第558話 魔力0の大賢者、補習に付き合う
お昼を摂った後、僕たちは旧校舎へ戻り午後の授業を受けた。
そして午後の授業も終わり、午前中に先生が言っていたように、アズールとメドーサが補習を受けることになった。
折角だからと僕たちも残ってイロリ先生から教わることにする。
「別にいいとは言ったが、本当にお前らも残るんだな」
「はい。僕にもまだ足りない事があると思うので」
「ふぅ。構わないが俺はこの二人に付きっきりになるからな」
先生がやれやれといった顔を見せつつも、アズールやメドーサへの指導を始めた。
二人はイロリ先生の話を真面目に聞いている。二人とも別に勉強が嫌いというわけではなさそうだからね。
「さて、俺たちはどうするか」
「美味しい料理を生み出す魔法について勉強しない?」
「それリミットが使いたいだけだよね」
ドクトルの突っ込みにリミットは「バレた?」と言わんばかりに舌を出した。
ガロンも隣で肩を揺らして笑っている。
「そ、それなら私、マゼルくんの魔法について知りたいです」
「え? 僕?」
「うむ。確かにそれは興味があるな」
「マゼルってどんな魔法も無詠唱だし、だからって魔法陣とか使ってるわけでもないもんね」
「確かに、あれだけの魔法を詠唱も記述も無しで展開できるのは凄いよね」
ガロン、リミット、ドクトルの視線が僕に向く。
しかもメイリアも後ろからジッと見てきている気がするよ!
「その、説明は難しいというか、イメージで」
「それってつまり魔法の形を具体的にイメージするのが大事ってこと?」
「むぅ、それなりに考えているつもりだったが足りなかったか」
ドクトルとガロンが考え込んだ。
何かデジャブがある。
前にネガメも僕の話を聞いて勝手に納得していたんだよね。
「つまり美味しい料理をイメージしたら料理を魔法で生み出せるってことね!」
「そ、それはどうかな――」
リミットが目を輝かせながら身を乗り出してくる。 料理への情熱だけは誰にも負けないね。
「イメージも大切ですが、それだけで魔法が成立するのであれば魔法学の教科書は不要とお伝えします」
「うぅ……そうだよね。私の料理――」
メイリアの正論が突き刺さった。
リミットがしゅんと肩を落とす。
「――ただしマゼルは例外です」
「例外?」
「私が思うにマゼルは直感で魔法を扱っているのだと思います。故に複雑な術式や詠唱を省略している可能性があります」
メイリアが真面目な顔で分析を始めた。
「なるほど」
「そういうことか」
「流石マゼルだね」
皆が納得したように頷く。
僕は笑うしかなかった。
そして気付けばメイリアによる僕の魔法考察講座が始まっていた。
「――少し休憩にするか」
補習開始から一時間ほど経った頃、イロリ先生がそう言った。
ここで一息入れようということだね。
そしてアズールとメドーサは机に突っ伏していた。
精神的にかなり疲弊したようだ。
「もう駄目だ……」
「頭が全然回らない……」
二人の声に思わず苦笑する。
休憩となり、しばらくしてメイリアが紅茶を淹れてきてくれた。
「悪いな」
「メイドの嗜みとお伝えします」
メイリアの淹れてくれた紅茶はとても美味しい。
リミットも目を輝かせながら何度も頷いていた。
「やっぱりメイリアちゃんの紅茶は最高だね!」
「光栄です」
どこか誇らしげに見えるのは気のせいじゃないと思う。
「――そういえば先生よ。ちょっと聞いていいか?」
「お前から質問とは珍しいな。何だ?」
紅茶を飲みながらイロリ先生が聞き返す。
するとアズールが少し真剣な顔になった。
「その、なんだ。妙な声が聞こえてくる時があるっていうかよ。それを聞いた後は、なんか新しい力っていうか、そういうのが湧いてくる気がするんだよ。これって何だと思う?」
アズールの問い。
妙な声――それって一体。
僕がイロリ先生に目を向けると、先生は何故か真顔になった。
「そうか――お前らはそういう年頃だからな」
「は?」
アズールが目を丸くする。
「思春期の多感な時期にはよくあることだ。自分の中に特別な力が宿っている。俺は本気を出せばもっとやれる。いずれ隠された力が解放される――」
フッ、と先生が遠い目をした。
「安心しろアズール。それは普通の事だ。そういう黒歴史を作りながら人は成長していくんだ」
「おい」
「そういえばマゼルの生まれた国ではこれを大賢者病とも呼ぶそうだな」
「えぇッ!」
なにそれ初耳なんだけど!
「待て! 俺はそんな病気じゃねぇぞ!」
「大体そう言う奴ほど重症なんだ」
「だから違ぇって!」
そんなアズールの抗議を聞きながら、補習は再開されたのだった――




