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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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兄話 4-3 後悔って後から悔いるから後悔なんだ

 もうしばらくオスカ―による大人いじりの言葉が続いた。時々ローラントが相槌を打つ。ローラントもオスカーもかなり思うところがあったようだ。


「そろそろ不毛なことを言うのを止めて眠ろうか」


 ローラントの言葉に僕らは夜着に着替えてベッドに入った。僕が真ん中のベッドで二人が両側のベッドだ。


 しばらくおとなしく目を瞑って横になっていると、気配が遠ざかるのを感じた。

 その事実が悲しい気持ちにさせる。


「はあ~、お爺様もこんなだからセリアテスに信用されないんだよ」


 オスカーはそう言うと起き上がる気配がした。すぐに布団が持ち上がり、僕のベッドに入ってきた。


「オスカー、なんで」

「あのさ、気がつかないとでも思った? どれだけの付き合いだと思ってるんだよ」


 仰向けに横になって僕の手を握ってきた。目を見開いているのに天井を見つめて、横目に見る僕と目を合わそうとしない。


「ミル、なんか余計なこと考えてない? セリアにとっていいお兄ちゃんじゃなかったとか」


 なんでわかったんだろう。


「わからないと思われたとは心外だ。それにセリアのことをうっとおしいと思ったのって、四年前のことだろ。仕方ないじゃん。僕らももっと子供だったし。それに三歳のセリアを連れて森に冒険になんていけないじゃないか」

「だけど、セリアを泣かせた」

「それも仕方がなかっただろ。僕らが悪かったんだから」

「うん」


 目を瞑ると三歳のセリアの姿が浮かんできた。なんでも一緒にやりたがって、小さいセリアの相手をするのが面倒に思えて……。


「あの時ってさ、ちょっとした散策も通る道を変えるだけで冒険に変わったよな。楽しかったなー」


 そう。男同士で……男同士だから無茶も出来た。灌木の隙間を潜ったり、小さな小川を飛び越えたり、低い崖だって飛び降りたりした。


「母上たちには話せないようなこともしたよね」

「おかげでお前たちがいないことを誤魔化すのが大変だったんだぞ」

「そういう兄上だって『僕が隊長だ』って、連れまわしたじゃないか」


 偶に僕らにつき合ってローラントも一緒に森に行った。


「だからさ、自分を責めるなよ、ミルフォード。あの時はそうするのが自然なことだったんだから」

「自然なこと」

「そうだよ。誰だって過ちを犯さずに大きくはなれないんだから。……それよりも、明日のことを考えよう。反省は後でできるんだぞ」


 オスカーの言葉に目が覚めた。そうだ。ポールの予告が当たるとは思えない……いや、思いたくないけど、セリアの性格を考えたら十分ありうることだ。


「これで本当にお爺様が戻ると判断するようなら、僕らだけで動くことも考えないと」

「コモナー執事長に話さなくていいのかな」

「そこは彼がどうにかするだろう」

「姉上は……言うまでもないか。僕らが領地へと主張すれば、力になってくれるだろう」

「ファラントがこっちについてくれたら、勝算はあるんだけど」

「アーマド叔父上は?」

「うーん、難しいかな。祖父に忠実だよね、あの人」

「それなら神官たちは?」

「彼らか。……そうだね、彼らのほうがセリアの気持ちに沿ってくれるだろう。あとはその時の様子次第かな」


 きっぱりとローラントは言った。

 でも今話していても、明日にならないとわからない。

 とにかくセリアが心を煩わせることがなく眠れるようにと祈った。


「心配や対策を考えるのも、無駄になってくれないかな」


 ぽつりとオスカーが呟くように言った。


「そうだな。私たちの話をどこまで汲み取ってくれるか。……何もしなければ本当にセリアテスに嫌われるだけだね」


 見えないけど……黒いものを滲ませた笑みを浮かべているのが、ありありと解る言葉だ。


「だけど……叔父上は手遅れかもしれないな」

「ああ、それな。最初に王宮から強引に連れ出そうとしたのはよかったけど、その後がグダグダ過ぎ。それに叔母上の様子を伺い過ぎだろ。あれじゃあ、セリアテスに信用してもらえないだろう」


 ……そういえばセリアテスが王宮で倒れて目を覚ましてからのあれこれは、詳しく話してないはずだけど……。

 いや、ポールも知っていたくらいだし、調べればわかることだ。

 あの時の目撃者はたくさんいたのだし。


「父上は……母上との仲が改善されたことで……たぶん、元の冷たい関係に戻りたくなくて……だと思う。セリアのことを大切にしていないわけじゃないんだ」

「ミル、叔父上を庇うことないよ。どっちにしろあの態度を見せられたのなら、セリアがどう思うか解るだろ」

「だけど、セリアは優しいから」

「その優しさに付け込んでセリアテスを大事にしなかったんじゃないか! ポールの言葉をよく考えてみろよ。セリアテスを追い詰めたのは叔父上たちだろ。記憶を失くしたくなるくらいに!」

「オスカー!」


 ローラントがオスカーを咎める声を出した。


「悪い。だけど、僕はそう思っている。悪いのはフォングラム家の皆だ。その中でも、大人の、それも両親である二人の責任が重いと思う。いろいろ画策するのが得意なんだからさ、さっさと叔母上と仲直りできるようにすればよかったのに。変なところで気弱になるんだから」


 オスカーのその意見には同意だ。


 僕らはこの後、話をするのを止めて眠ったのだった。


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