第五章:アルス・マグナが創りしもの――7
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「我の肉体は、生体系の錬金術が。知能と人格は、システム系の錬金術を基にしておるのよ。体躯の構成材料も、この錬金領土では困らぬ」
三人と、一人の様子は、対照的も甚だしい。
主の亡骸の傍らで、涙を流す武。緊迫と困惑が入り混じった表情で、動きを止めている、道真とヘルメス。
対峙するウロボロスは、朗らかと続ける。
「本来ならば、我が完成するのは、遙か先の話だったがの。ソレのお陰で、計画が早まったわ」
仰向けに倒れる、バハムートを指し示し、
「ソレが、この錬金領土とマグヌス・オプスを構築してくれたお陰でのう」
笑み付きの顔で、楽しげに喉を鳴らした。
「マグヌス・オプスは、アルス・マグナの模造品。我の創造物の複製が基盤ゆえ、真理節も適応される。――能力の収集には、好都合であったよ」
加えて、
「人工知能のテストも、問題なく行えたからの。イレギュラーな事態ではあったが、結果的に、ソレは良くやってくれた」
「人工知能の、テスト?」
どうやら、ウロボロスは己の知能の出来を、何かを用いて検証したらしい。
そして、件の〝何か〟を道真は良く知っていることだろう。
何故なら、その何かは、道真が。否、武も、学校長であるバハムートも、問題視しているものなのだから。
主に怒りをベースにした、震える声で、道真が聞く。
「――あんたが言うテストってのは、人体実験か?」
道真は気付いていた。
「そんで、その被検体。フーリガンって呼ばれてねえか?」
道真の言葉に、ヘルメスが息を呑み、ウロボロスが顎に手を添える。
「ふむ。それがどのような名称で呼ばれているかは知らぬが、人体実験をしたことは確かよのう。テストには、最も適した方法であるからの」
道真が奥歯を軋らせた。
彼や武を含む、錬金領土の全住民は、この男の横暴に巻き込まれていたのだ。
全ては、完全になると言う、身勝手極まりない野望の仕業。バハムートの望みも、男の所為で打ち砕かれた。怒りを感じない方がおかしいだろう。
「なるほどね。確かに、連中の性格を省みれば良く分かるよ。反社会的言動や、選民感。何より、あの傲慢不遜な態度は、キミにそっくりだからね」
ヘルメスもまた、怒りに震えていた。
「彼らに錬金術を与えなかったのも、キミの企みなのかな?」
彼女の親友は、そしてフーリガン自身も、この男の掌の上で踊らされていたのだから。
「試験版とはいえ、我が構築した知能を、ホムンクルスなどと言う下等生物に与えるのだぞ? 錬金術まで与えるなど、分不相応も甚だしいではないかの?」
ウロボロスが平然と言い切る。
やはり、フーリガンに〝シンクロ〟行為が不可能だったのも、彼の仕業だったのだ。
「そう、か。――ようやく、分かった」
声が聞こえる。低く静かで大人びた、だが、今は弱々しい声だ。
その声は、道真とヘルメスの背後。武の直ぐ隣から聞こえるものだった。
「学校長!!」
涙声混じりに、声の主を武が呼ぶ。その声に応えるのは、
「心配を掛けたな、武くん。安心してくれ。これでも私は、生体系のエキスパートと呼ばれているのだ。――〝プラナリア〟の再生力を適応すれば、この程度の傷は直ぐ治るさ」
彼女や道真たちの長、バハムートである。
「ほっ。随分としぶといのう。ところで、何が分かったと言うのかの?」
復活したバハムートに特別な危機感も覚えぬまま、ウロボロスが尋ねた。
彼に取っては、バハムートの生死よりも、彼女の発言の方が気に掛かるらしい。
「私の、過ちにだ。――悩み悩んだが、結局の所、キミの掌で踊らされていたことに気付けなかった。それが、私の間違いだったとね」
「何を言うかと思えば……。当たり前であろう? 不完全なる者に、我が崇高な思想が理解できる筈あるまい」
つまらなそうに息を細くして、ウロボロスが左の指先を彼女へ向けた。
「死に損ないは辛かろう。せめてもの慈悲よ。楽にしてやろうではないか」
その手の周りに、黒い針が出現する。
大気中の二酸化炭素を分解し、得た炭素を結晶化。そうして生まれた、炭素の茨だ。
黒き茨が弾丸の如く射出され、上体を起こしたバハムートへと迫る。だが、それらが彼女に届くことはついぞなかった。
「――ヘルメス……!」
ヘルメスが生み出した氷の盾に、行く手を阻まれたからだ。
「バハムート。復活して早々悪いんだが、手伝って貰えるかな?」
さもなくば、
「ここにいる全員が命を落とすことになる!」




