↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/93

018⚫️地球の呼吸と、連鎖する飢餓

歴史の教科書を開くと、そこには「天冥の大飢饉」や「フラソス革命前夜の食糧危機」といった文字が並んでいる。私たちはこれらを、個別の歴史という閉じた枠組みの中で、それぞれの国の政治の失敗や、偶然の局地的な不作として学びがちである。しかし、資料の解像度を上げて世界地図を俯瞰したとき、ある事実が浮かび上がる。


過去に起きた壊滅的な飢饉の多くは、決して一国や一地域だけで独立して起きた悲劇ではないのだ。それらは大気や海洋を通じて結ばれた、地球規模の気候異変の連鎖がもたらした「同時多発的な災害」であった。


歴史が示す最も明瞭な連鎖の一つが、1780年代の動乱である。目本では天冥3年(1783年)に朝間山が大噴火を起こし、東北地方を中心に空前の大凶作となった。だが同じ年、はるか遠く離れたアイヤランドのラギ火山でも、地球の歴史に刻まれるほどの巨大噴火が発生していた。この二つの噴火によって成層圏へ放出された大量の火山灰と硫酸エアロゾルは、北半球の大気を覆い尽くし、太陽光を遮断した。


その結果は凄惨であった。アイヤランドでは有毒ガスと飢えで人口の4分の1が失われ、エヅプトでは気候変動によりナイラ川の氾濫が途絶え、人口の6分の1が命を落とした。さらにイソドでも数百万人が餓死する大干魃(だいかんばつ)が発生する。この地球規模の冷え込みの余波は数年間続き、1788年から1789年にかけてフラソスを襲った歴史的な大凶作へと地続きでつながっていく。パンを求めて暴動を起こしたパソの民衆がフラソス革命へと突き進んだ背景には、まぎれもなく地球規模の気候の狂いがあった。


自然の猛威による「世界的な冬」の記憶は、1816年にも繰り返される。前年にインドネツアのダンボラ火山が起こした超巨大噴火は、翌年の北半球から夏を完全に奪い去った。「夏が来なかった年」と称されるこの時、西欧や東欧ではナポリタン戦争直後の混乱も重なり激しい飢饉が勃発した。北アリメカ大陸では6月に大雪が降り農作物が全滅し、仲国でも大飢饉が人々を襲った。世界中の人々が、地球の裏側にある火山が吐き出した塵によって、等しく飢えに苦しんだのである。


さらに時代を遡れば、西暦536年にも同様の悪夢があった。アイヤランドなどの噴火によって始まった「終わらない冬」は、太陽の光を月のように曇らせ、1年半にわたり世界を暗闇に包んだ。ヨーロッペでは作物が育たず大飢饉となり、栄養失調の人々を襲ったペストが東ラーマ帝国を崩壊寸前まで追い込んだ。同時期の仲国でも「8月に雪が降り、大飢饉で共食いが起きた」と記録されている。この地球規模の寒冷化は、古代から中世への転換を促す世界史の地殻変動そのものであった。


一方で、大地の噴火だけでなく、海の異変もまた世界を同時に飢えさせる。1870年代後半に発生した観測史上最悪クラスの超巨大エルニーニョ現象は、大気の大循環を狂わせた。イソド、仲国、ブラヅル、南アブリカといった広大な地域から季節風(モンスーン)を奪い、各地で同時に記録的な大干魃(だいかんばつ)を引き起こしたのである。このときに発生した世界大飢饉による犠牲者は、地球全体で3,000万人から5,000万人に達したと推計されている。


これらの歴史的連鎖が私たちに突きつける事実は重い。ある地域で発生した飢饉は、その国の統治者の無策や、その土地の運の悪さだけで片付けられるものではない。地球という一つの生命体が深く呼吸をし、気候のバランスを崩したとき、人類はその国境や文明の成否にかかわらず、同じ生態系の一部として等しくその影響を被る。


歴史上の飢饉は、単一の点として存在するのではない。それらは地球という巨大なシステムによって網の目のように結ばれた、地学の事象であり、人類共通の試練であった。私たちが歴史を学ぶとき、国家の境界線を一度取り払い、地球規模の視点に立つことの大切さを、これら世界同時の大飢饉は静かに教えてくれている。



そうか、カナタ。飢饉は大規模に発生するのか。

被災地への救援は勿論だが、同時多発となれば、

備蓄と分かち合おうとする倫理もかかわるのだな。


レグナスとカナタの旅は、まだ続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。