第五章:アルス・マグナが創りしもの――6
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ヘルメスは、訝しさに眉を歪めた。
男の正体が掴めない。
彼がウロボロスである。それが嘘であることだけは、分かっていた。
死人が蘇る。そのことだけは、絶対にあり得ない。死ぬことを許されない、自分が言うのも何だが。
いや、正確には、自分も死んでいる。それが、再び生まれ落ちることで転生するのだ。
そして、男は確かに自分自身で、アデプトでないと断言した。
つまり、彼は彼自身の言葉で、自分はウロボロスではないと、証明したのだ。
……だが、いや、だからこそ、男の素性が謎めいて仕方ない。
彼が、ホムクルスでも、アデプトでも、ウロボロスでもないのなら、どこからあれだけの知識を得たというのだろう?
「お前は、アルス・マグナの〝能力データ〟を知っているかの?」
男の台詞が、謎の色を濃くした。
「……アデプトの能力に関する情報。アルス・マグナ登録時、自動的に保存されるバックアップデータのことかな?」
「うむ。――それは嘘である」
……嘘――?
謎は、より深く、より暗いものになっていく。
――何故だ? 何故、アデプトでない者が、アデプトだけが知っていることを、嘘だと言えるんだ――?
男の台詞は、否定ではない。拒絶でもない。訂正だ。
「能力データの真の目的はの? 能力の保存そのものにあるのだ」
そして訂正とは、正解を知る者が、間違いを正すことを指して呼ぶ。
これでは、まるで、ウロボロス本人と話しているようではないか。
「アルス・マグナには、隠れコマンドとして〝真理節〟と言うものがあっての」
「真理節?」
「そう。錬金術の統御コマンドであるよ」
遂に男は、自分ですら知らない話を始めた。
「真理節は、錬金術の〝OS〟のようなものよ。登録・保存された錬金術を、統治し内包し、コマンドの保有者である我に与える」
男の言葉で、ヘルメスは真相に気付く。
――まさか! ……だが、それならば全ての辻褄が合う――!!
だから、確認として男に呼び掛ける。ウロボロス、と。
「キミは……、キミの正体は……!」
「流石に、気付いたようだのう」
場違いなほど暢気な笑い声を上げながら。
「我は、錬金術の集合体。アルス・マグナと、マグヌス・オプスに登録されし錬金術が形作る、〝ゴーレム〟であるよ」
ウロボロスが言った。




