024⚫️だれの手柄?
な、なんと!
もう完成したというのか?
絵描き風情が嘘を申すな!
いや、本当なのか?
カナタ様が検証済みだと!
くっ、そうか・・・いや、よくやった!
だが、なんだこれは?
このような粗末な袋に入れて献上するのか!
無礼な!
だが、この迅速な対応に免じて許して遣わす。
温情に感謝するがよい!
ダレオレ様、このサトラップが作らせました!
ご覧ください!
これが収穫高倍増の種でございます!
あっ、急なことでしたので、このような粗末な木箱で申し訳ありません。
いえ、は、はい、ありがとうございます!
陛下、お待たせをいたしました。
件の種をお持ちいたしました。
この箱でございますか?
はい、当家の職人が粋を結集して作り出した化粧箱でございます。
はっ、この箱は10日もかけて作り出した一品。
どうぞお納めください。
レグナスは差し出された贅沢な箱の中にある奇跡の種を見つめた。
まだ、わかっていないようだ。
予が欲するは種であって、箱ではないのだ。
さて、世界線をかえた逸話を挟む。二十世紀と呼ばれたとある時間軸での出来事である。
南方熊楠は、生物学から民俗学、宗教学にいたるまであらゆる領域を網羅した圧倒的な知識量から、まさに「歩く百科事典」と称された不世出の奇才である。
十カ国語以上を自在に操り、英国の権威ある科学雑誌『ネイチャー』に生涯で五十本以上もの論文を寄稿した彼の学問・知見は、世界的な水準に達していた。特に粘菌研究における基礎の確立や、新種の発見、さらには神社の森を守るために展開した日本初のエコロジー運動など、彼が遺した先駆的な功績は今なお色褪せることがない。
そんな常識に縛られない天才肌の性質を、最も色濃く象徴するのが陛下との逸話である。一九二九年、熊楠は和歌山県の神島で陛下をお迎えし、自らの研究成果である粘菌についての進講を行った。その際、貴重な標本を納めて献上したのは、宮中の慣例であるような豪奢な桐の箱ではなく、市販されていたミルクキャラメルの空き箱であった。
格式を重んじる周囲の者たちは一様に肝を冷やしたが、陛下は熊楠の飾らない実質主義と純粋な学問への情熱をむしろ大いに面白がり、後年までこの型破りな出来事を懐かしそうに振り返られたという。権威におもねることなく、ただ自然の本質を見つめ続けた熊楠。菓子箱などに詰められた無数の標本は、既存の枠組みを飛び越え、世界のすべてを網羅しようとした「歩く百科事典」の生涯そのものを凝縮していたかのようである。
レグナスは一呼吸を置いてダレオレを褒め、種子の普及に全力を注ぐように命じた。
傍らに佇むカナタは王の心中を思い、苦笑を堪えている。




