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ガンドレア潜入です

年の瀬ギリギリのある日…


雪が降り積もる中、お城に行っていたヴェル君が戻って来ました。年末だから纏めて休み…という感覚は異世界にはありません。その代わり…通常の週一休みと年末年始の二日間が休日という感じになっています。特に休みに関しては全世界固定の決まりはないようです。


ヴェル君のような軍属になると、ローテーション制の出勤体制が主流のようで、年を跨いで出勤も当たり前のようです。どこの世界も世の安全を守る皆様は本当にお疲れ様でございますね…


通常の商店などは一応、所属している御国の方針で決まった休みを取るように言われておりまして、ここカステカートは週の中日、つまり異世界の呼び名で…火水木辺りを定休日にするようになっております。ユタカンテ商会は水曜日に当たる日を休みにしています。因みに公所は逆に週末休みです。


「急だが…明後日、例のナッシュルアン皇子殿下達とガンドレアの視察に入ることになった」


「こんな雪深い時にですか?ガンドレアって北の方だからもっと雪が凄くありません?」


ヴェル君はコートの雪を払ってからハンガーにかけると


「逆に雪が俺達の痕跡を消してくれるんだ…」


とおっしゃいました。なるほど…足跡も雪が降れば消してくれますしね…うんうん。


「でだ…基本的に隠密活動なので…透過魔法を多用するので…出来ればカデちゃんも術士として参加して欲しいということだ。もしかすると治療が必要な事もあり得るし…まあ危険な戦闘はなるべくしない方向ではあるけど…」


そうか…透過魔法って超高度魔法の上に魔力をすごく使いますしね。お城付きの術士でも扱えない人もいるらしいですし…


「はい、大丈夫ですけど、あの…私、ナッシュルアン皇子殿下の移動速度には付いて行けませんよ?」


「それは大丈夫だ、俺が背負ってあげるから…」


そうですか…そうでしょうね。もう諦めましたよ…旅の恥はかき捨てです。


という訳で…作り置きのおかずを大量にこしらえたり、向こうで食べるヴェル君用のお菓子を作りだめしたり…とあっと言う間にガンドレア帝国に潜入する日がやって参りました。


この日の為に、世を忍ぶ為の忍者っぽいユニフォームをなんとか制作しました。雪の中を歩くので景色に馴染むように忍者衣装のお色目にも注意を払っております。まずは形からですよね〜え?違いますか?でも大丈夫ですよ!ヴェル君にも褒められました。寒さ対策もばっちりです。


「待ち合わせは…シュテイントハラルのギルド前か…」


朝早い時間ですが、オリアナお義母様もルラッテさんも起きて見送りに玄関先まで出てくれます。


あれ、玄関先に見たことある人相?鳥相?の悪い鳥が停まっていますね。


「『お鳥様』だわ、昨日来ていたのかしら…気が付かなかったわ」


私はお鳥様に近づきます。ちょんと鶏冠を指先で触れました。


「カデリーナ=ロワストです」


『魔力確認。再生します』


『カデリーナお返事遅くなってごめんね!ギルドからSSS様達との合同依頼があって…しばらくかかりそうなのだけど、それが終わったらカステカートに寄るわね~』


んなっ!?この声はフォリアリーナ姉様ぁ!?


「このお声の方どなたなの?」


と、オリアナ様に聞かれてアワアワしてしまいます。SSSとの合同依頼?もしかして…もしかしてぇ!


掻い摘んで皆様に事情を説明しました。さて…


私とヴェル君は早朝5刻にダヴルッティ様と3人で転移門を使ってシュテイントハラルの王宮外の転移門に到着しました。


そして…冒険者ギルド前に着きました。すでに三人の人影が見えます。


お一人はナッシュルアン皇子殿下です。後はおじ様とガタイの良いお兄様です。まだ…例の人は来てませんね。


「お久しぶりです。ダヴルッティ様、ヴェルヘイム閣下…ってあれ?この間のお嬢さん…」


ああ、そうだった!自己紹介すらしていませんでしたーー!慌てて淑女の礼を取りました。一国の皇子殿下になんて不敬な事でしょう…


「ご挨拶遅れまして…私カデリーナ=ロワストと申します。その…」


横からダヴルッティ様が顎でクイクイッと指示します。もう…言いたくないけど…


「え~と王籍はありませんがシュテイントハラルの王族出身でございます…」


そう私が言うと、ナッシュルアン皇子殿下はシュテイントハラル…カデリーナ…と呟かれた後、真っ青になり


「カデリーナ姫で在らせられましたか!?この度は…ではないな…っと、兎に角っ積年に渡りご不遇の中に身を置かれる事態に私の叔父が至らしめて誠に申し訳っ…」


と、叫びながら雪の中に膝をつかれました。私はナッシュルアン殿下に慌てて近づきました。ちょっと雪で足を取られて逆にナッシュルアン皇子殿下に支えられたのはご愛嬌で、格好悪い…


