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【完結】奴隷騎士の主  作者: 社菘
6.戦乱の夜明け

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33/40


 膝をつく者たちを見回しながら、ラウロは深く息を吐く。そんなラウロの側にそっとニコラが近寄ると、腰を引き寄せられて強く抱きしめられた。


「とりあえず……ひと段落してよかった」

「無事でよかったです、ニコラ。捕らわれている者たちの救出をありがとうございました」

「たくさんのオメガが押し込まれてたよ……オメガだけじゃなくて、戦用に大量のポーションや武器を作らせるために職人たちも監禁されてた。妖精の粉を作っているエルフも」

「やはり……ライアスたちが上級ポーションや妖精の粉を所持しているのはおかしいと思いました」


 ニコラとヴェインに扮するために使った妖精の粉は、ライアスたちが持っていたのだ。ただの傭兵たちが上級ポーションまで所持していたので、捕らわれているオメガたちだけではなく、職人も監禁されていると考えた。


 妖精の粉でラウロがニコラに、レイヴンがヴェインに姿を変えてエリゼオと対面するという作戦を立てたのだ。ラウロが謁見の間でニコラとしてエリゼオと対面している最中、ニコラは他の騎士たちと共に地下などを調べ尽くし、職人たちの救出まで行っていた。


「そういえば、上級ポーションを作っている調合師の中に、ジャスミン・フォルキットさんがいたんだよ」

「ジャスミン……パスフィ王国にいた、服屋の店主の娘さんですか?」

「そう。カルテア小国で調合師を探している噂を聞いて、お母様の治療費のために出稼ぎに行って捕らわれたって……フォルキットさんが待ってるって伝えたら泣いてた」


 ポーションを作っている調合師が、五名ほど狭い部屋に閉じ込められていた。その中にいた一人の女性が、ジャスミンの花の形をしたネックレスをつけていたから分かったのだ。


 残念ながら母が亡くなってしまったこと、父があの場所でずっと帰りを待っていることをニコラから伝えた。彼女は母が作った魔法の小瓶を見て、ニコラの話が本当だと信じてくれたのである。


 ジャスミンは「やっと父と母に会いに帰れる」と泣きながら、ヘンリーからの言葉を伝えたニコラに感謝をしてくれた。


「ヘンリーさんたちには、幸せになってほしいですね……」

「きっと大丈夫。また町には活気が溢れるだろうし、お客さんも戻ってくるはず」

「色々と落ち着いたら、俺たちも一緒に店を訪ねましょうか」

「うん、いいと思う。一緒に行きたい」


 ラウロとニコラの目的は達成された。ただ、ラウロの頭の中にはニコラと今後も一緒にいるビジョンが見えているようだ。一旦、二人の目的が終わりを告げた今、ラウロからの言葉は心の底から嬉しかった。


「――待て、ニコラ・リンメロ!」


 地を這うような声がニコラを呼ぶ。痛いほど肩を掴まれて振り返ると、アルディスが険しい顔をしてニコラを睨んでいた。


「お前……ッ、自分が何をしたか分かっているのか!」

「……アルディス兄様、手を離してください」

「自分のことしか考えていない愚か者が……ッ」


 全てはエリゼオが悪いと、大抵の人は分かっている。ただアルディスは、全ての問題をニコラの責任にしないと気が済まないようだ。脅威が去り、同盟の話もなくなった今、ニコラを責めるのは筋違いというものである。それなのにアルディスは、これまでの蓄積からニコラが全て悪いのだと盲目になっているのだろう。


「……いくら兄でも、この方をこれ以上責める権利はありません。今すぐその手を離さない限り、エリゼオと同じ末路を辿りますよ」


 ラウロがアルディスの腕を掴むと、ミシッと鈍い音を立てる。アルディスは痛みと恐怖に顔を歪め、チッと舌打ちをした。


「俺やヴェインがどれほど大変だったか知らないだろ。お前が国のことを考えず、好き勝手に動いて……もしもこうなっていなければ、お前のせいでリンメロ王国は滅亡していた。俺は死ぬまでお前を許さなかっただろうな」


 ニコラの肩から手を離し、ラウロの手を振り払う。掴まれた腕をさすりながらニコラを睨むアルディスの言葉を聞いて、本当に自分は嫌われているのだなとニコラは苦笑した。


「……大丈夫です。僕も兄様たちを許すことは、これから先もありませんから」

「お前……」

「僕は二度と、リンメロ王国の地に足を踏み入れることはないでしょう。だから最後に言いたいのは……考え方を変えないと、また同じことになります。僕ではない誰かが傷ついて、兄様たちを恨むかもしれません」


 ニコラに意見されるのが気に食わないのか、アルディスは腕を組んだまま眉間に皺を寄せている。彼が変わることはあるのかと不安になったが、いつかきっと分かってれくる日がくることを祈った。


「民のことを思うのであれば、王である兄様が導かねばなりません。民の幸不幸は王の選択にかかっています、アルディス兄様」

「……お前に言われずとも、分かっている」

「はい。ヴェイン兄様と共に、良き国だと民から支持される国を作ってください。第二のエリゼオ・リュガーにならないように――」


 ニコラの記憶にあるのは、いつも怒った顔のアルディスだ。昔は笑い合っていた気がするが、そんな記憶はとっくの昔に忘れてしまった。


 今も同じように険しい顔をしているが、ニコラの言葉を否定せずに受け入れているように見える。今回のことを経て、きっとアルディスは変わるだろうと思えた。


「僕はもう、今日でリンメロの名を捨てます。でもきっと……僕の中の“家族”として思い出すのは、兄様たちだと思います」


 ニコラの言葉に、アルディスはもう何も返事をしなかった。


「……行きましょう、主。俺たちの新しい人生が始まります」


 ラウロから腰を抱かれ、ニコラはこれから始まる新しい人生へ一歩踏み出した。



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