Vollendungswerk(フォルエンドゥングスヴェルク)(2)
「ただいま洋子」
「おかえり~」
佐藤洋子は満面の笑みを浮かべた。
レイラは驚きのあまり目をパチクリさせている。ゼーナカディヤがホムンクルスに憑依した?ゼーナカディヤは霊子コンピューターであり、テレパシーやテレキネシス、瞬間移動に至るまで数々の超能力は扱えるものの、幽子は持っていないために憑依はできないはずだ。・・・ということは?
「ゼー姉ちゃん、ひょっとして人工幽子を作れるようになったの?」
「ああ、ずいぶんと時間はかかったがな。ようやく実験できるまでになったよ」
ニィ~っと笑う表情は、紛れもなくゼーである。
「マスター・ブランカが、大量の魂を喰らってくれてな。いくつか分けてもらったのさ」
ヘイゼル・ブランカはアステロイドベルト事変にて1万人のダイバーの魂の緒を斬った後、行き場のなくなった魂を喰らっていたのだという。さすがに1万人分全員ではないが、100や200じゃきかない量らしい。
「いやあ、実際の魂を作る魂糸符のサンプルがたくさん手に入ったおかげで、研究が捗ったよ。この体に憑依したのは、実験魂第1号だ」
「へ~。ゼーってば、すごいことやってたんだね」
屈託なく笑う洋子は霊子コンピューターとなったゼーナカディヤのポテンシャルを理解していない。洋子にとってゼーナカディヤも、自分の二重人格であったゼーでしかないのだから。
「とりあえずさ、適当なスィーツととびきり苦いコーヒーをくれないか?久しぶり、いやゼーナカディヤとして初めての味覚体験なんだ。いろいろな美味いものを味わいたい」
「オッケー。ちょっと待っててね」
佐藤洋子は席を立ち、カフェテラスの厨房へと走っていった。柔らかな笑顔で洋子を見送るゼーナカディヤ。レイラはゼーナカディヤの憑依したホムンクルスのつま先から頭のてっぺんまで舐めるように見つめている。
「おいおい、そんなにまじまじと見るなよ。こっぱずかしいじゃねえか」
「いいじゃん、珍しいんだから。だいたい恥ずかしがるようなタイプじゃないでしょ?」
「確かに恥じらうタマじゃねえけど・・・レイラはアタシの何を見てるんだ?」
「ん。ゼー姉ちゃんの魂の色が視えなくて・・・」
「それで珍しいのか。本物の魂じゃねえからな。霊子を霊波で固めて作った機械の魂みたいなもんだ。アタシは人間じゃないから『人工幽子』じゃねえな。『疑似幽子(Pseudo‑Spectron)』とでも呼ぼうか」
「ふ~ん。そうなんだ・・・」
「良かったら詳しく説明してやろうか?」
「どうせわかんないから、聞かない」
「だろうと思った」
ゼーナカディヤは悪戯っぽい笑顔を見せた。




