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黒鋼の怪物


 神崎は刀を抜いて一歩前に出た。俺と和葉さんを守るような立ち位置だ。


「貴様は下がっていろ。和葉様をしっかり守れ」


「言われなくてもわかってる」


 神崎が呼吸を吐くのがわかる。一気に仕掛けるつもりか。その間にも敵はゆっくりと近づいてくる。拍手を終えた手をポケットに突っ込んだまま、静かな威圧を放つ。


「いやあ、久しぶりッスねー。黒崎くん。会いたかったんスよ」


「……俺は会いたくなかったけどな」


「ひどいなぁ、そのままの状態でいいんスか?」


 けらけらと笑う。やはりこいつのせいか。肉体を変化させる能力……俺の場合はショタ化になったわけだが、和葉さんから前に教えてもらった情報から感染系だとわかってる。かなり危険な異能なはずだ。


「気を付け、て……。片内(かたうち)の能力は……げほっげほっ!」


「和葉さん!」


 何かを言いかけているが、呼吸が荒く咳き込んでしまっているせいでうまく聞き取れない。かたうち、と聞こえたが……。どこかで聞いた名前だな。


 瞬時に脳内で記憶を探る。


 あ、賭け子が言っていた名前か。


 俺の頭に一瞬だけ神崎に殴られて気絶した可哀そうな顔が浮かんできたが、すぐにどこかへ流れていった。ばいばい賭け子。


「貴様が片内とやらか?」


 神崎もその名前を覚えていたのか、見据えている敵に問うた。すると、それにびっくりしたような表情を返す。オーバーな仕草の割に口調はさほど変わらなかった。


「どこで知ったんスか、俺ちんの名前。公表はしていないはずなんスけどねー」


「倉庫にいたやつらが丁寧に教えてくれたさ。その恰好から見るに、例の『幽霊の心臓(ゴースト・ハート)』とやらだな」


「ちっ、べらべらと……。あとで殺すか」


 さらりと恐ろしいことを言ってのける。依然として、警戒を解かない神崎に対して、片内はまだどこかゆったりとした口調や態度は崩さない。それだけ余裕ということなのか。


 この人数差でも不利にならないだけの異能を持っている、のだろうか。


「気を付け、て……。か、んざき……くん」


「はい!! 和葉様っ!」


 和葉さんの微かな呼びかけに神崎が即答する。おい、よく聞こえたな今の。


「片内の能力は……『悪疫(ゾイス)』よ」


「ゾイス……?」


「肉体に変化を起こさせる能力ね……げほっ! その詳細な効果は、ランダムっぽい、の……」


 ランダムだと……? 何種類か効果があるってことか。そのうちの体が小さくなる効果を俺は受けたってことになるのか。


「おしゃべりが過ぎるッスよー? 自分の異能をべらべら語られるのは気分最悪ッスね」


「和葉さん、能力を解く方法はっ?!」


 片内がぼやいているが、気にしていられない。和葉さんが敵の能力を暴いているならば、俺が聞きたいのはその一つだけだ。


「おそらく、気絶……させれば」


「ふむ、気絶だな」


 神崎が意味ありげに呟く。独り言というか確認に近かった。


 こちらの返事を待たずに、御膳白雪(ごぜんしらゆき)をまっすぐ構えたまま片内の方へと走り出す。一気に距離を詰めて、気絶させるつもりか。電光石火のごとく、走り出した神崎は一瞬俺たちの視界から消えたように見えた。


 次に見えた時は片内の背後だった。横なぎで片内の首筋へと刀を振ろうとする。


 完全に死角だ。二秒後に首が飛ぶ感覚がし、俺はその光景に思わずぎゅっと目をつぶってしまった。


 ダンッ!!!


 鈍い音がし、何かが弾き飛んでいった音が聞こえた。


 そして同時に聞こえる凄まじいまでの咆哮。


「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」


 俺の視界に飛び込んできたのは――。


 二、三メートルほどの巨躯の怪物とその体に恥じない柄の長い黒鋼の大鎌だった。 

 



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