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次の日、彰子は早めの出勤をした。
朝のニュースでSKドラッグの倒産を知った。それであわてて出社したのだ。案の定、会社には既に幹部が全員そろっていて物々しい雰囲気につつまれていた。みんなあまりの急展開に全員驚きつつも、取引先からの電話応対に追われていた。
「昨日、どのくらい返品取れたんだ?被害額はいくらだ?」
支店長が声を荒げて片岡部長に迫っている。
「はい、一部返品がきれなかったところを除いてはおよそ2割ぐらいは回収できたかと思います。あとは無理でした。被害額はまだわかりません。」
ふと支店長と彰子の目があった。
「名村くん、ちょっといいかな。」
すぐに彰子が返事をして支店長のデスクに駆けつける。
「昨日はご苦労だったね、君が見つけてくれなかったらもっと大きな被害額を出していたところだ。取引金額が大きいところだから2割でも回収できてよかったよ。」
「はい・・・。そうですか・・・。大変なことになりましたね。」
彰子は険しい顔をして頷いた。
「すまないが、損失がどのくらいか返品の金額がわかり次第教えてくれないか?」
支店長には疲れがみえる。昨夜遅くまで仕事していた上、早朝から呼びだされたのだろう。
「はい、かしこまりました。」
そういって一礼すると彰子は自分のデスクに戻っていった。
「しかたないな。ご苦労だった。あとはどこのチェーンが引き受けるかだな。負債額がどのくらいかはまだ詳細がわからないが、SKドラッグの展開している場所はこの地元じゃかなりおいしいエリアだからな、どこかが喰らいついてくるはずだ。」
支店長は傍にいた疲れの色の見える片岡部長をねぎらった。
昨晩、営業担当者は全員一晩中店を張っていた。朝になると、従業員は朝のニュースで倒産の事実をしったらしくあわてて店に出勤したものがほとんどだった。それだけでも、現場は相当混乱しているようだった。
ふと彰子はフロアを見渡した。一之瀬の顔は見えない。おそらく営業担当店にはりついているのだろう。眠ってないんだろうなと思うと心配だった。彰子は携帯を取り出し、一之瀬に短いメールをいれると、すぐにPCの画面にはりついた。
数日間この混乱は続いていたが、週の半ばになるといち早く、まだこのエリアに進出していない全国でナンバー2のドラッグチェーンのエルドラッグが名乗りを上げ、負債額、従業員、店舗を含めてすべて引き受けることを決定した。彰子の所属する支店とは取引がなかったが、他支店とはもともと取引があるので、スムーズに引き継ぎが出来た。それで、なんとか混乱は収まったのだった。
その週の金曜日、PM8:00になって一之瀬が帰ってきた。いつもは彰子のデスクにやってくるのだが、疲れきっているのか、自分のデスクにたどり着くと体を重そうにして椅子にどっかり座ったのが見えた。彰子は、その様子を見て携帯にメールを打った。営業1課のデスクは彰子たちの島とはかなり離れていて反対の端に近い辺りにある。
『おつかれさん。大分くたばってるみたいね。』
『あー、彰子先輩???女神様みたいだ〜!』
彰子は帰ってきたメールを見てプッと噴出す。男のクセに結構絵文字が多い。やはり、今どきの若者じゃない。そう思いながら返事を返した。
『何あほなこといってるのよ。仕事一段落ついた?帰りに軽くご飯でもどう?早く帰って寝たほうがいいわよ。色男が台無しよ。』
『俺はどんな時でも色男だからご心配くださらなくても大丈夫です。もう、仕事する気力ないですから、すぐにでも出られます。彰子先輩は?』
『今、PC閉じてるとこ。じゃ、休憩室でね。』
『了解♪』
彰子がコートとバックをもって休憩室にやってくると、一之瀬が疲れたように椅子にすわって机に顔を突っ伏していた。
「おまたせ。寝てるの?」
返事がない。本当に寝てるのだろうか。これまでのめまぐるしい状況を考えると寝かせておいてやりたい気もした。でも、一之瀬のマンションは会社から近い。ちょっと無理して帰って寝たほうがゆっくり眠れると思い直して、背中を軽く叩いた。
「ねえ、一之瀬、起きなさいよ。ここじゃ風邪引くわ。」
それでも、返事がない。彰子はため息をついてもう一度一之瀬の耳の傍で声をかけた。
「一之瀬、起きて。いちのっ・・・!」
不意に腕を掴まれて引き寄せられる。一之瀬の顔が息がかかりそうなぐらい近くにあった。彰子は驚いて心臓が跳ね上がった。
「ふふん。寝てると思った?」
ふてぶてしく一之瀬がにんまり笑う。彰子は一之瀬の腕からとっさにのがれた。
「ちょっと!何すんのよ。驚くじゃない。人が親切に起こしてあげれば・・・。もう、心配してやったのが馬鹿みたいじゃない。」
そういって彰子が口を尖らせた。
「あはははは・・・。ごめんごめん。先輩。つい、久しぶりだからかまいたくなっちゃって。」
「あのね、私はあんたのペットじゃないんだけど?」
彰子がむっとしてじろっと一之瀬を睨む。
「まあまあ、先輩、早くいきましょうよ。俺腹減っちゃって♪」
彰子はまだ少し怒っていたが、無邪気に笑う一之瀬につられて笑ってしまった。休憩室を出て、一之瀬はエレベーターホールでボタンを押すとその背中に彰子が声をかける。
「どこに行く?ガッツリ系?あっさり系?」
「先輩さえ良かったら、ガッツリ系。」
「了解、ガッツリ系OKよ。でも、飲みはやめようね。一之瀬疲れてるから。早く帰って寝るのよ。」
「え?せっかくの金曜日に何いってるんですか。飲みにきまってるじゃないですか♪」
彰子は一之瀬の調子よさに軽く脱力感を覚えたが、軽くため息をついて笑った。
「わかったわ。でも、あんまり飲むんじゃないわよ。あなた、よ・わ・い・ん・だ・か・ら。」
「違いますっ!普通です!先輩が強すぎなんですってば!」
一之瀬がムキになって言い返す。
「そうだったかしら♪」
彰子はふふんと笑いながら扉の開いたエレベーターに乗り込んだ。




