第1話『金属は面白い』
第1話『金属は面白い』
金色に輝く石の写真を見て、小学生の黒木光哲は鉱物図鑑をめくる手を止めた。
角ばった形に、光を反射する平らな面。
どう見ても金の塊のようなのに、写真の下には黄鉄鉱と書かれている。
「……金じゃないんだ」
説明を読んでみると、鉄と硫黄からできているらしい。
鉄といえば、釘や工具に使われている銀色や黒っぽい金属しか思い浮かばない。
それが石になると、こんな色や形をしているなんて。
ほかのページには透明な水晶や、黒く光る磁鉄鉱も載っていた。
同じ地面から見つかる石なのに、どうしてこれほど違うのだろう。
もう一度、黄鉄鉱のページへ戻る。
写真の表面を指でなぞるように眺め、本物を手にしたらどんな重さや感触なのだろうと想像した。
写真だけでは分からないことが、文章を読むと少しずつ見えてきた。
ところが、一つ分かると次の疑問が生まれる。
光哲は気になった言葉を覚え、図鑑だけでは足りないところを別の本でも調べるようになった。
身近な道具を見ても、何という金属でできていて、どう加工されたものなのかが気になるようになった。
目の前の何でもない物に、図鑑で見た石がつながっていく。
分からないことはまだいくらでもあったが、一つずつ知っていくのが楽しくて仕方なかった。
◇
それから長い年月が過ぎ、黒木光哲は製鉄所で主任を務めるようになった。
炉の熱気も、耳に響く機械音も、今では慣れ親しんだ仕事場の一部だ。
赤く熱せられた鋼材が設備の中を進み、加工されて形を変えていく。
あの図鑑をきっかけに興味を持った金属が、今は毎日の仕事になっている。
「黒木主任、ちょっといいですか」
若い作業員が、小さな金属の試験片を二つと検査記録を持ってきた。
「どうした?」
「この二つ、同じ鉄なのに硬さが違うんですね」
「炭素の量や、熱し方と冷やし方が違うからな」
「じゃあ、硬い方がいいんですか?」
「用途次第で、硬くても割れやすければ困ることだってあるだろ?」
光哲は検査記録を並べ、どこを比べればよいか若い作業員に考えさせた。
作業員がもう一度試験片を見比べて頷くと、つい自分も笑ってしまう。
「主任、こういう話になると楽しそうですよね」
「普段は楽しくなさそうか?」
「そうじゃなくて、目が違うというか……」
「ははっ、そりゃ好きなものの話だからな」
◇
仕事帰りに立ち寄った店で、光哲は小さな銅の鍋を見つけた。
表面に並んだ細かな槌目が、照明を受けて柔らかく光っている。
店員に断って手に取ると、丸く整えられた縁に目が留まった。
薄い金属板を、どんな順番で叩き、曲げて仕上げたのだろう。
一度や二度叩いただけで、これほどきれいな丸みが出るとは思えない。
「お料理がお好きなんですか?」
「いえ、どうやって作ったのかなと思って」
「作り方、ですか?」
「この形にするまで、相当手をかけてるんでしょうね」
店員が少し不思議そうに笑った。
光哲もつられて笑い、鍋をそっと棚へ戻す。
銅の性質は知っていても、この鍋を作った職人の工夫までは分からない。
小学生の頃に図鑑を眺めていた時と、同じ気持ちが湧いてくる。
「やっぱり、金属は面白いな」