「で、殿下っ!そんなっお止めくださいっ。本当に本当に…私は大丈夫です!ああ、そうだこんな時になんですが先日、頂いたお魚…プーラとても美味しく頂きました。ありがとうございますっ!」


ど、どさくさでプーラのお礼を言ってしまって支離滅裂な感じですが…ナッシュルアン皇子殿下はポカンとした後(ポカン顔もイケメンね!)菫色の綺麗な瞳を少し潤ませていらっしゃいます。


あらら…泣かせてしまったのかしら。まだ二十才そこそこですよね?若い子いじめちゃったみたいですね。


「そう…言って頂けると…私も…プーラをお届けしたかいがあったというものです」


声を詰まらせながら…そう言って微笑んでいるナッシュルアン皇子殿下はものすごく美形で最高に可愛かった。グヌゥ…綺麗って無敵ですよね。


そうか、ナッシュルアン皇子殿下の叔父様が、あのロリ…な皇子殿下だったのですね。息子とかじゃなくて良かった、そもそもこんな爽やか~な皇子様の親がアレな訳ないか。


そこへ…タッタッと軽快な足音が聞こえて来ました。


「ごめーん!遅くなりました!」


この声っ!やっぱり…私は朝霧の中走って来る、スラリと背の高い美女を顧みました。


「やっぱりっフォリアリーナ姉様っ!」


美女こと、リア姉様はキョトンとした後、目を丸くされました。


「あら?カデリーナ?あなたこんな所で何をしているの?」


リア姉様は今日も睫毛バッサバサの大きな翡翠色の瞳で、私を見詰めてきます。朝、お会いしてもお綺麗ですね。姉様の寝起き顔も知っていますが、大変可愛かったことを記憶しております。髪はお父様が白銀と少し蒼メッシュ色の髪なので、金と銀の間のホワイトブロンドな大変美しい髪をしておられます。本日は高く結えて…ポニーテイルにしていますね!スタイルも抜群です、身長は170㎝以上ありますよね?


「姉様っあの…」


「あなた、運動苦手じゃなかった?まさかあなたも一緒に行くの?大丈夫?結構な距離を移動するわよ?」


ね、姉様が喋る隙を与えてくれませんっ。こういうズバズバ言う性格も好きなのですけどね…


「取り敢えず~自己紹介始めよっか!まずは俺ね、ギリデ=テットリー、トリプルスターです!宜しくね~」


ひゃああ!このおじ様がもう1人のトリプルスター様ですかっ!かっこいい!


「ロウエンカ=ギルと申す。SSクラスだ…」


見た目も大きくてヴェル君くらいありますが、中身もどっしりとした渋いお兄様のようです。


「では改めてナッシュルアン=ゾーデ=ナジャガルと申します。SSSクラス、トリプルスターです」


ナッシュルアン皇子殿下はキラキラと言うより、サラサラ…という清涼感のある皇子様ですね。ミントの香りがしてきそう。変な王子圧みたいなものをぶつけてこないし、それになんだか可愛いのですよね…年上のお兄様にすみません。


「はい、初めまして!の方もいるわね。フォリアリーナ=カッテルヘルストと申します、SSクラスです。そこのこじんまりした、カデリーナの従姉妹になります」


こじんまりは余計ですよっ姉様!


そして姉様に目線で促されて私も自己紹介をしました。


「カデリーナ=ロワストと申します。え~と先ほどのナッシュルアン皇子殿下とのやり取りで、皆様は私の素性も分かっておられるとは思いますが…治療術と魔術障壁を得意としております。宜しくお願い致します」


私が自己紹介を終えるとギリデ様が、リア姉様と私を交互に見ながら話し出しました。


「リアちゃんも治療術、使えるでしょ?そちらの姫ちゃんも使えるの?」


リア姉様は苦笑いを浮かべて私を見ています。


「使える…なんて言い方じゃ足りませんわ、カデリーナは世界最高の治療術士だと思っています。カデリーナにシュテイントハラル治療術院の院長位を継いで欲しいのです。本人が嫌だと言って王籍を離れたから仕方がないのですが…いつまでもお菓子を作ったり、魔道具ばかり作っていないで欲しいのだけど。そうだわ、いつも言っていた民間の治療術医院開業の資金は貯まったの?」


全部バレてるのってやりにくい…ジーっと睨んでみましたが、リア姉様は「早く言いなさい」と言って全く意に介してくれません。


「7割くらい貯まりました」


「そう、頑張ったわね!目処が立ったら連絡してね。頑張って魔道具や化粧品を売り込まなきゃね~資金の為に必死に貯金しているものね」


ああ、忘れていました…フォリアリーナお姉様も女版腹黒でしたっけ。別に私に嫌味を言う訳ではないのですが、姉様が敵認定をした相手には蛇のような執拗さで苦しめるのは、重々承知しております…


