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今回ちょっと山場なので長めです。少しだけ性描写有です。
そういうシーンは初めてトライしたので、何度か書き直してしまいました。
また、書き直すかもしれませんが・・・。
描いていてテレまくりです。修業が足りませんね。笑
是非お付き合いください。
月曜の朝、一之瀬が出社すると既に彰子は出社していて、いつものように難しい顔をしてPCの画面とにらめっこしていた。今日は会議で外に営業には出ない。普段は休憩のたびに声を掛け合うのだが、今日は一度も目をあわさない。平然としているようで、彰子は明らかに一之瀬を避けていた。
PM7:00になると彰子は早々にPCの電源を落として帰ろうとロッカールームに向かった。部屋に入ると、同期の三枝玲子がいた。
「おつかれっ!今日早いじゃない。」
「うん、先週つめたからね、今週は帰れる日は帰ろうと思って。」
少し疲れ気味なのか、愛想笑いで答えた。その様子を汲み取ってか、同情したように三枝が声をかける。
「そうよね、先週はたいへんだったわね。彰子が始めに気付いたんでしょ?ほんと、あんたはすごいわ。」
「そんなこと・・・。たまたまよ。」
「ううん、あんたは、本当にすごいよ。私も尊敬するもん。」
そんな会話をしながら、いつもの調子で彰子がロッカーの扉を開けた。その瞬間、固まった。自分のバックの中身が引き裂かれてロッカーの中に散らかっっている。彰子はそれを見るなり頭が真っ白になった。彰子が呆然と立ち尽くしていると、様子が変なことに気付いた三枝がロッカーの中を覗きこんだ。
「ちょっと!何、これ?」
彰子は三枝の声に驚いてロッカーの扉を慌てて閉める。
「ちょっと、見せなさいよ、彰子、これ、あんた、嫌がらせじゃない!」
三枝が閉じられたロッカーを強引にこじ開ける。
彰子はその横で呆然としていた。そして、大切なものが引き裂かれているのに気付いたときにはフラッと倒れそうになってロッカーに体をぶつけた。
「彰子!」
三枝がとっさに彰子の腕を掴みかろうじて支えた。三枝はロッカーの前にあるベンチにとりあえず彰子をすわらせると、彰子の様子を伺いながら、ロッカーの中を確認してみた。三枝は散らばる写真の残骸に気付いた。
「彰子、これつ!恭二さんの・・・。」
彰子は既にに放心状態だった。どこを見ているのか、彰子の視線は一点を見つめている。そのうち、涙が頬を伝った。
「彰子、しっかりして!あんたらしくないよ!彰子!」
三枝は彰子の様子が尋常じゃないことを悟り、どうしていいのか一瞬パニックになる。少しすると三枝は、はっとして彰子に声をかけた。
「ちょっと待ってて、彰子、すぐ戻ってくるから、ここを動かないでよ。」
そういって三枝は足早にロッカールームを出て行った。
三枝は事務所にもどって、一之瀬の姿を見つけるとつかつか近寄っていった。一之瀬は鈴原主任を打ち合わせをしている。
「一之瀬君、ちょっといいかしら?」
一之瀬はその声に振り向くと人事の三枝がすごい形相で立っていた。一之瀬は驚いた顔をしている。
「何ですか?」
「とにかく今すぐに来て。急用なの。」
「え、でも、俺今打ち合わせ・・・。」
「そんなことより、とにかく緊急なの。鈴原主任、一之瀬君、緊急に用事があるので連れて行っていいですか?この打ち合わせ、明日でもいいですよね!」
三枝は鈴原に有無をいわせない勢いで睨みつけ、一之瀬の腕を強引に引っ張った。
「あ、はい・・・。いいです。」
あまりの迫力に鈴原も頷かざるをえず、一之瀬を引っ張っていく後ろ姿を呆然と見ていた。
「なんですか、三枝さん、緊急って。俺、仕事あるんですけど。」
休憩室に着くと、三枝は勢いよく振り返った。
「何言ってんの、あんた、彰子より仕事のほうが大切なの?」
三枝の言葉に一之瀬の端正で綺麗な顔が一瞬こわばり、眉をしかめる。
「彰子さんに何かあったんですか?」
「いい?一之瀬君、ひとつ質問するけど、あんた、彰子のこと好きなんでしょ?」
「はっ?」
唐突に聞かれて一瞬一之瀬は戸惑う。
「いいから答えなさい。そうじゃないと教えられないわ。」
じっと三枝が一之瀬を真剣に見つめて詰め寄る。少しの沈黙があって一之瀬は深呼吸した。そして三枝の目を見て真顔で言った。
「俺は彰子先輩が好きですよ、彰子先輩じゃないとだめです。俺が好きなのは2年前から
あの人だけです。」
一之瀬がそう言い切ると、三枝は一瞬にこっと笑って、すぐに真顔になる。
