第42話『畑のその後』
第42話『畑のその後』
以前訪ねた畑のことを、クロードは時々思い出していた。
あのときミーニャは、作物が元気に育つよう毎日お願いしていると言っていた。
あれからどうなったのだろう。
ある日、クロードはエリスに尋ねてみた。
「母さま、前に行った畑、また見に行ってもいい?」
「あの畑ね。何か気になることがあるの?」
「作物が大きくなったかなって。それに、ミーニャにも会いたいんだ」
「そう。私も畑の様子は気になっていたのよ」
エリスは少し予定を考えてから、都合のつく日に一緒に行こうと約束してくれた。
クロードはその日が来るのを楽しみにした。
◇
屋敷から少し歩いた先の畑には、以前と同じように働く人たちの姿があった。
エリスが畑の人へ声を掛け、近づいてもよい場所を確かめる。
付き添いの使用人とともに歩いていくと、畑の端で草を集めている女の子が見えた。
「ミーニャ!」
呼ばれた女の子は顔を上げ、クロードを見るなり笑った。
「あっ、クロード! また石を見に来たの?」
「今日は畑を見に来たんだよ」
「石じゃなくて?」
「石も気になるけど、作物の方」
「へえ、珍しいね」
ミーニャは抜いた草を籠へ入れてから、手の土を軽く払った。
「ミーニャ、まだお手伝いの途中だよね?」
「うん。でも少しなら、一緒に見て回れるよ」
エリスも畑の人と話しながら、二人が見える場所にいた。
「ねえ、こっち見て」
ミーニャが指したのは、畑の端にある小さな作物だった。
葉が何枚か開いているが、隣のものと比べるとまだ背は低い。
「これ、前はもっと小さかったんだよ」
「大きくなったの?」
「うん。葉っぱも少し増えたと思う」
「前は何枚だった?」
「えっと……そこまでは数えてない」
ミーニャが困ったように笑うので、クロードも笑った。
自分だって前に来たときの葉の数までは覚えていない。
それでもミーニャには、毎日見てきたからこそ分かる違いがあるらしい。
「でもね、あっちはまだ小さいままなの」
少し離れたところには、葉の色が悪く、背丈も揃わない作物が残っていた。
クロードはしゃがんで眺めたが、どこが違うから育ち方まで変わるのかは分からない。
「全部が元気になったわけじゃないんだね」
「うん。お父さんたちも、まだいろいろやってるよ」
「ミーニャも?」
「もちろん。今日だって草がいっぱいなんだから」
ミーニャは足元の草を指した。
少し前まで楽しそうに葉を見せてくれていたのに、今度は残っている仕事の量が気になるらしい。
「毎日、大変だね」
「大変だよ。でも放っておけないもん」
ミーニャはそう言うと、小さな草を一本抜いて籠へ入れた。
その手つきに迷いはない。
クロードは以前、作物まで抜こうとして止められたことを思い出した。
「そういえば、今も神さまにお願いしてるの?」
「うん。ちゃんと大きくなりますようにって」
「そっか」
「でも、お願いしただけじゃ草はなくならないからね」
ミーニャは何でもないことのように言って、また草へ手を伸ばした。
クロードには作物を元気にする方法が分からない。
それでも、こうして毎日世話をしている人がいるのだということは、前より少し分かった気がした。
「クロード、そろそろ戻りましょう」
畑の人との話を終えたエリスが呼びに来た。
ミーニャは籠を持ち直し、まだ仕事があるからと畑の方を指した。
「今日はありがとう。また見に来てもいい?」
「いいよ。次はもっと大きくなってるといいな」
「うん。またね、ミーニャ!」
「またね!」
エリスと歩き始めてから、クロードは一度振り返った。
ミーニャはもう畑の端にしゃがみ、草を集めている。
次に来たとき、あの小さな葉はどんなふうに変わっているだろう。
クロードは今度こそよく覚えておこうと思いながら、屋敷への道を歩いた。




