第三章:バハムート――9
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「不良グループが、引継ぎ中の施設に侵入している。――そう通報されたのだが、まさか、君たちがいるとは思いもしなかったよ。鳴宮兄妹」
四人の司法部員の内、道真と顔見知りの一人が、複雑な表情で声を掛ける。
彼女は、先日、兄妹と協力――ほぼ、一方通行だったが――して、二人組の盗人を捕まえた部員だ。
そんな経緯があるために、彼女は戸惑っているのだろう。
「いや、これには深い事情があって……。つうか、これも正当防衛なんだ」
「正当防衛……ねえ……」
歯切れが悪いのは仕方がない。
兄妹と、謎の美少女には怪我一つなく、ダメージを受けているのは、フーリガン連中の方だ。
誰がどう見たって、一方的な蹂躙。それを正当防衛と言われても、疑わない方が難しい。
「まあ、正当防衛かどうかはともかく、不法侵入に違いはない。立派な罪だ。君たちの身柄を拘束させて貰う」
ぐう……、と道真が言葉を詰まらせる。
流石に、侵入に対しての反論は浮かばないようだ。彼は、司法部の少女が〝司法手帳〟を取り出すのを、渋面で眺めていた。
司法手帳とは、正式な司法部員に、学校長〝パラケルスス〟から支給される認定書だ。
警察手帳に似たもので、司法部員に〝逮捕権〟を与える。
学校長直筆のサインが記されていることが、その証明。
「なっ……!?」
その署名を目にして、ヘルメスが驚きの声を発した。
「ヘルメス?」
武が不思議そうに、彼女の名を呼んだ。
身柄を拘束されることは、もちろん想定外だろう。しかし、彼女の声の本意は、そこにはない。
「何故……? その筆跡は――」
「〝バハムート〟の……!!」
彼女の視線は、司法手帳に釘付けとなっていた。
ローマ字で綴られた、パラケルススの署名に。