「コホン…自己紹介を続けていいかな?」


おおっといけない!私はダヴルッティ様に少し頭を下げました。


「失礼、ルーブルリヒト=ダヴルッティだ。カステカート近衛騎士団に所属している。冒険者はSSクラスだ」


ええ!ダヴルッティ様SS様だったの?道理ですごいはずですね…


「ついでに、フォリアリーナ様に頼まれて欲しいことがあるのだがその話は後で…」


姉様が少し頷いてから私を見たので、私も頷き返しました。敏い姉様の事だから私の用事とダヴルッティ様の用事が、同種のものだと気付くはずです。


そしてヴェル君が自己紹介を始めました。


「ヴェルヘイム=デッケルハインです…ガンドレア出身です…今はカステカートの近衛に所属しています」


ギリデ様達は息を飲まれました。そりゃびっくりしますよね。すると、とんでもない方向から私に質問が飛んできました。


「ちょっ…カデリーナ!アルクから、あなたがヴェル…なんとかという男の子と同棲してるって聞いたけど、もしかしてこの魔将軍のことなのぉ!?国王陛下には黙っててあげるから正直に言いなさいっ!」


フォリアリーナ姉様っ!?ど、どど、同棲っ!?いえ間違ってないけどぉ!せめて同居と言って欲しいっ。


「フォリアリーナ様…どうか私達の仲を認めて下さい…必ずカデちゃんを幸せにします」


ちょっと!?ヴェル君ちょっと待って!リア姉様に言っても困るよっ!まずはお父様とお母様に言ってくれなきゃ~!


言われたリア姉様は頬を染めて口をパクパクしています。そして私を見詰めて…何だか感極まってます?


「いいわ~~いいわぁ!これよこれっ!なによぉ~駆け落ちしたとか市井で噂になってたけど本当なのね!ああ、素敵なロマンスねっ羨ましいわっ!」


いやちょっと待ってっ待っててばっ違うしっ?また駆け落ち疑惑ですか!?違うしっ!


私達はガンドレアに移動しながら、諸々の誤解を解くべく熱弁を揮わせて頂いた。ああ、疲れた…魔物に会う前に疲れたよ…


姉様にヴェル君との出会いを(ポカリ様を除いて)説明し終わると、リア姉様は溜め息をつかれました。


「ヴェルヘイム様もほーんと大変だったわね…でも今はお幸せかしら?」


因みに皆様は高速移動中です。普通に会話しながら走れるってすごいですね…私はヴェル君の背中の上です、楽してすみません…


ヴェル君は微笑んで「幸せです…」と呟いてリア姉様に小突かれています。リア姉様ヴェル君を気に入りましたね?恋愛方面で弄って遊べる男だと思っていますね?目が弄ってやるぜ…という輝きを放っております。


「しかし、聞けば聞くほどガンドレアの姫様って評判悪いねぇ…ホラ、どこかの国の綺麗な王子様も狙われて…逃げ出したとかって聞いたよ?」


ギリデ様の言葉に乾いた笑いが起きます。そ、それっフィリペラント殿下じゃないかなぁ~あはは…


「実は…それは私の腹違いの弟でして、おまけに…はぁ…次は私が狙われてしまったようなのです」


ぴーんと来ましたよ。この愁いを帯びた話し方…同情を誘う切り口、これはダヴルッティ様とうとうアレを姉様に頼みますね。てか、姉様なら喜んで…というか面白がってこの作戦に乗ってくれると思いますけどね。姉様は怪訝な顔をされました。


「ダヴルッティ様は…どういう御関係?」


「腹違いの兄になるのですよ、今は継承権は放棄して王籍は離れてますが…まあ事実上、兄の立場のままです。それで弟達を支える仕事をしている訳ですが…先月、ラブランカ王女殿下とお会いする機会…というか、会ってしまったというかで、嘘も方便で俺には妻がいるし子供もいると言って逃げたのですが、来月にガンドレアまで来てくれと招待までされてしまって、今は逃げ場無しなのですよ」


リア姉様は沈痛な面持ちをされています。そりゃ初代秋祭り王子様の愁いを帯びたお顔で話されたら、大概の女子は同情的になりますよ。


ダヴルッティ様は事情を事細かに話されました。リア姉様は食い入るようにお話を聞かれていて


「分かりましたわっお任せ下さい!私がラブランカ王女殿下の魔手からダヴルッティ様をお守り致しますわ!」


と、大盛り上がりで賛同してくれた。ダヴルッティ様は満面の笑みです。それはそうと…今更ですが、身代わりの妻役…リア姉様でよかったのですよね?


「さあ、皆~国境に着いたよ。この砦を抜けたらガンドレアだよ。ちなみにシュテイントハラル側の役人は全部味方だから、危なくなったらここへ逃げ込むってことで…目的はあくまで偵察と現状確認。まずはガンドレアの冒険者ギルドが機能しているか確認しよう。実は1月前から連絡が途絶えたらしいの…せめてギルドを討伐拠点に出来たらいいけどね…」


SSS、トリプルスターのギリデ様のお言葉に皆様、頷きます。緊張しますね~私はヌクヌクとヴェル君の背中に居ますけどね…こんなに真剣な場なのに若干眠くなってきているのはお許し下さい。


しかし、この後に目の冴えるような事態になろうとはこの時の私は分からなかったのです。

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