21話 魔女
機甲魔装。
生命の泉を元にしてエルフが精製する【属性石】と、ドワーフが長年培ってきた鍛冶が発展した【機工】を合わせた技術をそう呼んでいる。
属性石は四大属性を内包する魔石で、それを機工によって作り上げた武装に組み込む事で機甲魔装が誕生した。
武器としての機甲魔装は、各属性の魔法を魔力の消費なしに撃つことが出来る。
属性石のみならず、魔石と言われる物はその中に魔力を蓄える性質を持っている。
属性が混ざっていなくとも機甲魔装として使う事が出来、無属性の魔石を組み込んだ機甲魔装は防御面で大いに活躍する。
矛にもなれば盾にもなる、汎用性の高さがこの技術最大のメリットであった。
人間や魔族と違い、亜人族は魔法の扱いが苦手な者が多く、機甲国家フォーレンが出来るまで人間界において酷い迫害を受けていた。
しかし、そんな亜人族に手を差し伸べたのもまた人間。
初代国家元首であった、ジクトル・フォーレンと言う男は、研究畑の鬼才として知られ、エルフやドワーフの技術に強い興味を抱いていた。
逆に、そんな技術を危険視する声が圧倒的に多かった。
放っておけばいつかは人間を脅かすかもしれないと。
少数派だったフォーレンは亜人族の長老に根回しをし、今の国家を作りあげたのだった。
ひと口にそうは言っても、そこまでの道のりは険しいなんて言葉など生易しい。
多くの犠牲を払い、亜人族はフォーレンと言う英雄の力を借りて、ようやく安寧の地を手に入れたのだ。
今までも、人間からの侵略を退け、魔族、魔王からの猛攻を凌いできたのだ。
だから、この任務を任された機甲魔装部隊の隊長【ジョセフ・キンギル】は誓う。
祖国の窮地を救う鍵、遺跡の奪取を必ずや成し遂げると。
しかし。
「そ……そんな……こんな簡単に負ける……なんて」
決死の覚悟はあった。
ザリウスに生存第一と厳命されてはいたが、最悪でも遺跡の魔王と刺し違えるくらいのつもりではいた。
だが、そんなキンギスの想いは、ネルの置いて行った魔物達に打ち砕かれた。
「シザリー。殺したら駄目だぞ。ネル様は生け捕りにして捕虜にしろと言っていたじゃないか」
「あ、そうだったな。すっかり忘れていた」
開戦の口火を切った序盤だけは、スライ達へ混乱を与える事に成功した。
奇襲されたゴーレムゴブリン2体の頭を吹き飛ばしたまでは、キンギルの思惑通り。
それを皮切りに、属性石を埋め込んだ機甲魔装で一斉放火を浴びせる手はずだった。
だが、ネルの【拡張】とサリーの【変異魔形】を合わせた魔術を使い、シザリーが【硬化】させたゴーレムゴブリンには、その後の攻撃は一切効かなくなる。
その隙に、パラサイトスライムを地面から接近させて背後を取る。
機甲魔装部隊は攻撃に集中しているのだから、地面の異変になど意識が向くはずもない。
そうして敵の背後で気体へと変質させたパラサイトスライムは、自身に内包する酸素を全て吐き出して次々と敵の頭から覆い被さった。
酸素の供給が絶たれたフォーレンの手練れたちは次々とその場でもがき苦しみ、最後には意識を失ってしまう。
わずか数分での幕切れ。
最終的にはスライの【魔動】によって機甲魔装部隊は全員が拘束され、結局すべてがネルの想定通りとなったのだ。
◆
話は少し遡る。
リックが無残な最期を迎え、サリーの心が病んでいた頃。
ネルはレイミーに遺跡を任せ、ダンジョンギルドへの登録を済ませていただけではない。
機甲国家フォーレンは、Dランクまでの魔王までは出入りが比較的容易であり、それを利用して情報収集に奔走していたのだ。
ただ、容易とは言ってもCランク以上は出入りできないためにそう言えると言うだけだ。
実際は入国審査に半日近くかかるし、入国出来ても厳しい監視の目が付く。
国家認定の証書があればまた話が変わってくるのだが、初めて訪れたネルは衛兵に付き添われながらも、潜入に成功して情報を集めたのだった。
鎖国状態のフォーレンであるから、資材や食材の調達に苦労する。
人間と商談するのは、虐げられていた時の苦しい過去によって許容できる事ではなかった。
そこで、低ランクの魔王、魔族の稼ぎ口として、行商を依頼していたのである。
意外にも亜人族は、人間よりも魔族とのほうが友好的なのだ。
