10 モーラとロケット
世界では、第三次世界大戦とまではいかないが、かなり戦火が広がった時期が存在した。
その時に活躍したのが、超音速で飛び、超高度から爆撃戦闘機を排出する、空中空母モーラだった。
それは、今も定期的に成層圏上部を飛行して抑止力として活躍している。
この空中空母で、ロケットを宇宙へ打ち上げる技術が確立したのは、表面上のアルテミス計画が終わった後だった。
同様の物は、他国も所持しており、国民や世論に隠しながら宇宙開発をする数少ない手段として使われている。
MoA計画でも、打ち上げには、この空中空母が使われる。
だが、モーラの存在を知っていても、ロケット打ち上げに使われているのを知っているのは、軍の一部でしかない。
「こんな物でロケットを打ち上げていたんですね」
新型衛星の打ち上げに、通常の多段式ロケットが報道されている昨今、ルーシーの驚きは、当然と言える。
彼女は、人工冬眠のテストを無事に終えて、リハビリ中に教材として与えられた資料映像を見ていた。
「この様に、低速エンジン部分を切り離した後に、高速エンジンで超高度まで上昇し、背面飛行のままロケットを切り離します。これにより、機密性と燃料を含む数段分の多段式ロケットを節約できるのです」
ガーランド中尉の説明に耳を傾けるルーシーは、これほど大掛かりな宇宙計画が表立っていなかった理由に納得した。
「本計画でのロケット発射は、従来の様に単発での発射ではなく、有人1に対して、物資輸送の5機が同時に発射し、有人機によって誘導されます」
資料映像では、一機のモーラに二機のロケットを積んでいた。
つまりは三機編隊で出発するのだろう。
資料映像でも、黒い空と青い地球をバックに、背面飛行してロケットを切り離すモーラの姿が映し出されている。
「アルテミス計画の時の様な、発射時のGとか無いんですね」
「いいえ、ミス サバラス。ここからの急加速は、重力が無い分、かなりキツイと聞いています」
「あれ~っ、残念」
「大気中の加速でも、気を失う者が出る程です。でなければ、あんな訓練はしませんよ。ははは、」
「ははは、」
ビデオを見る二人に、笑いがこぼれる。
ルーシーの笑いは乾いているが。
「ロケットの推力は、アルテミス計画ではアポロ時代の倍でしたが、現在では約三倍にまで増強されています。失神しないようにしてくださいね」
「三倍だと一日で月まで行くのですね?便利だけど、リスキーですね」
ルーシーは、ライナスから『アルテミス計画の三倍弱。アポロ時代の五倍くらいのスピード』と聞いていたので、多少は腑に落ちなかったが、ガーランド中尉に話を合わせた。
「月までの移動中は、非常時に備えて、人工冬眠システムに入っていてもらいます。全般を通してみると、加速時のGよりも、丸一日の退屈な時間の方が苦痛らしいですよ」
スペースデブリなどで事故が起きても、人工冬眠システムを稼働させれば、延命の可能性もある。
救助が可能な場合は、これが命綱となるのだ。
「映画の放映とかしてくれないのかしら?」
「バッテリーも有限で貴重な資源ですからね。寝て過ごすのが一番ですよ」
宇宙とは、何から何まで制限のある空間だ。
実際には、このエリア51にある様な施設は複数有って、同時期に時間差で出発していくらしい。
ライナス情報なので間違いないだろう。
各施設同士は、存在を知らないので話題にあげるなと言われている。
ルーシー達が旅立った後は、将来的に火星移民などが公になった時のトレーニング施設や、災害時の避難所に利用されるらしい。
今回、この施設からは20人弱が飛び立つが、合計で何人の人間が火星に向かうかは、ライナスも知らなかった。
「リハビリ中に技術研修も進んだ様ですし、そろそろ訓練も再開しましょうか?」
脳筋体質の軍人気質がガーランド中尉の顔に出ていた。
「短かったわ。平凡な時期・・・」
「既にメニューは作成してあります。先ずはランニングマシーンから始めましょう」




