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【完結】奴隷騎士の主  作者: 社菘@7月書籍発売
4.真実の愛

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4



 ◆ ◇ ◆ ◇



「――近くにエルフの気配はありません。念のため消音魔法をかけて移動しましょう。彼らは夜目がききますから、慎重に」


 ラウロが動けるようになるまで数日の間は洞窟で過ごしていたのだが、ずっとそこに籠っているわけにもいかない。二人は意を決し、前に進むことを決めた。


「カルテア小国に張り紙がされてあるということは、アトラにも伝わっているかもしれませんね……」

「船に乗れなかったらどうしよう……」


 不安に駆られて吐露するニコラの手をそっと握るラウロは、力強い瞳で見つめた。


「その時は、買収でもなんでもします。ただ、港は見張られているかもしれません。もしかすると主の兄上方が直接探している可能性もあるので、見知った顔がいたらすぐに教えてください」

「うん……分かった」

「……きっと大丈夫です。ここまで来られたんですから」


 何度か危ない目に遭ったものの、二人とも捕まらずにここまで来られたのは奇跡かもしれない。目的のアトラ王国まであと一つ国を跨げば、ニコラは船に乗って大陸を脱出する。ラウロとの別れは惜しいが、追われている以上この大陸にいられないのも事実だ。


「カルテアで妖精の粉を入手できなかったのは惜しかった……あれがあれば、多少は楽に動けたんですが……」

「髪と目の色は誤魔化せないし……。そうだ、空気に触れると色が変わる花の蜜を採取するとか?」

「髪の毛を着色するとしても、途方もないほどの量を摘まないと無理がありますね……」

「そうだよね……」


 手配書まで各国に配っているということは、アルディスたちはそれだけ本気でニコラを連れ戻そうとしているのだろう。しかもニコラを連れて行くのがリンメロ王国でもウルガル帝国でもいいと書いていたので、皇帝との結婚話は白紙にはなっていないらしい。血眼になってニコラを探している兄たちの目を掻い潜るには、ニコラとラウロの二人組は良い意味でも悪い意味でも目立つのだ。


 幸いなことに、アトラ王国の手前に位置するヴァニラ神聖王国の国境付近まで誰にも遭遇することなく移動できた。ただ困ったことに、この先は森が途切れていた。


「……火災で森が焼けたようですね。誤算でした」


 遠回りになるが、また別の国を経由してアトラ王国に行くか、二人で地図を覗き込んで唸った。今から違う国を経由するとなるとさらに一ヶ月は時間を要することになる。追われているのが分かっている以上、逃亡を長引かせたくないのが二人の本音だった。


 ただ、見つかってしまっては元も子もない。安全なルートを探している最中「――動くな」という低い声と共に、ニコラの首筋にヒヤリとした何かが押し付けられた。


「……その人に指一本でも触れてみろ。お前の命はないぞ」


 ニコラの後ろにいる人物を睨みつけ、ラウロは低い声で牽制する。すると後ろから息を飲む音が聞こえ「殿下……?」と、困惑した声が響いた。


 殿下と呼ばれたのでニコラはリンメロ王国からの刺客だと思ったのだが、どうやら違うらしい。ラウロがその人物を見上げたまま固まっていたが、ゆっくりと目を瞑ってから深いため息をついた。


「ラウロ殿下……ッ、今までどちらにいらしたんですか!?」


 後ろからニコラの首元に剣を突きつけていた男が慌ててフードを取り、剣を鞘に収めた。ニコラは見たことのない人だったが、ラウロは知り合いのようだ。


 ――それよりも、だ。この男は今ラウロのことを『殿下』と呼んだのは、ニコラの聞き間違いではないだろう。


 ラウロは所作の美しさなどから貴族であることは察していたが、まさかニコラと同じ王族だったとは思わなかった。一体どういうことなのかニコラは何も理解できず「ラウロ、殿下……?」と呟くと、ラウロは眉間に皺を寄せて難しそうな顔をした。


「……久しいな、レイヴン」

「ずっとお探ししておりました、殿下……! 最近、どこに行っても殿下と思わしき手配書を見かけるので、ご無事かと心配していたんです。それで、もしや殿下を殺そうと企む輩かと思い、排除しようとしておりました……申し訳ありません」


 レイヴンと呼ばれた男は深くお辞儀をして、ニコラにも謝罪してくれた。ただ、ニコラが懸賞金のかかっている『花嫁』であることに気がつくと、さぁっと顔を青く染めた。


「詳しい話は私どもの隠れ家でしましょう。ここに留まっていたら目立ちます……特に、奴隷の紋章持ちは」


 レイヴンの申し出により、彼らの隠れ家へ身を寄せることになった。本当に信じてもいいのかニコラは疑ったが「信頼できる人間です」とラウロが低く呟いた。



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