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竜魔王~弐の姫外伝~  作者: 月哉
『覇王と死王』
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竜王族が滅んだ…いや、滅ぼされた夜。




竜王族殲滅の首謀者である覇王は、自分の仕事はやり終えたと、宣言通り空間転移を使って自身の城へ戻った。


「帰ったぞ」


「覇王様!おかえりなさいませ!」


「おかえりなさいませ!」


城で留守を守っていた部下の魔族達は、王の帰還に頭を下げる。


覇王はそんな部下達の顔を見る事無く、足を止めずに尋ねた。


「留守中、何もなかったか」


「はっ!特には何も。ただ…覇王様にお客様が…」


「客?」


「あっ、やっと帰ってきた。やほ~、ハオ君。遊びに来たよ」


覇王が『客』という言葉に首を傾げていると、奥から黒目黒髪の少年がパタパタと覇王に向かって走ってきた。


無邪気な笑顔を向ける少年だが、その正体を知る覇王はウンザリとした顔で少年を見る。


「お前…また来たのか?魔王って奴は本当に、どいつもこいつも暇だな」


「え~?暇だから来たんじゃないよ。ハオ君に会いたいから来たんだよ」


「その『ハオ君』って呼び方やめろ」


覇王がシッシッ、と手を振るが、少年はめげる事なく…むしろ不思議そうな顔をして更に近づく。


「なんで?だって君『覇王』でしょ?元の名前は捨てた、って言ってたじゃん。だからハオ君」


「俺はシャーマンの王様か」


「なにそれ?また想造世界の話?」


「まぁな。…それより……なんだその姿?」


少年が現れた時から覇王は気になっていた。


何故なら彼…この少年は以前会った時と全く違う姿だから。


髪の色も瞳の色も、身長ですら違う。


それでも間違いなく彼だとわかるのは、自分を馴れ馴れしく『ハオ君』と呼ぶのは彼しかいないからだ。


少年は覇王の言葉にまた笑みを浮かべると、嬉しそうに自分の黒髪を摘む。


「あは!気づいた?友達っぽく見えるように、ハオ君に近づけて作り直したんだ。どう?お揃いの黒目黒髪。でも地味だよね~。目だけでも変えようかな?」


「地味で悪かったな。日本人は基本ソレなんだよ。むしろ…今のお前、男と女どっちだ?」


自分より年下に見える姿も気になったが、それ以上に中性的な体つきや顔が気になった覇王。


今まで彼は、金髪碧眼で背の高い大人の男の姿をしていたのに、と。


逆に少年は何も気にしてないのか、サラリと答えた。


「どっちでもないよ。元々僕、無性だし。前の姿が男っぽいのも、なんとなく作っただけ。あ!ハオ君、女の子の方がいいなら変えるよ。で、ハオ君巨乳派?貧乳派?あ、普通サイズって答えが1番困るから。ソレは無しね」


「なんの話だよ」


はぁ、とため息をつくと覇王は部下に何かを伝えてから、別の部屋へと向かった。


少年も当然のように覇王について行く。


そして後ろで手を組みながら、子供のおねだりのように自分の望み…ここに来た目的を話した。


「ねぇねぇハオ君。遊ぼうよ」


「嫌だ。お前の遊びは殺し合いだろ」


「違うよ。だって僕は死なないもん。この世界で唯一無二な不死身の存在。勝手に解かれるショボイ呪いとかと違って、何があろうと死なないし殺されない。ハオ君だって知ってるでしょ?」


「そうだな。それがお前『死王(しおう)』だからな」


覇王はチラリと少年を見て告げた。


そして思う。


世界は竜王族を最強の存在と恐れていたが、…不死身である目の前の少年こそ警戒すべき存在だろう、と。


(こいつの場合、最強というよりは最凶か)


自分の想像に少し笑う覇王。


しかし少年の方は今の言葉が不満らしく、口を尖らせた。


「死なないのに『死王』って酷いよね。不死身だから『死を司り操る存在』って勝手に思われてさ。確かに死霊族や悪魔族は僕の部下だし、ゾンビだって操れる。…でも…ハオ君とは部下抜きで遊びたい」


再び笑顔を向け…いや近づけて言う少年。


そんな少年の顔をグイッと手で押し返しながら、覇王はまた苦い顔をした。


「だから遊ばない。そもそもお前が死なないなら、圧倒的に俺が不利だろ」


「え~!遊ぼうよ!ハオ君は僕が全力出しても死なないじゃん!ハオ君だから遊びたいのに!」


「この戦闘狂め」


ウンザリした表情は崩さない覇王だが、それでも少年…死王に『帰れ』とは言わず追い払う事もしない。


目的の部屋につくと、そこには小さなテーブルと椅子が二つ。


覇王は椅子に腰掛けると、諦めたような口調で死王を促した。


「わかった、わかった。酒くらいなら付き合う。今日はソレで勘弁しろ」


「お酒?うんいいよ。ハオ君も僕もザルだしね。やっぱり僕と付き合えるのってハオ君だけだよね」


死王はそれでも嬉しかったのか、ピョンピョンと跳ねながらテーブルへ向かう。


丁度その時、先程覇王から命令を受けた部下の魔族が部屋に入ってきた。


覇王の命令通り、酒とグラスの乗ったトレイをその手に持って。


目の前にグラスが置かれると、死王はソレを口元へ運び、中の液体を一気に飲み干した。


宣言通りザル(いくら飲んでも少ししか酔わない)らしく、死王は勝手に次をグラスに注いでいく。


覇王は部下に追加の酒を数本指示すると、自分も酒を口に含んだ。


三杯目を注いだ死王は、グラスを揺らしながら中の液体越しに覇王を見つめて尋ねる。


「で?竜王族を滅ぼしてきたんでしょ?楽しかった?あ~あ、僕も誘ってほしかったのに。なんで呼んでくれないかな」


「楽しいも何も…俺はほぼ何もしてない。破滅の業火【メギドフレイム】を数発くらわせただけだ」


「わお!それって超級魔法だよね?もう使える上に乱発出来るなんて、さすがハオ君。今度僕ともそれで遊んでね」


「嫌だ」


「ケチ~。…で?これで竜族と魔族の憂いは見事晴れたって訳?竜族までハオ君の味方になっちゃうなんて…簡単にハオ君の望みは叶いそうだよね。『世界を滅ぼして一からやり直す』っていうさ。竜王族まで皆殺しにしちゃうんだもんね」


とんでもない内容をニコニコと笑顔を浮かべながら語る死王。


覇王の方もニヤリとした笑みを浮かべているが、出た言葉は否定。


「いや…そうでもない」


「ん?どゆこと?」


「一匹だけ逃がした。竜王族の子供をな」


覇王はあの生き残った少年竜の姿、そして自分を見つめた瞳を思い出す。


悲哀と憎悪に満ちた黄金の瞳を。


微笑んで酒を一口飲む覇王とは違い、死王は驚いて声を上げる。


「え~!?なんで逃がしたの?」


「そいつは火種だ。保険と言ってもいい。その身に強い力と憎悪を秘めた存在は、世界を混乱させる。必ずな。俺が死んだ後も世界を憎む存在……それを残す為に生かした」


「死ぬ……かぁ。…そうだよね。だってハオ君……人間だもんね」


今までの無邪気な笑顔を消し去り寂しげに呟くと、死王はそのまま目を伏せた。


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