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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第533話 魔力0の大賢者に寄り添う二人目の大賢者

 張り詰めた空気が肌を刺す。


 ファインの視線は完全に僕へ固定されていた。


 憎悪と怒気が一点に収束している――戦いは避けられない。


 止めるには、ぶつかるしかない。


「影ごと燃え尽きろ――影炎(えいえん)!」


 ファインの右手から放たれた黒炎が、地を這うように迫る。


 揺らめくそれはただの炎じゃない。影を引き裂くような禍々しさを帯びている。


 この速度なら、回避は可能。


 僕は一歩踏み出し、瞬間的に加速する。


「マゼルが消えたぞ!」

「転移魔法ね!」


 皆の声が飛ぶ。

 転移じゃなくてただの加速なんだけどね。


 黒炎を置き去りにし、着地した――その瞬間。


「油断するなマゼル!」


 アズールの声が鋭く響いた。

 足元が、ぞわりと蠢く。


 僕の影から黒炎が噴き上がった。


 影そのものが燃え上がるように、背後から黒が噴出し、僕の身体を包み込む。


「残念だったな。転移だろうがなんだろうが関係ねぇ。俺の炎は影を追い、影ごと喰らう」


 ファインの声が冷たい。


「そ、そんな……マゼルくん!」


 アニマの悲鳴が聞こえる。


 黒炎は消えない。まとわりつくように影へ絡みつき、焼き尽くそうとする。


「俺の影炎は“影あるもの”を喰らう。影を持つ限り逃げ場はない。終わりだ、マゼル」

「マゼル――まさかお前まで……」


 ファインの自信に満ちた声。

 イロリ先生の気配も揺らぐ。


 また守れなかった――そんな後悔が滲みそうな空気。


 それは、もう増やしたくない。


「大丈夫です、先生」


 黒炎に包まれたまま、僕は声を出す。


「ちゃんと鍛えてきましたから」


 意識を一点に絞る。

 影と、自分。

 境界を曖昧にする。


 黒炎が、ぐらりと揺れた。


「な、馬鹿な!」


 ファインの声が震える――次の瞬間。


『マゼルが二人になったぁああぁあッ!?』


 皆の驚く声が揃った。


 横を見ると、黒炎に包まれたもう一人の僕。


 以前ギャノン相手に生み出した高速残像とは違う。

 これは、質量を持っている。


「まさか……理論だけで誰も成功させられなかった実体化魔法を……!」


 ゲシュタル教授が声を上げる。

 いや、違うんだけど――と胸の内で呟く。


 これは魔法ではない。

 影を“鍛えた”結果だ。


 思い出すのは、転生前の日常とあの軽い調子の声。


『マゼル、よく覚えておいて。上位魔獣の中には影を使って攻撃してくる連中もいる。影が弱いと、そこから崩されるよ?』


 そう言って、師匠は笑っていた。


『だから影も鍛えるの。身体と同じようにね』


 僕は氣を巡らせ、自分と影を同調(シンクロ)させ続けた。


 動きも、呼吸も、重心も。


 長い年月の中で影はただの投影ではなくなった。


 そして今。


 影は実体を持ち、炎を引き受けている。


「おい、よく見たら片方が炎塗れだぞ」

「あ、それは影を実体化したからで――」

「そ、そうか! 実体化魔法の最適解は影の利用……つまり術式は空間反転理論と影面固定――いや、待てこれは革命的だ!」


 ゲシュタル教授が一人で興奮している。


 なんだか申し訳ない気分になる。


 別に革命的でも何でもない。ひたすら地道に鍛えただけだ。


「そんなことはどうでもいい!」


 ファインが吼える。


「俺の影炎は影を喰らう! 実体化だろうが影なら同じはずだ! それなのに何故立っていられる!」

「えっと……鍛えたから」

「答えになってねぇんだよ!」


 それは本当にその通りなんだけど、他に言いようがない。


 黒炎は確かに影を喰らっている。

 だが、喰らい尽くせていない。


 鍛えた影は、そう簡単には崩れない。


 その時だった。


「かつてのゼロの大賢者の遺した書には、こうあります――」

「ラーサ!?」


 視線を向けると、そこにはラーサがいた。


 いや、どうしてここにいるの?


『私はこれまでも、確実に死ぬとされた即死の邪眼にも、あらゆる生命を焼き尽くすとされた皇帝竜の炎にも抗ってきた。それは私が魔法の真理を追い続け、常に精進を積み重ねてきたからだ――』


 朗々とした声が響く。


『ゼロの大賢者の再来と称されるお兄様も同じです。だから貴方の炎など、お兄様には通じません!』

「な……なんだと……」


 ファインが息を呑む。


 いやいやいや。


 そんなの遺してない。


 あれは確か――ナイスが勝手にまとめていたやつだ。


 どうしてそれが僕の遺書みたいな扱いになってるんだろう。


 何か勝手に伝説が増えてない?


「……なるほど。大賢者というのは伊達じゃない、ということか」

「あはは……」


 妙に納得されてしまった。

 まぁ今更訂正するのも何だし――それに、今はそれどころじゃない。


 黒炎はまだ揺れている。

 ファインの瞳には苛立ちと動揺が混じり始めていた。


 影炎が効かない。その事実が、彼の均衡を崩している。


 戦いは、まだ始まったばかりだ。

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― 新着の感想 ―
今更だけど、筋肉魔法じゃなくて氣で物理限界を超えてたんだなぁ…氣って魔力と違うんだっけ? 魔法とは…物理とは…うごご…
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