ごんちゃんと帰るのです
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「おかあしゃん、わしの後をついて来てね。」
真っ暗な闇の中をごんちゃんは歩き出しました。
わたしもその後に続きます。
本当の闇、とはこのようなものなのですね。
いわゆる、文明の利器というものに恩恵を受けて育った身にはあまり経験の無いような暗闇です。
闇の中に何かが潜んで居るような、本能的な恐怖心も湧いてきます。
そんな中、暗闇に輝くような真っ白いごんちゃんの姿はとても綺麗で、目に眩しいくらいです。
「皆、ビックリしたよね。お母さん、急に死んじゃったから。」
自分の足元を見ながら歩き続けます。
「そりゃあね。わしもビックリしたもん。」
「そうだよね。お母さんもビックリしたもん。」
今だに死んだことが信じられない気がしますが、最近体験した事を思い出すと、やっぱり死んだんだろうな、と納得している自分がいます。
「おとうしゃんも、がくもはれも、いっぱい泣いてた。」
この『おとうしゃん』は多分夫のことでしょう。
そして『がく』は長男、『はれ』は長女のことです。
息子は大学進学と同時に家を出て、そのまま就職をしました。
娘も大学を卒業しましたが、勤め先が家から通える範囲だったので一緒に暮らしています。
ちなみに、迷い犬だったごんちゃんを拾って来たのは娘のはれです。
ごんちゃんの呼び方、夫はお父さんで、わたしはお母さん。息子・娘はそのまま呼び捨てなんだな、とちょっとおかしくなります。
「がくとはれの事は、お兄ちゃんとかお姉ちゃんって呼んであげないの?」
「アイツらよりわしの方が大人じゃもん。」
犬の年齢は人間と数え方が違います。
ごんちゃんがうちに来てから7年ほどになりますから、人間の年にすると中年くらい?になるのかな?
それなら息子娘より確かに年上です。
でも、中年のおっさんが『おかあしゃん』呼びしていたらちょっと嫌です。
他所様の事情に口を出す気はありませんが、何をどう呼ぼうとそれはその人の自由ですが、いい年した息子にその呼ばれ方をしたら、自分の育て方を少し考えてしまうかもしれません。
「あれ?」
そんなことを考えながら歩いていると、前を歩いていたごんちゃんの姿が見えなくなっていました。
ごんちゃん、そんな早い足取りだった?
わたしの歩みが遅かったのでしょうか。
「ごんちゃん〜。おーい。」
呼びかけてみますが返事はありません。
気がつけば辺りは真っ暗で、自分の指先も確認できないほどの闇です。
以前、暗闇の中でも目を閉じて暫くしてゆっくり目をひらけば、目が暗闇に慣れて辺りが見えるようになる、と言われたことがありました。
何度か試してみましたが、全く見えるようにはなりません。
気持ちがザワザワして、泣き出したくなってきました。
「落ち着け。落ち着け。大丈夫。」
声にだして自分に言い聞かせます。
迷子になったらどうするか、子供たちが小さい時は約束をしていました。
今は迷子防止に色々便利なものがあるようですが、2人が幼い時はそんなグッズはまだなかったのです。
お店中ではぐれたら店員さんに助けを求めること。
人混みではぐれたら、近くのお店に入ってお巡りさんを呼んでもらうこと、と。
どちらも知らない人に話しかけなくてはいけないと、中々難易度はあるのですが、切羽詰まっている場合は自分から行動を起こさなければいけないのです。
でも、今のわたしの状況はそれに当てはまりません。
大声で泣き叫ぶ、と言うのも一つの手段なのでしょうが、また、変なモノたちに囚われるのは嫌です。
「おーい、ごんちゃん。」
小声でごんちゃんを呼んでみます。
反応はありません。
願わくば、今までのことが全部夢であったらと思ってしまいます。
事故にあった記憶も、今のこの状況も全てが夢で、もう少ししたら携帯のアラームが鳴って目が覚めて、嫌な夢見たなーって起き上がる。
そして、いつもの生活を始める。
これを望むのは贅沢なことなのでしょうか。
わたしはどっと疲れを感じて、その場に座り込んで、目を閉じました。
もう、全てが嫌になった来ました。
このまま、ここで消えてしまいた。
中途半端に意識などが残っているから苦しくなるのです。
気がついたら、指先が暖かく湿ったものに触れていました。
目を開けたみると、ごんちゃんがわたしの手を舐めていました。
「ごんちゃん・・?」
「おかあしゃん、ごめんね。わしが歩くの早かったみたい」
ごんちゃんの周りには光が集まっているようで、キラキラしています。
とても綺麗です。
「そんなことないよ。お母さん歩くの遅くてごめんね。」
わたしはゆっくり立ち上がりました。
ここで嘆いていても仕方がないのです。
わたしは、ごんちゃんと家に帰るのですから。
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