仕事
翌日、アルリフィーアは早朝から領内の視察に出た。2泊3日の予定で、主にカーリルン公領南部を回るのだ。南部の統合状態や領民の声を直接聞くという、重要な政治行為である。1カ月前から決まっていたことなので、日程は変更できなかった。
騎兵50と歩兵100をニレロティスとヴァル・バルエイン・ウーゼンが指揮し、文官としてベルロントの子ノイルロントらが随行した。
フロンリオンには、ベルロントが留守居役として残留した。
ウィンにも仕事があった。ニレロティスの助言に従って、カーリルン公領の小領主の次男や三男と会ってみることにしたのだ。ベルロントと同じく留守居役となったレンテレテスが、小領主の次男や三男を集めるためにあれこれと手配してくれた。ニレロティスが「ウィンに協力してやってほしい」とレンテレテスに言い残して行ったのだという。面倒見のいい男である。
「ニレロティス卿が若くして武官の筆頭になったのは、誰にでも助力を惜しまない性格によるところも大きいのではないか。『彼の頼みとあらば』という者は多いぞ」とレンテレテスは言う。「よそ者や初対面の者には壁を作るきらいがあるのが欠点だが、まあ信用してもらって構わない。彼ならば必ず信用に応えるだろう」
「レンテレテス卿もずいぶんとニレロティス卿を信じているんだね」
「そうだな。うん。信用している。そうでなければ人に『信用して構わない』などとは言えぬだろう?」
レンテレテスは話ながら、ウィンに会わせる価値がありそうな子弟を書き出していた。
「この男はニレロティス卿の遠縁だな。いや、遠縁というほど遠くもないか。まあ同族だ。腕は立つが五男でな、部屋住みを余儀なくされている。こっちの男は有力貴族の子弟ではないのだが、よく気が付くし面倒な仕事をいとわない。彼もお薦めだ」
「結構いるもんだね」
「そうだな。領地を分割相続させると土地が細切れになっていずれ没落する。そうした家は多い。長子相続が主流になって家は安定したが、嫡子以外は継ぐべき土地もない。次男以下は兄の家臣になるか、傭兵にでもなるかだ」
傭兵、か。ベルウェンが使っている遍歴騎士も使えるかもしれない。
「実際のところ、長男よりも優秀な次男三男もいる。彼らを連れていかれるのはカーリルン公領としては痛いところだがな。かといって長男を差し置いて次男や三男に継がせるとお家騒動の元だし、自分より優秀な弟が近くにいる、というのも愚兄としては心穏やかでは居られない。互いに別天地で活躍させた方が丸く収まるかもしれん」