「彰子がね、ロッカー荒らされたの。嫌がらせよ。言いたかないけど、おそらくあんたのファンよ。」
「えっ?」
一之瀬は驚いて立ち上がった。それを三枝が制して座らせる。
「ちょっと、慌てないで。それぐらいたいしたことはないの。前にもちょこちょこあったから。でもね、今度は違うの。やられ方が問題なのよ。大切な人の写真をズタズタにされていたのよ。」
一之瀬が眉をしかめる。
「大切な人の写真?」
三枝がが大きく頷く。
「いい、一之瀬君、この話をしっかり聞くのよ。彰子はね、3年前に婚約者を事故で亡くしてるのよ。しかも目の前でトラックにはねられて即死だったの。それから、しばらく会社を休んでたわ。私お見舞いに行ったけど、なんて声をかけていいのかわからないぐらい衰弱していてね、私の所為だって呪文のように言って泣いていたのよ。今みたいに復帰できたのは奇跡なくらいだわ。」
一之瀬は三枝の話に驚いたような顔してじっと聞き入っていた。。
「いい?聞いてる?一之瀬君。君ね、彰子を好きになるってことは、彰子のすべてを受け入れられないとだめよ。あの子は決してそのことを忘れない。忘れてないのよ。現に今だって、ロッカールームで放心状態になってるわ。」
「えっ?」
三枝のその一言に一之瀬は立ち上がって、ロッカールームに走った。ノックをして、開ける。たまたま、そこには他に誰もいない。それを確認すると一之瀬はすばやく中へ入った。部屋の奥のロッカーの前に立ち尽くす人影が見える。間違いなく、彰子だった。彰子は何かを掴んでそれを見下ろして泣いていた。
「彰子先輩!」
彰子がはっとして顔を上げた。
「一之瀬・・・。」
彰子が涙を手でぬぐおうとするが、後から後から涙が流れてくる。一之瀬はとっさに彰子を抱き寄せる。
「彰子先輩、我慢しないで。泣いていいんです。俺の前で強がらないで。」
彰子は何のことを言っているかわかったようで一瞬はっとしたが、一之瀬の胸に身を任せて今度は声を上げて泣いた。一之瀬は彰子の身体をしっかりと抱きしめてすっぽりと彰子の頭を胸に収めた。
しばらくして、彰子にコートを着せて写真の残骸を拾い集めてバックに入れるとロッカールームを出た。入口では三枝が待っていて、人を入れないようにしてくれていた。一之瀬は三枝に一礼すると、エレベーターホールに彰子をとともに消えた。外へ出ると一之瀬は、タクシーに乗り込み、自分のマンションへと向かった。その間、一之瀬は憔悴した彰子の肩を抱いて、しっかりと支えた。
一之瀬はマンションに着くと、彰子をソファに座らせてその横に自分も座った。
「先輩、大丈夫ですか?」
彰子は黙って頷く。
「なぜ言ってくれなかったんですか?俺のために嫌がらせされてるって・・・。」
彰子は一之瀬の目を弱々しくしばらく見つめるとぼそっと口を開いた。
「べつに、そんなことたいしたことじゃないもの。」
「彰子先輩!なんでそんなに強がるんですか。あなたはそんなんじゃないでしょう?本当は繊細で弱くて誰よりも寂しがり屋・・・でしょ?」
彰子は何か物言いたげにじっと一之瀬を見ていたが、そのまま口を開かずにすっと床に視線を落とした。
「俺は・・・、あなたはあの日、俺が前の彼女と勘違いして泣いていたのを知ってるんでしょう?あなたは俺の手を握りながら涙を流してた・・・。そんな俺を見捨てて帰れなかったから、寝付くまで傍にいて手を握っていてくれたんでしょう?俺、途中から彼女じゃないことぐらいわかってましたよ。それでもいいと思った。でも、朝目覚めたら、あなたは居なくなってた。俺はあの日から、あなたのことが好きで好きでどうしようもなくて・・・、どうしてももう一度会いたくて・・・、探したんですよ。そして俺の前に現れた人は驚くほど美人で聡明で・・・。これ以上ないぐらい魅力的な人だった。」
彰子は床の一点を見つめたまま一之瀬の話をじっと黙って聞いている。
「先輩、つらい思い出かもしれないけど、よかったら俺に話してくれませんか。先輩のこと本当に好きなんです。だから、悲しみも苦しみもすべて先輩のことは受け入れたいんです。いろいろなことがあった今のあなただから俺は好きになったんです。彰子先輩・・・いえ、彰子さん。」
彰子がはっとして顔を上げる。すがりつくような切なくて苦しそうな目で彰子は一之瀬を見つめてくる。一之瀬は優しく愛しむような目で見つめ返すと彰子をゆっくりと抱き寄せた。一之瀬の胸に頬をうずめた彰子は身動きせずに視線はどこか一点を見つめている。じっと何かを考えているようだった。
