09 世界の動き
厳密に言えば、このMoA計画は、2025年頃から始まったと言える。
二回目の有人月着陸を目的としたアルテミス計画は、当然の事として、何度ものテストロケット打ち上げを行う。
その中に、幾つかの月経由で火星に向かう無人の資材ロケットが有っても、誰も感知できないだろう。
過去のアポロ計画にしても、民衆の注目を浴びたのは11号以降といっても過言ではない。
無人の試験用ロケットを、月の裏側を越えて追尾する者など、民間には居ない。
ロシアは勿論、月面有人飛行を明言した中国でさえ、その先を考えていない訳がない。
要らぬ騒ぎは起こさない。
国の上層部、火星へ向かう者、支援する軍部、一般人の四者四様とも言える動きがある事を知る者は少ない。
いや、事の根本原因を処理しようとする、もう一つの機関があるが、それが話題に出るのは、まだ後の話。
実際、国連も無関係とは言えない今回のMoA計画に似た行為は、多くの国で秘密裏に行われている。
秘密裏に行われる理由は、火星での施設の収用人数に、限界があるからだ。
誰しもが、火星に行きたいと騒いでも、現状の技術では無理な話で、騒がれない為には知られなければ良いと言うのが、一部の人間の判断だった。
隠れ蓑として、月面に基地を建設していると言うニュースを流しているのも、火星移住計画が騒がれた過去を有耶無耶にする手段の一つだ。
将来的には、火星移住計画を表面化する事もあるだろうが、今はその時ではないと、各国のトップは考えている。
そんな詳細を知る者は少ない。
このプロジェクトの真の意味を知る者は。
多くの参加者は、大規模な流星雨が予想されているから、地球外へ一時的な避難をするという、集団疎開的な内容で参加している。
ルーシーに至っては、親の権力維持の為の人柱としか認識していない。
月に疎開しないのは、天文学的に地球以上の被害が見込まれるからだ。
その流星雨も、あながち嘘ではないが、隠されているのは、その流星雨の規模に他ならない。
「フランク。例のプロジェクトは成功すると思うか?」
「わからないよ。だから保険の為のMoAなんだろ?ハレー彗星以前から下地ができていたって、できすぎだと思うんだがな?」
「別件で用意した物を流用するなんて、社会では結構ある話じゃないか?」
「じゃあ、その別件って何だよ?ライナス」
「その頃に生まれてもいないし、実際の政治には関わっていない私に聞いて、判ると思うか?」
「・・・・そうだな。済まない」
答えの得られない疑問は、実際には数多い。
得られたと思っても、それが偽情報である事も、誰かの勘違いである事も、少なくはない。
だが、アルテミス計画から半世紀が経とうとしている現在、そのお陰で移住計画は順調に行っているとも言える。
「兎に角、俺らは保険の為に、アソコへ避難するしかないって事だろ?」
「万が一の為にとは言え、私の青春期を潰した、このプロジェクトに不満がない訳じゃない。最後に親への憎しみで終わるか、感謝で終わるか、あと数年で結果が出る」
「判別できるのは2070年。あと、一年くらい先か?」
「私達が帰れるとしても、2075年の状況待ちだがな」
ライナスとフラクリンは、手持ちの情報パッドで、年表を見て溜め息をつく。
「次の大接近は2080年以降だろ?親に孫の顔を見せられるかな?」
「そんなに、先の事は考えるなフランク。後で悲しくなるぞ」
二人は年表を見るのを辞めた。