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□第6話 魔石に魔力をぎゅー

「あっ」


 6歳のケントが握った魔石の放つ青色(・・)の光が、にわかに強くなる。

 失敗を悟ったケントは、そのままその魔石を遠くに放り投げた。魔石は100mほど軽く飛んでいくと爆発し、あたりに水を撒き散らしたのだった。草原の雑草からしたら、ありがたい話かもしれない。


「うーん、うまくいかないわね……」


「おかーさん、もういっかい!」


「まだやるの? ……はい」


 ハシモトがやってきて、ケントに無色魔石を握らせてみてから、一月ほどが経つ。

 このままだと、将来的にどう考えても事故る。アカネ監修のもと行われていた魔法関連の訓練に、「魔石に流し込む魔力の操作」というメニューが加わったのは当然だ。


 ケントはというと、変な方向で才能を発揮している。

 流し込む量の調整――要するに、ふつうの人と同じことをやる、という目標は、わずか2日で達成してしまった。元から、一切魔力を流さないのはできていたのだ。

 ほんの一瞬、ほんの少しだけその制御を緩めてからすぐに止めれば、一般人100人くらいの魔力が通って、いい感じに魔石が光ることがわかった。魔石試験を通るだけなら、これでよい。


 問題は、ケントが、新たな無色魔石の活用法を見つけてしまったことにあった。


 練習にはそりゃあ失敗がつきもので、ケントも例にもれず数十個の魔石を爆発させ、そのたびにアカネが魔法で放り出すなり障壁で囲むなりしていたわけだ。

 そんな、爆発寸前の魔石をまた一つ、アカネが風魔法と重力魔法を併用して遠くに飛ばした。たまたま、命知らずの若いドラゴンが飛んでいたので、牽制の意味も込めてそちらを狙っている。

 ドラゴンは若く、自信過剰であった。というか、どんなドラゴンだって石ころ一つをわざわざ避けないだろう。自分が撃ち落されるなんてこと、考えない。ドラゴンはそれくらい強靭な魔物であり、この世界の制空権を握っている存在である。


 ケントが魔力を込め、アカネが打ち出した魔石は、ドラゴンの翼に当たり、その瞬間に爆発を起こした。


 そして。

 翼に大穴のあいたドラゴンが、地面に落ちてきた。


 ドラゴン級の力を持った魔物が、一撃のみによってここまでのダメージを受けることは、通常ありえない。

 それくらい高位の魔物ともなれば、保有する魔力の量も桁違いであり、常に自分を護るように魔力の膜を纏っている。ちょうど、産まれた直後のケントの状態に近いか。

 この膜がなかなか厄介で、魔法による攻撃力を減衰させてしまうのだ。いかに"虹"の勇者アカネといえど、一撃でドラゴンを撃墜したことはなかった。まずは魔力膜を剥ぎ、そこに本命の一撃を叩き込む必要があったのだ。


 ところが、魔力を込めた魔石は、膜なんてものともせずにドラゴンに痛撃を与えた。

 後で実験・検証したところによると、ドラゴンの体表の魔力を魔石が吸い、それが最後のきっかけとなって爆発を起こしたことが判明した。これによって魔力膜が局所的に剥がされた状態になり、効率的にダメージが入ったのだ。


 アカネはすぐに、これは使える、と思った。見ている感じ、実際に消費する魔力の量は、ドラゴンに通じるような大魔法を打つより少なそうであった。この技術を完璧にすれば、もっと楽に戦えるようになる。

 魔王を倒した今となっては、そこまでして新たな戦闘技術を習得する必要もないのだが、そこはもうなんというか習慣として、勇者は強くなれるように努力してしまうのだ。


 そして、勇者アカネとその息子ケントは、ひたすら無色魔石に魔力を込める修行を始めるのだった。

 アカネは、まず、魔石に魔力を自分の意思で押し込んだことがなかったので、そこの感覚を掴むのに苦労した。舌足らずのケントに教えを請いながら、なんとかしたのだ。自分の息子に教わる勇者、ちょっとかっこわるいぞ。

 ともかく、そこを乗り越えて次にぶち当たった課題が、総量としてどれだけを流し込むかである。


 魔石はもちろんもともと天然ものであるから、大きさと品質にばらつきがある。良質なほど多くの魔力が入るし、質が同じなら大きい方がたくさんの魔力を流し込んでも爆発しない。

 無色魔石に魔力を流して戦闘に用いるのなら、ここを完璧に見切って、爆発するギリギリまで魔力を詰め込んで投擲するべきだ。魔物の纏う魔力をちょっとだけ吸って、それで爆発するのが理想である。


 これが、とても難しい。

 ひとまず、ある程度品質を揃えるため、ヨシトも加わり一家3人で島のちょっと奥まで遠征し、ワイバーンの群れをぎったんばったんと壊滅させて、その魔石を薬液に漬け込むことで練習の材料は確保したのだが。

 やっぱりコントロールが難しいのだ。頼れるのは、魔石に魔力を押し込むときの微妙な抵抗感。これが強まってきた頃をうまく見極めて止めてやらなければならない。


 そんなことをやっているうちに、ケントはまた妙な技術を獲得した。流し込む量の調節はまだなくせに、流し込む属性を選べるようになってしまったのだ。さっきの魔石が青く光っていたのは、水属性の魔力だけを選択的に流し込んだからだ。

 ちなみにアカネもやってみたのだが、あまりうまくいかなかった。いくら意識しようと、どうしても、彼女の得意な火属性になってしまうのだ。


「うーん……」


 ケントがまた妙なことをしでかさないか気をもみながら、アカネも自分の握った魔石に、風属性の魔力を送り込もうと唸る。


「あ、できた!」


 見ると、ケントの手には真っ青に染まった魔石があった。波のような魔力が中で揺らめいてはいるが、ギリギリで外には飛び出してこないほどに制御されている。


「おかーさん、もういっこ!」


 左手で青い魔石を持ったまま、ケントが要求する。

 結局魔力を流し込んでいなかったままの魔石を右手に握らせると、ケントはふんと唸って、そちらに火属性の魔力を込め始めた。

 さすがに難易度が高かったようで、すぐに制御が破綻した。


「あっ」


 ケントは右、左の順で、魔石を遠くに投げ出す。

 赤い魔石が爆発し、周囲が炎に包まれて。次の瞬間、青い魔石が爆発し、ジュウという音とともに火が消し止められた。

 変なところで、器用である。


 アカネは、わが子をほめればいいのか、けなせばいいのかわからなくなってしまった。

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