反転
お読みいただき、ありがとうございます。
第一章も佳境に入ります。
ここから、流れが変わります。
ざわめきが、昨日とは違っていた。
講義室に入った瞬間、空気が揺れる。
視線が刺さる。
――だが。
あのときのような、冷たいものではなかった。
(……なんだよ、これ)
わずかに眉を寄せる。
嫌な既視感と、違和感。
(気持ち悪いな……)
歓迎でも、敵意でもない。
中途半端な視線。
それが一番、居心地が悪い。
「なあ、司」
声をかけられる。
振り向くと、見慣れた顔。
だが、その表情は硬い。
「ちょっと、いいか」
ひとり、ふたりと集まってくる。
距離が近い。
あのとき、離れていった連中が。
(……近ぇよ)
無意識に一歩、引きそうになるのを止める。
「……何だよ」
軽く肩をすくめて返す。
わずかな沈黙。
そして――
「……ごめん」
一人が、頭を下げた。
「は?」
「俺ら、完全に勘違いしてた」
「ちゃんと調べもせずに、勝手に決めつけて……」
「ほんと、悪かった」
声が重なる。
頭を下げる数が、増えていく。
ざわめきが、広がる。
(……今さらかよ)
胸の奥に、わずかに熱が灯る。
怒りか。
呆れか。
自分でも分からない。
(あのときは――誰もいなかったくせに)
一瞬だけ、思い出す。
視線を逸らされた日。
声をかけても、返ってこなかった日。
あの空気。
言葉が出かける。
だが――
飲み込む。
「……終わりか?」
淡々と告げる。
顔を上げる連中。
「気にしてない」
あっさりと切り捨てる。
責めない。
怒らない。
それで終わり。
――のはずなのに。
(……嘘つけ)
心の奥で、冷たく呟く。
消えてない。
消えるわけがない。
(まあ、どうでもいいけどな)
それでも、表には出さない。
席に向かう。
そのとき。
――ガラッ。
(またかよ)
息を吐く。
「……浅いな」
静かな声。
龍神葵。
入口に立つだけで、場が締まる。
その言葉を聞いた瞬間。
ほんのわずかに、口元が緩みそうになる。
(……言うじゃねぇか)
「事実も見ず、流れに乗るだけか」
誰も反論できない。
その光景を、横目で見る。
(その通りだろ)
冷めたまま思う。
だが――
どこか、少しだけ。
救われたような感覚があった。
葵が進む。
隆二と翠へ。
(終わったな)
「証拠は揃っている」
ざわめき。
視線。
崩れていく二人。
それを見ながら。
司は、ふっと息を吐いた。
(……ダサすぎるだろ)
でも。
胸の奥に残る。
――価値のある人間だ。
(……あいつ、ほんと何なんだよ)
視線を逸らす。
それでも。
ほんの少しだけ。
世界が、違って見えた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少しずつ流れが変わってきました。
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