第519話 黒の襲来
side アズール
『ぐぉおぉぉぉぉおおお!』
ギャノンの相手だけでも手一杯だってのに、わけのわからねぇ人形どもまで湧いてきて――
そして、ついに最悪の札が切られた。
「ひっ……魔獣!」
魔獣の姿を視界に捉えた瞬間、メドーサが悲鳴を上げた。
次の瞬間だった。
――石の擦れる音。
「え……?」
メドーサだけじゃない。
ガロン、ドクトル、アニマ、メイリア――全員、動きを止め、灰色に染まっていく。
「おい、冗談だろ……」
「まさか、メイリアまで石化しちゃうなんて……」
リミットが驚く。
そうだ。
メドーサは魔物や魔獣を極端に怖がる。その恐怖が限界を超えると、無意識に石化の魔法を放ち、周囲を巻き込む――。
「チッ……面倒事ばかりだな」
イロリが舌打ちするが、
これは“面倒事”なんて言葉で片付く状況じゃねぇ。
魔獣、人形、石化した仲間。
その上――目の前には魔法で攻撃を続けるギャノン。
「テメェ、さっきから何考えてやがる! 魔獣が来てるんだぞ!」
「知るかよ」
ギャノンは吐き捨てる。
「俺を止めたきゃマゼルを呼べ。俺はあいつと戦いたくてウズウズしてんだよ!」
『……そんなに戦いに飢えてるなら』
低く、腹の底に響く声。
『俺が相手してやろう』
見上げた瞬間、会場全体が影に覆われた。
「ちょ……なによ、あれ……」
「黒い……竜……」
リミットの声が掠れ、イロリの顔色が一気に変わる。
黒竜。
その存在感だけで、周囲の魔獣たちの動きが完全に止まった。
次の瞬間――
黒竜の頭上から、一人の人影が飛び降りてきた。
黒ローブ。
フードを目深に被り、顔は見えない。
着地と同時に、そいつが右手を振る。
――黒い火球。
それが降り注いだ瞬間、動いていた人形が次々と呑み込まれ、燃え尽きた。
いや、“燃え尽きた”なんてもんじゃねぇ。
灰すら残らず、完全に消滅。
「……何だよ、あの魔法」
背筋が冷える。
「人形遊びはここまでだ」
低い声。
「ここからは――俺の時間だからな」
「お前……まさか……!」
イロリが、はっきりと動揺を見せた。
「そうか、俺の命をとりに――」
「調子に乗るな」
黒ローブの男が言い捨てる。
「お前は後だ。そう言ったはずだろ」
……待て。今、イロリが“命”がどうとか言わなかったか?
男はイロリの横を通り過ぎ――ギャノンの前に立った。
「久しぶりだな、ギャノン」
「あん? 誰だテメェ」
ギャノンは眉を顰める。
本気で心当たりがないらしい。
「この声を聞いてもわからないか。俺はその声を聞くだけで反吐が出るってのに」
男が、ゆっくりとフードを外した。
その瞬間――ギャノンの表情が凍りつく。
「……お前、まさか……ファインか!? 何でここにいる! 刑務所にいるはずだろ!」
刑務所?
訳が分からねぇ。
「あぁ、いたさ」
ファインと呼ばれた男は、歪んだ笑みを浮かべる。
「お前を恨みながらな。怨嗟の炎を燃やし続け、復讐だけを生きがいに生きてきた」
一歩、踏み出す。
「だから今――俺は最高に幸せだ。お前を、この手で殺せるんだからな!」
「馬鹿が! テメェみたいな雑魚が俺に勝てるかよ!」
ギャノンが指を突きつけた瞬間――爆発。
灰色の煙が、ファインを包み込んだ。
「俺が今ぶっ殺したいのはマゼルただ一人だ。雑魚が邪魔してんじゃ――」
言葉の途中。
煙を切り裂くように、一つの影が飛び出した。
――拳。
ギャノンの顔面に、叩き込まれる。
「ぐぁっ!」
さっきまで余裕ぶっていたギャノンが、地面を転がった。
「誰が……雑魚だって?」
ファインが、今度は嘲るように笑った。




