」

「それだけ?」

「い、いえ……でも……」


 ここに至り、彼女はまだ言葉の堰を切ろうとしないのか。

 余程、言いにくい事でもあるのだろうか。

 もし、敵対派閥の回し者であったら、惜しいけどここで殺しておかなくちゃならないなぁ。


「言えない? なら僕は君を敵と見做して、相応の行動に移すだけだよ」

「あっ! い、いえ……言います! 言いますので聞いてくださいっ!」


 なんだろうこの感じ。

 レイミーが言いにくそうにしている言葉がまったく予想出来ない。


 彼女は既に魔力を失った弱者だ。それは本人が一番分かっているとは思う。

 だからこそ、僕の問いに素直に答えないリスクを何故しょい込むのかが理解できない。


 何が彼女の口を重くしているのか。


 だが、レイミーは決意を固めたのか、俯きながら噛みしめていた口をやっと開き始めた。


「ネルさんは育成学校の2年目。課外演習でエンポリス山脈に登った時の事を覚えていますか?」


 確か、使い魔との契約をするために行った学年の全体演習だった気がする。


「覚えてるよ。そう言えばレイミーはあの時、酷い怪我をしちゃったっけ」

「は、はいっ! そ、そうです。あの時ネルさんに治療してもらったお陰で大事にならなくて済んだんですよ! その節は本当にありがとうございましたぁ!」


 若干興奮しているのだろうか、レイミーは言いながら前傾姿勢で膝立ちの状態になり、バランスを崩しそうになっている。

 感極まっている感じでどこか嬉しそうだ。


 じゃあなんで僕を襲ったんだと突っ込みたくなる衝動に駆られてしまう。


「それで?」

「あ、はい。それでですね……凄く言いにくいのですが、実はあの時わたし決めたんです……」

「何を?」

「はい……ネルさんのお嫁さんになるって決めたんです!」

「え?」


 興奮高まったレイミーは、遂に膝立ちでこちらへ歩きながら、戦闘の時に見せた顔に変化している。


 いや、とりあえずこの件はひとまず脇に置いておいて。


 そんな理由で僕を襲ったって言うの?

 まったくもって訳が分からない。


 だけど、空竜を引っ張り出してまで僕を追い詰めたって事は、それだけ学校での僕が本気を出していなかったと確信に近い分析をしていたのかも。


 結果はこの通り、僕が本気を出せばレイミーのようなAランクでも渡り合えてしまう。


 そう言う意味では彼女の観察眼は見事なものだよね。


 だけど。

 それはそれ。

 

 今にも抱きつきそうなレイミーのオデコに右手を突っぱねて、これ以上の接近はかろうじて堰き止めている状態。

 しかしレイミーは更に大胆な行動を取ろうとしている。


 仕方がない。

 見せたくは無かったけど、僕のもうひとつの魔術(ガルドラル)を使うか。


「少し落ち着いてよレイミー」

「これが落ち着いていられますかぁ!」


 と、僕の右手に抱きついて、グイッと引っ張ろうとした瞬間に、付与系とは違う操作系の魔術(ガルドラル)【魔動】を発動した。


 大気に浮遊している魔素を操作して、物理的な干渉を可能とする魔力を創り出し、それでレイミーの上半身を縛り上げた。


「な、なんですか! こ、これもネルさんの、ネルさんの能力ですか?」


 何だって言うのか。

 縛り上げたって言うのに、レイミーはどこか恍惚とした表情で嬉しそうに言い寄って来る。


 ここで僕はふと思い出す。


 確か僕は、『誰が交渉の鍵を握ってるか』。

 それをレイミーに分からせようとしていたはず。


「わ、わたし、ネルさんが大好きなんです。

 だけど、いつも隣にはオリビアさんがいるし、成績でも首席を明け渡してしまったし、そんなわたしじゃネルさんのお嫁さんに相応しくないと思ったんです!

 でも、もしネルさんの秘密をわたしだけが知っていたら、もうそれはふたりだけの秘密じゃないですか!

 だから、ネルさんの本気を見れば少しでもお嫁さんに近付くと思いまして……あ、何を……んぐっ、もぐぐっ!」


 これじゃまるで、僕が翻弄されてばかりじゃないか。


 ちょっと悔しい。


 だから結局上半身だけじゃなく、足と口にも魔力の紐を結ってしまった。


 しかしどうしたものか。

 まさか、襲われた理由がそんな私的な事情によるものだったなんて。

 僕はこんな事の為に、メリエスを呼び起こしてしまったのか……。


『ご、ごめんよメリエス』

『あら、いいじゃない。どうせならクレアもこの子も囲ってあげたらどうなのかしら?』

『な、何を言ってるんだよ。囲うとかそんな……』

『そう? まんざらでもないんじゃないの? 鼻の下伸ばしちゃって。ネルもまだ男の子って事ね』


 いや、伸びてないし。


 しかし、やっぱりメリエスを怒らせてしまったようだ。

 こんな事の為に、わざわざ魔眼を解放させてしまうなんて、本当に申し訳ない。


『……同じなんだから』

『え、なんて言ったの? 今度、生命の泉丸ごと飲み込んでいいから機嫌直してよ。ね?』

『ふんっ。もういいわよっ! 別に機嫌悪くなんてないしぃ!』

『そ、そうなの?』


 メリエスは怒ると急に子供っぽくなる。

 あまりこの状態になる事はないんだけど、だからこそ僕はこういう対処に慣れていないんだ。


 と、ひとしきり僕の困惑が極まったところで、調査に向かわせていたスライムが戻ってきた。


 どうやら、目的の遺跡には既に他の魔王が拠点を置いているらしい。

 でも、そこは僕が第一候補に考えていた遺跡なんだよね。


 とりあえず、乱れた精神を整えて作戦を練ってみようかな。

※レイミーについて。

 ネルに好意を抱いた時のお話が14話と15話の間に綴ってあります。

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