052⚫️ベテランの出番
「カナタ、バルハインさん、よく来てくれました。」
「ロイ殿、急な呼び出し、何かございましたか。」
バルハインが尋ねた。
「はい。間もなく、この地にペストがやって来ます。それについて、至急話し合っておきたいのです。」
カナタが息を呑んで問い返す。
「ペストというと、あの……。それは大変だ。すでに発病者は出ているのですか。」
「ええ、もうすぐ王宮に急使が到着します。わたしたちは公国に戻るつもりでしたが、予定を少し延期します。」
「被害予想はついておりますか。」
「バルハインさん、このままでは少なくとも、これぐらいの被害が出ます。」
ロイが提示した書類に目を落とし、バルハインの表情が硬直した。
カナタも声を失う。
「……これは。うぅむ。カナタ殿、抗生物質の備蓄が全く足りない。公国からの空輸は可能ですか。」
「そうだな。……マイロード、よろしいか。」
「はい。向こうでは既に超音速機が離陸しました。第一便は間もなく到着します。今後の連携をお願いします。」
シ・デンカイ垂直離着陸機の編隊が、暗闇の中をヴィンチ村の海岸に近づいている。 だが、小型機によるピストン輸送を繰り返すだけでは、南の大陸の全土は救えない。
‘ゼロ号改輸送機バージョン’、通称‘タラフク’。
抗生物質を限界まで満載した巨体が、公国を離陸しようとしていた。
ヴァルターは操縦桿をグッと握り締め、不敵に笑う。
「ふふん、儂の出番ではないだと? 何を言うか。年寄りをナメちゃあいかん。こういう時は、ベテランに任せておけばよいのだ。」
かつて戦場で剣を握ったその手は、平和な時代にクワへを持つようになった。
そして今また、多くの命を救うために操縦桿をその掌に収め、‘タラフク’はふわりと、夜空へ吸い込まれるように浮き上がった。




