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科学とオカルトの交差点(Gravity Ghost Gear開発史)  作者: 高戸 賢二


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敗北の再設計(6)  

 各陣営のESSECI調査船団は冥王星公転軌道上にある太陽系最終補給宇宙ステーション「エヴンタイド・バスティオン」に到着した際に、NSVSになった1万人のダイバーの処遇について話し合った。

 冷徹に考えればエヴンタイド・バスティオンに置いていき、安楽死処分するのが妥当であろう。外宇宙星系の探査と開発に行くのには、間違いなく不必要であるからだ。ただ生かすだけの存在は足枷でしかなく、外宇宙まで連れていく価値は全くない。

 しかしESSECI調査船団には現地恒星系に定住し、自給自足にて生活できるかという実験的要素も兼ねているため、ダイバーたちの家族も同行している。家族の心情を考えると「役に立たないから置いていく」という判断も難しかった。現実に人間の生活において役に立たないものも少なくないのだ。宇宙時代を切り開く過程に於いて、ありとあらゆる事象も受け入れる必要があるのではないか。調査船団の上層部の中には、そういう意見を論じる者もいた。合理性の追求だけでは息が詰まってしまうのも事実である。

 超常戦略局の新たな局長となったキューピー・ナサニエルにも、1万人のダイバーの処遇についての意見を求められた。

 人間の魂というのは幽子(Spectron)と霊子(Spiritron)で構成された魂核子(Psycho Nucleus)が128個連なった魂糸符(Psycho Strands Code)で出来ている。魂核子は幽子の数によって4種類存在することから、4の128乗もの魂の種類があるということになる。つまり無量大数(10^68)を超えた78桁の数字が並ぶのだ。人間の魂は歴史上二つとして同じものがないことが理解できる数字だった。

 仮に人工で幽子を作ることができたとしても、失った魂と同じ魂を作ることはできない。記憶は脳に依存するためNSVSとなっていても記憶喪失は免れているかもしれないが、魂の違いから来る性格の違いは免れない。何よりも肉体に残された魂の記憶とも呼ばれる空糸符(Void Strand Code)と最低でも95%以上が一致しない限り、魂は肉体に定着しないのだ。失った魂を復活させるのは、少なくとも死者の魂を呼び出す降霊術が科学として解明されてからになるだろう。Fold-11になったナカディヤならばともかく、専門外であるキューピーにできることではなかった。

「それならば、NSVS(Noetic‑Severance Vegetative State=魂様意識喪失性植物状態)を文字通り植物として扱えばいいのでは?」

 生物の魂のエネルギー源となる霊子を反物質化させた反霊子(Anti-Spiritron)は、宇宙時代の核となるブラックホールエンジンの燃料となっている。主に霊子は植物から採取されており、広大なG-Cityの大地の40%は森林地帯となっている。酸素供給源であるのと同時に、霊子供給源にもなっていた。

 キューピーの言うNSVSの植物扱いというのは、NSVSとなった肉体から霊子を採取してしまおうという意味である。

 非人道的とも読み取れるが、役立たずにはならない有効活用ともいえる。少なくとも安楽死処分とするよりは、家族の同意を得られるのではないか。キューピーはそう考えた。

 霊子エネルギーは多すぎて困るものではない。むしろブラックホールエンジンを常にフル稼働させることができるようになるのだから、ESSECI調査船団にとって悪い話ではなかった。

 設備としても植物から霊子を採取できる装置を、NSVSとなった肉体のベッドに持ってくるだけだ。それほど難しい設備にならないのも都合がいい。

 将来的にはクローンの培養カプセルを利用して、効率的に霊子を採取することも可能になるだろう。何らかの理由で不要となったクローンの有効活用にもつながることから、各陣営の上層部はキューピーの案を採用することとした。

 各陣営のESSECI調査船団は2週間もの間エヴンタイド・バスティオンに駐留し、NSVSとなった1万人のダイバーから霊子を採取するための資材を補給した。87%もの家族の同意を得たESSECI調査船団は、9000人ほどのNSVSとなったダイバーとともに各星系へと旅立っていったのである。


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