第四章:再会したアデプト――1
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〝錬金領土〟の留置所は、各〝学級区画〟の積荷スペースにある。
そもそも、学級区画の基盤となっているのは貨物船だ。だから当然、貨物を積むスペースも存在する。
その積荷スペースを改造した、四層からなる牢獄。それが、留置所なのである。
錬金領土の留置所は、かなりの工夫を有していた。施錠機能や、牢屋の材質に凝っているのだ。
まあ、至極当たり前の話だろう。何しろ、ここは錬金術の街なのだから。
いくつか例を挙げると、〝炭素素材〟や〝タングステン〟で造られたものや、金属を一切使わず、日本特有のカラクリを、施錠に応用した牢屋などがある。
言うまでもなく、錬金術対策だ。
金属変換系には、非金属かつ圧倒的強度を持つ、炭素素材の牢。
放火系、発熱系に対して、三〇〇〇℃の熱にも耐えるタングステン。
電磁力系のホムンクルスには、あらゆる錠前が無効化されるため、木製のカラクリ錠が使われている訳である。
あえて、海中に位置する積荷スペースを用いるのも、脱獄対策だ。
一層に付き三〇存在する牢屋の一つ。
五つの面を灰色で囲まれた簡素な一室に、ヘルメスと鳴宮兄妹の姿があった。
もちろんカラクリ錠の牢屋だ。
とはいえ、いくら武を警戒しようとも、ヘルメスが本気を出せば、何時でも脱獄が可能だろう。
しかし、三人は未だに牢屋の中にいた。
理由としては、脱獄の意思がないことが一つ。そしてもう一つは、これまでの情報整理に時間を割いていることが上げられる。
「学校長〝パラケルスス〟の正体が、バハムート?」
牢屋内。四つあるベッドの一つに腰掛けながら、道真が、壁を背にして立つヘルメスに問い掛けた。
「ああ、ワタシとバハムートは、三〇〇年来の親友なんだ。彼女の筆跡を見間違えることはない」
筆跡。とは〝司法部〟の女子が見せた、〝司法手帳〟にあったものだ。
彼女に逮捕権や捜査権を与えるサイン。錬金領土の最高権力者が自ら認めた、署名である。
思いも掛けない真実に、道真の口から、マジかよ……。との一言が零れ落ちた。
「だけど、それが本当なら辻褄が合うよ、道兄?」
武が続ける。
「最高権力者たる学校長なら、自分の素性を偽ることは簡単だし、情報操作も削除も、簡単な筈だよ」
そもそも、
「錬金領土そのものも、学校長就任以前の〝パラケルスス〟が提案したものだよ? 始めから、〝アルス・マグナ〟に関わる全てを隠匿していたとしても、おかしくないよ」
「つうことは、〝マグヌス・オプス〟によってホムンクルスを生産しているのも、〝生体系錬金術〟の〝アデプト〟である、バハムートだってことか」
どうやら、昨日の道真の推理は、的を得ていたらしい。
バハムートの錬金術は、〝塩基配列の編集〟。遺伝情報の操作だ。
その能力を用いれば、錬金術に必要な〝能力器官〟も、生み出すことができるかもしれない。
だが、だとしたら、一つの疑問が残る。
「……なら、バハムートがアルス・マグナをコピーしたのは、何のためだ?」
バハムートが能力器官を生成できるのならば、マグヌス・オプスに必要な技術は須く揃う。
つまり、少なくとも、マグヌス・オプスとアルス・マグナは異なったものであり、バハムートがアルス・マグナをコピーした理由は、他にある。そう言うことになる。
だとしたら、
「バハムート……学校長パラケルススの目的は、やっぱり、アルス・マグナの崩壊、なのかな?」
武が不安そうに呟いた。
カツン、と足音が響いたのは、そのときだ。
足音は小さなものだった。だが、それは徐々に大きさを得ていく。
まるで、三人の下へと誰かが向かっているかのようだ。否、確実に向かってきている。
音が、最も大きくなり、それを最後に途絶えた。
足音の主は、三人が収容されている牢屋の前に立っている。
その姿は女だった。詳しく言えば、メイド服姿の。
「鳴宮道真さま。武さま。そして、ヘルメスさまですね?」
細身で小柄なメイドは、丁寧な口調で三人に尋ねた。
「私は、学校長パラケルススさまに仕えさせていただいております、〝精仕姫〟と申します」
仕姫が、恭しく身を折り、礼とする。
ミディアムな薄緑のストレートヘアが、サラリと流れた。
「学校長の命により、お迎えに上がりました」




