第518話 魔力0の大賢者、察して助けに向かう
生徒会執行部からの連絡を受け、僕は学園内に入り込んだ魔獣の対応に追われていた。
巨大な狼型魔獣。
地を揺らす地竜。
空を切り裂く怪鳥。
そして、多頭で襲いかかってきた魔獣の群れ。
次々と現れるそれらを、僕は確実に沈めていく。
最後の一体が地に伏し、完全に動かなくなったのを確認して、ようやく息を吐いた。
「……これで、こっちは大丈夫かな。しばらく目は覚まさないだろうし」
「マゼル~~~~!」
背後から聞こえてきた、間の抜けた声。
振り返ると、巨大化したクマのぬいぐるみに乗ったベアが、のんびりと手を振りながらやってきていた。
「凄い! これ全部マゼルがやったの?」
「うん。ベアの方は大丈夫?」
「大丈夫だよ~。Sクラスのみんなも、好き勝手動いてるし!」
……それは本当に大丈夫なんだろうか。
「それにしても、ずいぶん大きくなったね」
「うん! 私の魔法はね、クマちゃんを操れるの!」
なるほど。
大きさまで自在に変えられるのなら、かなり応用が利きそうだ。
転生前の世界と比べると、本当に魔法の幅は広がったと思う。
「ベア、こんなところにいたのかい」
「あ、ローズだ~」
Sクラスのローズも合流してきた。
周囲を見回すその様子も、どこか余裕がある。
「この魔獣……マゼルが倒したのかい? 本当にとんでもないね」
「マゼルはやっぱり凄いよね! 私のクマちゃんを可愛いって言ってくれただけある!」
「それ、関係あるかい?」
クマを撫でながら胸を張るベアに、ローズが苦笑する。
――魔獣襲撃の真っ只中とは思えない、妙に穏やかな空気だった。
「ところで、この魔獣は起きないのかい?」
「しばらくは大丈夫。でも拘束はしておきたいし、誰か呼んだ方がいいかな」
「それなら任せて。美しい薔薇には棘がある――薔薇魔法・ローズバインド!」
床から茨が伸び、魔獣の体を絡め取る。
力強く、隙のない拘束だ。
「薔薇に特化した魔法なんだね」
「そうさ。特化してる分、色々できる。例えば――」
ローズは茨を引き抜き、軽く振る。
それはまるで鞭のようだった。
「こんな使い方もできるのよ。希望があれば、マゼルを存分に打ってあげる」
「……遠慮しておくよ」
苦笑しか返せなかった。
――助けて……マゼル……。
その瞬間だった。
胸の奥に、ひどく嫌な感覚が走った。
「――今のは」
「マゼル? どうしたの?」
「ごめん! 急がないと!」
説明する暇はなかった。
僕はそのまま校舎を飛び出した。
理由は分からない。
でも、行かなければならないと、体が理解していた。
そして――いた。
首を掴まれ、宙に持ち上げられているビロス。
その前に立つのは、全身が甲殻のような肉体に覆われた大男。
人間じゃない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
踏み込み、一切の躊躇なく蹴りを放つ。
衝撃音とともに、大男が吹き飛んだ。
落下してきたビロスを、そのまま受け止める。
「ビロス。もう大丈夫だから」
「――マゼル……」
抱きついてきた小さな体が、かすかに震えていた。
怖かったんだ。
そっと地面に下ろし、回復を施す。
「温かい……マゼル」
「これで怪我は大丈夫。後は僕に任せて」
「……うん」
小さく頷くのを確認してから、僕は前を向いた。
吹き飛ばされた大男が、ゆっくりと立ち上がる。
「いきなり蹴り飛ばすとは、随分な挨拶だな。大賢者」
「……僕のことを知ってるんだ」
「あぁ。なんとなくな。お前がマゼルだって」
大男は口角を吊り上げる。
「俺はミクス。最強の雄だ」
こいつの名前なんて正直、どうでもいい。
「ねぇ。どうしてビロスを狙ったの?」
問いかける声は、驚くほど静かだった。
「ん? あぁ、その雌か。本当の目的はお前だったんだが……面白そうだったから、少し遊んでやってただけだ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが切れた。
「……だったら」
地面を蹴る――彼我の距離が一気に詰まった。
「最初から――僕だけを狙えよ」
拳を振るう。
音もなく、衝撃だけが伝わり、
ミクスの体が再び弾丸のように吹き飛んでいった。




