友好国からの侵略
穏やかで人々の笑顔があふれる自然豊かなセルバス王国。
私はこの国が大好きだった。
***
王国歴654年。
大陸の西側に位置するセルバス王国は友好国でもあるはずの隣国・イスレード王国からの侵略を受けた。
イスレード王国との国境を守っていた辺境伯家部隊は激戦の末に敗北。
その隣にある男爵領で待ち構えていた第二王子率いる部隊と男爵領の騎士団長が交戦中である。
数日前まで穏やかで笑顔溢れる国だったのに、人びとは怯え、国を捨てて逃げるものも多い。
両国は建国以来の友好国だった。
なのに、何故。どうして。
王宮に文官として働いているマデリア・ウィンドガルム伯爵夫人は、王宮の窓から外を眺めながら唇を噛んだ。
「マデリア」
名前を呼ばれ、振り返る。
そこには、灰色の髪に金色の瞳を持つ、優しげな男性が立っていた。
マデリアの夫、この国の宰相であるベルナード・ウィンドガルム伯爵その人である。
「ベルナード」
マデリアは夫に駆け寄った。
「今連絡が入った。
·······フリンゲルツ男爵領が突破された」
その言葉にマデリアは頭が真っ白になる。
第二王子率いる部隊が待ち構えていた、辺境伯家領の隣の男爵家領。
フリンゲルツ男爵家。
とても穏やかで優しい夫婦で身寄りもないデリアを養子に引き取ってくれ、実子である弟と分け隔てなく愛してくれた大恩人である。
そんなフリンゲルツ男爵家領がイスレード王国兵に突破されたという。
「おっ······お養父様は??お養母様は??弟は??」
その質問にベルナードは少しだけ言い淀んだが、静かに目を閉じて首を横に振った。
「·····第二王子殿下と共に処刑された」
「そんな······」
マデリアはがっくしと膝から崩れ落ちた。
誰か"嘘だ"と言って欲しかった。誰でもいいから、夢なら叩き起こして欲しい。
大切な人だった。大好きな人だった。
実の親よりも愛してくれた養父母。"姉様"と慕ってくれた可愛い弟。
いつか恩返しがしたかった。
大きな紫色の瞳からハラハラと涙を流すマデリアを、ベルナードは寄り添うようにギュッと抱きしめた。




