偽装婚姻 フォリアリーナ&ルーブルリヒト
番外編です。
10/07誤字報告ありがとうございます。
SIDEフォリアリーナ
「君って想像していた女性とは…全然違うのだね」
何を想像すると言うのよ?見た目が派手だから何?公爵家の令嬢だから何?
そう言って向こうから近寄って来るのに、そう言って去って行く男達が多すぎて…正直諦めたわ。
きっと、私が公爵家の令嬢で冒険者を遊びでやっていると思っているのよね。任務で長期の留守をすることを告げると二言目には男共はこう言った。
「君が無理して依頼を受けなくてもいいんだよ?」
何それ?私、無理していないけど?やりたくて…やり遂げたくて冒険者をしているのだけれど?
所詮は女だから、公爵家の令嬢だから、ギルド長の娘だから、容姿が人と違うから…
何よ好きでこんな顔に生まれたのではないわっ。ルヴィオリーナだってカデリーナだって、よく似た顔よ?なのに何故…あの子達は好きな人に巡り合って想われて…
いけないいけない、こんなこと思っちゃいけないわ…
私は気持ちを切り替えると、シュテイントハラルの冒険者ギルドの扉を開けた。
「おかえりリア、カデリーナ姫から伝言があるよ」
ギルド長の父が帰って来た私に声をかけてきた。
カデリーナ?何かしら?
あ!もしかしてさっきアルクリーダから聞いてきた…ヴェ…なんだったけ?の人と、同棲してるっていうアレの相談かしら?
「何でもお願いしたいことがあるから、なるべく早く会いに来て欲しいのだって…何だろうね?」
「本当ね。でもすぐは無理よね、ギリデさんに頼まれたガンドレアの例の…結局、皆は不法な手段に尻込みして人数が集まらないのよね?もし集まらないのなら私が行ってもいいかしら?」
そう私が言うと父はすぐに頷いてくれた。
「ガンドレアの国内の世情は随分荒れているらしい…もしかすると、魔獣討伐より怪我人の救護の方が必要かもしれん」
「そう…それなら私の方が適任ね」
冒険者をしていて意外と治療術も重宝する。自身で治せるので怪我で身動き取れなくなる…という事態には陥らないので討伐では役に立つ。今回のようにSSSからの特別任務でも討伐人選で一人は治療術士を入れる事は魔獣討伐の基本中の基本なので、治療術士で冒険者という職業を選んでいる人も少なくないのよね。
「取り敢えず、ギリデさんに私も行きますとお伝えしておいてね。そうだ、カデリーナに連絡しておくわ。『お鳥様』使おうかしらね」
ギルドの奥の戸棚から人相の悪い魔道具、『お鳥様』を取り出した。何故こんなに目つきの悪い鳥の魔道具にしたんだろう?作った魔道具師の悪意を感じるわ…
お鳥様に魔力を注入する。そして鶏冠を押しながら声を録音して…背中の羽にカデリーナの住所を書いた紙を張り付けた。すると紙が光って消えると、お鳥様がこちらを一睨みしてから空中に飛び上がった。
何故睨むの?相変わらず変な魔道具ね。さて…ガンドレア行きの準備をしましょうかね…
そして
ガンドレア入国の時に彼に出会った…
ルーブルリヒト=ダヴルッティ。年は私より5才上。背も私より頭一つ高い。
存在は知っている…私だって王族に連なる者だし、他国の王族の略歴などは頭に入っている。
第一王子殿下としてカステカートに生まれながら、僅か10才で継承権を放棄して王籍を離れ、軍に入隊した変わり者の元王子様。見目麗しく、カステカート一の美男子だと噂だった。
しかし噂以上の美丈夫ね…これは眩しいわ…あらいけない、目をやられてしまうわ。遮光魔法をかけましょ…
少し話を聞いただけだけど…あのガンドレアの良くない噂だらけのラブランカ王女殿下も、食わせ者の元王子に粉をかけるなんて、私だったら絶対に近寄らない男だわ。
こんなヘラヘラしているように見せかけて底の方が恐ろしい男は、ごめんだわ。しかし偽装婚姻ね…まあ、私の方は婚姻相手もこの先望めないだろうし…偽物とはいえ、夫を持つ気分だけでも味わえたらいいかな?