「・・・あの時・・・、私が・・・恭二を呼び止めたの。あの日、些細なことで喧嘩してて・・・。私がつまらない意地を張ったばっかりに・・・。恭二は優しいから怒ってなくて・・・、私をなだめようとしていたの。でも、私は意地を張り通してしまって・・・。恭二がしかたないからって帰ろうとしたから、私、恭二がいなくなることに急に不安を感じて恭二に謝ろうって、道路を渡ろうとした恭二を呼び止めたの・・・。そしたら・・・。」
彰子が声を押し殺すように嗚咽して涙で声が詰まる。一之瀬は彰子を強く抱きしめ彰子の頭を胸に押し付けて頬を擦りつけると、やさしく髪に唇を押し付けて彰子の頭を大事そうになでつけた。彰子が肩を揺らして声を押し殺して泣いている。
「私の所為なの・・・。私がつまらない意地を張ったりしなければ・・・、私が恭二を呼び止めたりしなければ・・・恭二はあんなことには・・・。」
一之瀬はどうにもたまらなくなって彰子に声をかけた。
「彰子さん、違うよ。あれは事故だったんだ。恭二さんは彰子さんを愛してたからきっとその時呼び止めてくれるのを待ってたはず。ごめんねって言ってくれるのを待ってたはず。事故は起こってしまったけど、彰子さん自分を責めないで。きっと恭二さんは彰子さんの想いをわかってくれてるよ。」
彰子は一之瀬のその言葉に今度は声をあげて泣いた。一之瀬は彰子のすべてを抱え込むように彰子の体を深く強く抱きしめた。
「彰子さん、僕じゃ恭二さんのかわりにあなたを支えることはできませんか?恭二さんを忘れなくてもいい。僕は今の彰子さんのすべてを守りたい。」
彰子が一之瀬の腕の中で涙に濡れる目を見開いて、首を振る。
「そんなんじゃだめ・・・。あなたを苦しめる・・・。あなたは幸せにならなきや。」
彰子がまた、目を閉じて涙を流す。その涙を一之瀬が大きな手で優しく拭ってやる。
「俺は彰子さんじゃなくちゃだめなんだ。俺が愛してるのは唯一彰子さんだけなんだ。あなたがいないなんて考えられない。彰子さん俺を見て。」
彰子の肩をつかんで自分の胸から彰子の体を引き離すと、一之瀬は彰子の顔を覗きこんだ。彰子はとっさに目を逸らす。
「彰子さん、目を逸らさないで俺を見て。俺は年下だし、仕事だってなんだってあなたにはかなわない。けど、俺はあなたを愛することには絶対の自信がある。恭二さんのことだって忘れなくていいんだ。俺は丸ごとあなたを愛してるよ。俺はずっとあなたの傍にいる。いなくなったりしないよ。寂しい思いなんて絶対にさせない。だから、俺のことを弟じゃなくてちゃんと男として見て。」
彰子がビクッとしておそるおそる一之瀬と目を合わせる。二人はじっとしばらく見つめあった。一之瀬はこれまで見たことがないくらいに、大人の男の顔で真剣なまなざしをまっすぐに彰子に向けていた。彰子の胸で心臓の鼓動が早くなる。彰子は大きく目を見開いてじっと一之瀬を見つめていた。一之瀬はひたむきにみつめてくる彰子の頬を両手で包み込むようにやさしく触れると、そっと唇を重ねた。彰子はふいに触れられた一之瀬の唇に一瞬驚いたが、目を閉じてそれを受け入れた。一之瀬はゆっくり唇を離すとじっと優しい愛しむような瞳で彰子を見つめる。そしてもう一度2、3度頬に軽くキスをすると、一之瀬は彰子の白くて細い形のいい首筋から鎖骨にかけてのやわらかいなめらかな肌に唇で触れていった。同時に大事そうに彰子の肩と腰に手を回して引き寄せる。そうしてぐっと腕に力をこめるとしっかりと抱きしめて、もう一度彰子の唇に今度は濃厚に甘いキスをする。とろけるような甘く熱いキスに彰子は瞬間頭が真っ白になった。途端に彰子の体が熱くなる。体の中心から熱が溢れてくるような高揚感に、彰子は思わず眩暈がして、甘い吐息をもらした。一之瀬はジャケットを丁寧に脱がすと、頬から耳にかけてキスをしながらブラウスのボタンをひとつずつはずしていった。白く滑らかな透き通る肌に唇で優しく触れながら、一之瀬は一瞬顔を上げて彰子の素のままの姿を改めて眺める。その視線に彰子がはずかしそうに顔を伏せる。一之瀬は彰子の顎を引き上げてもう一度甘いキスをすると、耳元で囁いた。
「彰子さん・・・。すごく綺麗だ・・・。愛してる・・・。」
一之瀬は宝物を扱うかのように大事そうに彰子を愛した。彰子は一之瀬の腕の中でじっと目を閉じて再び涙を流した。
あと、3話です。
ここまで読んでくださってありがとうございます。もう少しなので最後までお付き合いください。m(__)m




