回復の手続き
俺たちがステージから戻ると、出迎えてくれたのは大輝と和葉さんだった。
「お疲れさま。勝ててよかったわね!」
「異能がいつ暴走するんじゃないかってひやひやしたぜ」
「……ああ」
俺は微妙な反応しか返せなかった。
勝利して嬉しいはずなのに、どうしても敵のことを心配してしまう。心に残るというか……。
「お前らも一応治療は受けとけよ。次の試合に響いちゃ話にならないからな」
大輝は快活そうに笑うが、それを好意的にとらえることはできなかった。
そんな俺の反応を正確に読み取ったのか、和葉さんは俺の体に寄り添って言葉を紡いだ。
「小倉くんと花形さんのペアはああいう戦闘でやってきたのよ。あとで事情を説明するわ」
事情だと? あいつらの闘い方になんかの理由があったってのか?
ああいう闘い方しかできない理由ってなんだろうか。やはりキーになりそうなのは花形か。花形自身の過去に何かあったせいで、その問題が自傷を引き起こしている……みたいな?
でもそれだったら小倉はどうして知っているんだ? それを止めようとしていたのも事情を知っていたからだとしたら、つじつまが合うが……。
やはり真相を聞かないとわからないか。
大会をサポートしている『情報科』の生徒たちに連れられて、俺は治癒能力者が待機しているという部屋へ向かった。
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「やぁどうも。待ってたよ黒崎くん」
誰だこいつ。俺の知り合いだっけか?
誘導されて入った部屋にいたのは知らない誰かだった。
『情報科』に一年間いたこともあり、俺の知り合いにいたとしても不思議ではないが、やはり覚えていない。記憶に残っていないということは知り合いではないのかもしれんな。
「わたしだよ、覚えていない? 『原生』の蓮華さんだよ」
その言葉で思い出した。
特殊能力だと言われている治癒系統の能力の一つに『原生』ってのがある。触れたものをもとある状態にする能力だが、それを活用して人体の怪我を治すことができる。
そういや俺が一年生でまだ『戦闘科』に入る前にこの人の能力にお世話になったことがあったかもしれない。いや、曖昧な記憶だけど。
その時は名前なんて聞いてないし、そんな頻繁に出入りすることもなかったので覚えるということ自体がなかった。
逆にこの人が俺のことを覚えているというのがすごい。だってこれで二度目のはずだ。
そりゃ治療した人の名前とかを記録してたのかもしれないが、普通顔を見ただけで思い出せるものなのか……。まぁこの人の記憶力がいいって言われれば話は終わりだけどさ。
「俺のこと知ってたのか?」
「そりゃね。大会に出てる人は一応この用紙に登録されてるし。名前に憶えがあったのさ」
そう言いながらきちんと整理されている机に乗せられていた資料の束から一枚の紙を取り出してひらひらと振って見せる。
どうやら几帳面な性格と記憶力がいいのだろうな。
そう思って、差し出されていた椅子に腰かけた。
蓮華?さんは、両手を俺に向けると、何やら呪文のような言葉を唱え始める。
すると、その手の周辺は黄緑色に光り始めて温かい感覚に覆われた。
だんだん血を流していた個所や擦り傷があった場所が癒えていく。能力の名前通り、元の状態へと体が戻っていった。
「はい、おしまい」
その言葉が聞こえた時には俺の体の痛みはどこかへ消えていた。
服をめくってみても、心臓当たりの傷はきれいさっぱりなかった。
「おお……!」
なんだが魔法のように感じ、少年の心をくすぐる感じがして感嘆の声をあげてしまう。
そんな俺の反応を快く思ったのか、蓮華さんはふふんとどこか嬉しそうな表情をした。
これで終わりなのかと思うとなんだか味気ないというか、いや実際すぐ治るのはありがたいのだが、もう少し見てみたいなんて感じてしまう。
「ありがとな」
「いやいや、試合を楽しませてもらったお礼だよーん。黒崎くんの能力は見てて飽きないからね」
「なんだ、試合見てたのかよ……」
自分ではあまり活躍できなかったから、見られていたとはっきり言われてしまうとなんだが無性に恥ずかしくなってくる。
まぁ試合なんて見世物だからこんなことで恥を感じてちゃ、仕方ないんだろうけど。
俺は一礼して蓮華さんに別れを告げると、約束していた和葉さんのところへ向かうことにした。