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今までニコラは『エルネス』という理想の番の話をしてきたが、ラウロのことは何も知らない。自分だけ洗いざらい話すのは納得できなくて、ラウロのことも聞いてみることにした。
「……ラウロは、年上の人が好みなの?」
「俺ですか? あまり年齢で考えたことはなかったですね」
宙を見て「うーん」と唸りながら、ラウロは小さく首を振った。
「今まで、その、恋人とかは?」
「ああ……いたことはありません。結婚とかそういうのを、幼い頃から考えられなくて。幸せな家庭を築くことが俺の人生の目標ではなかったので、優先順位が低かったんです」
「ラウロが貴族の出身なら、婚約の申し込みがすごかったんだろうね」
ニコラの後ろで苦笑したような声が聞こえた。否定をしないということは、やはりラウロは元貴族なのだと窺えた。
もしもニコラがラウロと同じ国に生まれた貴族令息であれば、社交界で彼を一目見たら婚約の申し込みをするだろう。そんな想像が簡単にできるほどラウロは魅力的だと思うし、彼を好きになる人も多かったのではないかと、まだ出会って数ヶ月しか経っていないニコラにも分かる。
「確かに、それなりに申し込みはありました。でも結局、どの話もお断りしまして……」
「優先順位が上になるほどの魅力を感じなかった?」
「もちろんそれもあるんですが、うーん……笑わないって約束していただけますか?」
「笑わないよ。なに?」
「……運命の相手は違うところにいるのだと、なんとなく感じていたことがあるんです」
まさかラウロが『運命の人』なんて話をするとは思っていなかった。この世には『運命の番』と呼ばれる、魂の強い結びつきがあるアルファとオメガが存在するらしいが、ほとんどおとぎ話のようなものだ。ラウロの言う運命の相手とは、そのオメガのことなのだろう。
「運命の相手……運命の番に出会えるのは奇跡にも等しいから、そういう人と出会えたら幸せだね」
「主は運命の相手に憧れますか?」
「うーん……自分が好きになって、ずっと一緒にいたいと思える人が、運命の相手なんだろうなと思う。って、実際に誰かを好きになったことがないから分からないんだけどね」
「なるほど……」
「ラウロは? もしも運命の相手と出会ったら、優先順位は変わりそう?」
ニコラの質問に、後ろでラウロが唸る声が聞こえる。たっぷり十秒考え込んで、彼は口を開いた。
「今は……誰かと一生を添い遂げるような未来もあっていいのかと、そう思えます」
情勢が悪くなく、ラウロの国が今でも残っていたら――彼は自分の夢を叶えたあと、それはそれはきっと素敵な人と添い遂げたのだろうと想像した。
「ただ、俺の目的はあなたと出会った頃から変わっていません。あいつを……ウルガルの皇帝、エリゼオ・リュガーを殺さないと、俺は自分の人生を生きていけません」
この旅の間に考えは変わったようだが、ラウロの目的は変わっていない。ニコラの考え方も変わったように思うが、ウルガルの皇帝と兄たちから逃げる目的は変わらない。お互いにその目的が達成されないことには、新しい人生を歩めないのだ。
「……僕は、ラウロにも幸せでいてほしい……いつか別れても、そう願ってるよ……」
そう呟くと、後ろからニコラを抱きしめているラウロは何も言わなかった。その代わりに抱きしめている腕に、一層力が込められた。




