56話「決闘トーナメント第1予選④」
「くはっ………」
クアージュが消えた後、すぐにコリンは膝を地面に付かせた。
それも無理はない。いくら体力のある彼女でも高ランク冒険者を3人も相手にしていたのだ。疲れが出ないはずがない。
コリンはひとまず、敵に見つからないように草むらの中に入り、身を潜める。そして、ぶちゅ、とクアージュが放った『小さな矢』を引き抜いた。引き抜いた所から血がダラダラと流れた。
(ん?この草、よくよく見てみれば薬草じゃない!?)
コリンは身を潜めた草むらをじっと観察すると、確かに薬草の1種だった。しかも、その薬草はそこら辺に生えている雑草と瓜二つと言わんばかりに似ているので見つけることが困難であるレアな薬草だった。
(前に師匠に教えて貰って良かった)
そう、ハヤトはFランククエストを通じて、街の人々との人脈がとてつもなく凄い。その中の1人に、薬草を取り扱う知り合いがいるらしく、ハヤトはその人に無理やり薬草について頭に叩き込まれた過去があるらしい。
本人は思い出すだけで、頭を抱えるが、それと引き換え、クエストでは立派に役に立っていた。なので、ハヤトもコリンに薬草についての最低限の知識を教えていた。
もちろん、薬草の正しい使い方も。コリンは薬草をいくつか引き抜き、そこら辺に落ちていた手のひらサイズの石を拾い、それを使ってグリグリと薬草を潰しだす。
すると、潰した薬草から汁が滲み出て、コリンはそれを持参していた布に浸す。浸したら、それを肩にぐるぐると器用に巻き付けた。
巻き付けると、薬草の汁が傷口に染み込み、コリンはくぅぅ、と痛みを我慢するが、次第に痛みが引き、応急処置が完了した。
(よし、行くか)
応急処置を終えたコリンは動き出した。こうしている間にも、他の冒険者たちは戦い続けている。もしかしたら、既に何人かは予選通過してるかもしれない。
そう思ってくると、止まってはいられない。コリンは敵を見つけるべく、前に走りだそうとした瞬間、
「うわぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁあ!!」
「!?」
突然、草むらからコリンの前に2人の男が叫びながら現れた。コリンは反射的に戦闘態勢に入る。
しかし、男たち2人からの戦意はコリンに対して全く感じない。
そう、例えで言うならばまるで、『何か』から逃げているかのような雰囲気だった。
「おい、あんた!!今すぐにここから逃げろ!!」
「どういう…………」
「いいから!!…………来るぞ!!」
男がコリンにそう叫ぶと、その『何か』は姿を現した。
「こいつは……………」
現れたのは恐竜型のモンスターだった。大きさは大体20メートルはあるだろう。爬虫類のような鱗がビッシリと目立っており、このモンスターに既にやられた人がいるのか、大きな口の周りには赤い血のようなシミがついいた。そして、そのモンスターは大きな目でギロりと男2人とコリンを睨み付けていた。
このモンスターの名前はSSランクモンスター『デストロイヤーレックス』。別称『破壊龍』。遥か北の方にある『古代の谷』に生息するモンスター。名前通り極めて猛攻で、種族が絶滅するまで殺害を繰り返す危険な生物である。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「んー、あの3人はもうダメかなぁ。」
コリンと女の子がデストロイヤーレックスに遭遇している所を遥か10キロメートルぐらい離れた大木の上から双眼鏡を使って観察している抹茶色のポニーテールである1人の女がいた。
彼女の名前はカスミ。ハルハルギルドの冒険者であり、ガインと同じく第1予選の責任者である。
「なにせ、私のデストロイヤーレックスは野生のやつよりも凶暴だからなぁ」
カスミはまるであのモンスター自分の所有物であるような言い方をしているが、彼女の属性スキルを発動していれば、可能な話である。
ハルハルギルドSランク2位の冒険者、カスミの属性スキルは『調教』。人族以外の生き物を強制的に服従させることができる能力。服従した生物は、どんな指示にも従る。彼女の場合、1000種類のモンスターを服従しており、更に自然界に生息しているやつよりも強化するよう訓練もさせている。
そして、彼女は第1予選でジャングルの中に何匹かのモンスターを放出させ参加者の冒険者の妨害をさせるというのが、彼女の役割だった。
「ん?」
カスミのギルドカードが鳴り響く。ガインからだ。
「あのおっさん、うっせんだよなぁ」
そう言いながら、カスミはコールボタンを押した。
「もしもs………」
『バカヤロが!!てめぇ、本気で死人を出す気か!!』
「ーーーー!?」
ガインの怒りの感情が込められた言葉が大声で響き渡き、カスミはビクッと身体を震わせる。
『いくらなんでも、破壊龍はやりすぎだ!!今すぐにあのモンスターを撤退させろ!!』
ガインの怒りは止まらない。そもそも、ガインとカスミは第1予選の責任者。多少のケガはしょうがないものの、死人は絶対に出してはいけないのだ。それをカスミはやってしまうかもしれない。それをガインは恐れていた。
「んー、でも力加減は程々にねってあの子達には伝えてあるよ??」
『んなもん関係あるか!!SSランクモンスターの小攻撃なめんな!!』
詳しくは話さないが、ガインは昔、SSランクモンスターと戦ったことがあった。その頃はガインはAランク1位の冒険者だったが、歯が立たなかった。SSランクモンスターの軽い攻撃でも、ガインは大ダメージを受け、生死をさまよった過去がある。
その事があるからこそ、ガインはSSランクモンスターの撤退を申した。
「……………分かったわよ」
同じギルドの冒険者というのもあり、カスミもガインの過去をご存知だった。なので、彼の申し出を受けることにした。
「属性スキル発動………デスちゃん、聞いてる??私よ。」
「ーーーーーーーーーー」
(あれ??おかしいな。いつもなら、すぐに反応してくれるのに)
カスミはいつもなら、すぐに可愛く鳴き返してきてくれるのに反応しないことに対して、少しだけ不思議な気持ちになったが、すぐに「はっ」となり、双眼鏡を手に取る。
(まさか!!)
そのまさかだった。
『ウソだろ。おい…………』
ギルドカードから、ガインの驚愕した声が聞こえた。
それもそのはずだ。なぜなら…………
1人の少女が、SSランクモンスターに立ち向かっているのだから。
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