当然であるが、いくらFランクでも魔角を生やしていたら門前払いだったろう。
ネルが訪れた時点で遺跡の所有者はまだサリーだったから、その点に苦労はしなかった。
そしてネルは、大した労も要せずにフォーレンを内側から見た情報を入手したのだった。
『魔眼メリエス』の力を借りて。
この国が現状抱えている問題。
もし遺跡がオリビア派閥の魔王に占拠されたらどう出るか。
しかもそれがFランクであったならば。
手に入れた情報をそんな観点から整理し、ある程度の予想を立てていた。
きっとフォーレンは少数精鋭、それもトップの戦力で奇襲してくるだろう。
だからネルは遺跡の戦力を急ぎまとめ上げたのだ。
留守中に侵攻があってもいいように、過剰とも言える戦力を作り上げた。
生命の泉収集と防衛線の確立。いわば一石二鳥の準備をしていた事になる。
想定した範囲内の敵戦力であれば、留守を任せた魔改造魔物軍が余裕をもって対処し得る。
そんな確信の中でネルは帰郷したのであった。
◆
スライ率いる遺跡の魔物軍が戦地を制圧した頃。
オリビア邸のダイニングルームは異様な空気に包まれていた。
遺跡の急襲をグレンからの報告で知ったダレルは激怒。
事態はネルの想定範囲の内に収束していたのだが、当然ながらここにいる誰もがそれを知るはずもない。
ただし、ネルは断言した。
「問題ない」と。
当然ながら、ダレルはその根拠を知りたかった。
そして、それが先日グレンからもたらされた【魔眼】の能力から来るものではないかと予想したのだ。
魔眼の性能も既に聞いている。
だが、ネルの口からその情報がもたらされるまでは、飽くまでも予想の域にとどめておきたかった。
その魔眼の正体がダレルの知っている【魔女】の物であるならば、やはりネルから直接聞かなければ、いや、その正体を見るまでは信じられなかったのである。
本来であれば久しぶりの再会をゆっくり堪能してから、今日という日の締めくくりに話題提起をするつもりだったのだ。
とは言え、ダレルは怒りを鎮めている最中でついその事に触れてしまった。
その瞼の下に魔眼を宿しているであろうネルが、あまりにも自信に満ちていたから。
「ネル……その眼は……やはり」
と、いよいよもってダレルが本題に入ろうとした時だった。
「お父様っ、そのお話は夜にと言うお約束じゃありませんか! 日中はわたしにネルを独占させてくれるお約束でしたのに」
そう。
魔眼について知れると心待ちにしていたダレル同様、クレアもまたネルとの一日を胸が締め付けられるような想いで待ち続けていたのだ。
そんな娘の苦悩の日々を見て来たからこそ、ダレルはクレアと約束を交わしていた。
となれば、我慢するのは必然。
「そ、そうだったな。すまなかったクレア」
クレアがダレルに対し、ここまで邪険に言い放つのは稀である。
だから、魔界の盟主と言えど、ついつい父親の顔になってたじろぎを見せてしまった。
「ああっ、もうこんな時間。ネルっ、出かけるわよ」
「え? って、だって朝食がまだ……」
「いいから行くわよ。だって、きょ、今日はわたしの我がままいっぱい聞いてもらうんだからね!」
早口でそう言ったのは照れ隠しだ。
このままでは、ダレルがいつまた魔眼について触れてしまうかも分からない。
だから、別に急ぐ必要もないのに、出まかせを言ってネルを連れ出そうとした故の羞恥だった。
ネルをここまで引っ張て来た時と同様に、クレアはネルの腕に絡みついて、そそくさと部屋を出ていこうとする。
しかし、ダレルは一点だけ、どうしても確かめておきたい事があった。
「ちょっと待てネル。ひとつだけ聞かせてくれ」
クレアに引きずられながらも、ネルは声の方へと首を捻って肯定の意とした。
「その魔眼はメリエスのものなのか?」
「いいえ、メリエスそのものですよ」
そう言ったネルの言葉で、ダレルの顔が固まる。
そんな光景を最後に、ネルは扉の向こうへと連れ出されていった。
いつもお読みくださってありがとうございます。
ネット小説大賞と言うものに、身の程もわきまえずエントリーしてみました。
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