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笑顔

 目を瞑り、バジリスクに攻撃を繰り出す。


 ぶっちゃけてしまえば、先ほどの迅脚と魔装、そしてそれに心眼も加わってかなりきついが、そうも言ってられない。


「真伍さん、なるべくヘイト買ってください。俺がもぐりこんで切り裂いてみます!」


「わかった」


 バジリスクの尾が振り抜かれる。畳が跳ねて砂が舞った。


「畳の影を使え、玖我くん!」


 真伍が叫ぶ。


 それに合わせてはねえ上がった畳の影に隠れる。


〈スキル使用〉

〈迅脚〉


 スキルを発動させ、尾が振り抜かれたタイミングであらわになった腹に潜り込む。


「玖我くん!」


「大丈夫!」


 変身した狐のときの感覚が蘇る。


 ……ここだ。


 腹部右側。


 砂時計型の、核!


 刀で腹部を切り裂く。


 鱗のない腹部はいとも簡単に裂けた。


 ――ギャアアアアア!!


 瘴気が漏れ出す。心眼をとき、俺は直接手を入れて核の場所を探った。


「グゥッ……!」


 のたうちまわるバジリスクに、振り落とされそうになりながら――見つけた!


〈スキル使用〉

〈剛腕〉


「ッ、う、おおおおッ――!!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ダンジョンが閉じていくのを見守り、俺はほっと息を吐き、やっと肩の力を抜いた。


「お疲れ様、玖我くん。よくがんばったね」


「真伍さん……ありがとうございます」


「しかし、久しぶりだが……身長も伸びて、逞しくなったね。彼女との修行はどうだった?」


「楽しくもあり、厳しくもありでした。そのぶん、いっぱいよくしてもらって……家族、みたいな」


「……そうか」


 ぼろぼろになった道場を見渡す。


「真伍さん。これから、動乱の一か月が始まります。どうされるおつもりですか」


「万武盟に掛け合って、何人か派遣してもらうことにするよ。実は以前から、君の言っていたことは万武盟に伝えていた。もしかしたら、なにかが起こるかもしれないと」


「そうでしたか」


 俺とは違って力のある真伍の意見なら、すんなり聞いてくれるはずだ。


 そう思えば、真伍にすべて打ち明けたのは正解だったな。


「君はどうするんだい?」


「俺は……家に戻って、いつも通り過ごしますよ。近くにダンジョンが現れたら討伐しに行って、覚醒した人たちとのツテも作ってみるつもりです」


「そうか……ここに滞在しないか、と声をかけるつもりだったんだが」


「……本来なら、玖我真昼はこの時点では非力な少年でした。ここに滞在することによって、なにか未来が変わってしまうかもしれない。だから俺は、原作と同じく家に籠るつもりです」


「そうか。君の判断を尊重するよ」


「明日には国が対策本部を立ち上げて、なんとかこの異常事態を把握しようとするはずです。万武盟は、動きますよね?」


「もちろんだ。いや……俺に決定権などなにもないが、動かざるを得ないだろうな。各国と万武盟で取引が始まるだろう」


「そうですか……」


 原作通りなら、万武盟は前身の名を捨てて、ダイバー協会となるはずだ。


 そして俺は、そろそろ玖我真昼の覚醒が始まるはず。


 玖我真昼が覚醒しないうちは、家に引きこもってトレーニングを黙々とやるつもりだ。


 ランニングマシーンはこの三年間で買ってあるし……日用品も、先週に全て買いだめを終わらせた。


「しばらくは、個人鍛錬をしてます。何かあったら、すぐに連絡……あ、いや、この住所までお願いします」


 さらっと紙に住所と電話番号を書いて渡す。


「二週間くらいで回線も復活すると思いますので、電話番号も」


「ああ、わかったよ。君も、いつでも真伍道場にきてくれ。私はこれから、家の方でせいとたちの 家族だけでも匿うつもりだ。近くにいないと不安だからね」


 そういえばレオニーの家もだが、真伍の家もかなり広い。


 四人の生徒にその家族くらいは十分住めそうな家だ。


「道場のほうも、しばらく万武盟から派遣された人間の寝泊まりする場になるだろう。一ヶ月間、大忙しだ」


「そうですね。……真伍さん、前に伝えそびれたことを伝えます」


「どうしたんだい」


「真伍さん、あなたは……俺の知る物語の中で、四年後に刺客に狙われて殺されます」


「!」


「不意をつかれたのか、人質を取られたのかわかりませんが……確実に、相手は強者であることは間違いありません」


「……わかった。ありがとう、伝えてくれて」


「どうか、気を付けてください。……じゃあ俺は、家に戻ります」


「ああ。ありがとう、生徒たちを助けてくれて」


 原作のシーンが蘇る。


 ――助けれなかった! 私がもっと早く駆けつけていれば、死ぬことはなかったのに!!


 真伍の慟哭。


 ……うん、やっぱりこの作品のキャラクターには、笑顔が似合う。

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