「偽装とは言え、夫婦になるのだし愛称で呼んだほうがいいよね、俺はルーブで宜しく!」
何?この距離感の無い男は…すごく近づいて来るわね。精神的にも体感的にも…
「私はリアでお願いします…それはいいのだけれど、こんなに近づいて話すことかしら?」
「今から仲の良い夫婦の演技を身に付けておかなくちゃ本番で上手くできないよ~?」
思わず胡乱な目で眩しい元王子様を見てしまう。いつも女性に対してこんな距離感なのかしら?これは女性は勘違いするわね。
「僭越ながら、こういう体を密着させた話し方を人にされると、あらぬ誤解を生みますよ?」
私がそう言うと嘘っぽく驚いた顔をして
「リアだから密着しているのだよ~夫婦だしね」
と白々しく言い切った。益々胡乱な目で見てみる。
「…まだ婚姻してませんよ」
変な元王子様だわ…それが私の彼への第一印象だった。
ギルド前で合流した、カデリーナの噂の同棲相手も話してみると大人しい美丈夫な方だった。あのラブランカ王女殿下に目をつけられるなんて…お気の毒ね。
どうやらルーブとは性格的には真逆の美丈夫なのだけど、ラブランカ王女殿下の殿方の好みがよく分からないわね。もしかして美形なら誰でも口説いているのかしら…それも怖いわね。
ガンドレア帝国は予想以上にひどい状態だった。
魔獣と戦う術のない住民だけが被害にあっているようにも見える。軍は放置だなんて国としては有り得ない。SSSのナッシュ様も怒っておられたけど…。兎に角、怪我をされた方を治療していく。カデリーナほど術を使いこなせないけれど、頑張るしかない。
「もう死ぬのかと…女神様のお使いがとうとう来たのか…と思ったよ」
中年のおじ様の死ぬ死ぬ駄洒落に泣き笑いになりそうだわ…
「残念ながらお迎えはまだですよ~早く良くなって下さいな」
「あははぁ…本当にありがとう…ありがとう…」
涙零れちゃうわ…ああ次は小さい赤ちゃんね。ああ…目を潰されて…
「目の欠損は後日、再生治療を致しますので今日は回復と外傷を治療致しますね」
若いお母さん…私と同じ年くらいかしら?赤ちゃんの枕元にはもう少し大きな女の子がいるわ。
「ミーちゃんの目…治るの?綺麗な目なのよ?」
思わず涙が零れてしまう。いけない…泣いている場合じゃないわ。女の子の頭を撫でて上げた。
「ええ…もう大丈夫よ。はい、回復魔法ね」
女の子…お姉ちゃんかな?…に回復魔法をかけてあげてから、赤ちゃんの周りに治療膜を張る。早く良くなって…祈るような気持ちだ。
その日の夜
ギリデさん達とで明日の打合せをした。シュテイントハラルから治療補助の援助に来てくれたし…ここの安全は確保された。明日はこの辺り周辺の魔獣討伐に行こうか…という話になった。
明日に備えて解散…となった時にルーブルリヒト…ルーブに一杯飲まないか?と誘われた。
「こんな時に…」
「こんな時だからだよ、飲まないとやってられないと…思わない?」
一理あるわね、本当に心が塞ぎ込む…このまま寝てしまったら色々と悪い想像ばかりで夢見が悪そうだ。
伯爵家の今は使っていない温室に入らせてもらう。花は枯れてボロボロだ。お手入れをしている余裕もないのね。生きるか死ぬか…ですものね。ああやだ…また気持ちが…
「ほら、カステカートの銘酒だよ。おつまみもあるよ」
ルーブは温室に備え付けのソファに浄化魔法をかけて私を誘うと、ヨジゲンポッケの中から次々とお酒、グラス、おつまみ等々色々出してくる。準備がいいわね。二人でグラスを合わせた。
ルーブの出してくれたお酒は甘めの果実酒だった、美味しい…
「美味しいわ…ルーブ。美味しいって感じられるのね、幸せね…私」
本当に不甲斐ない。カデリーナのように治療術に特化もしていなくて、かと言って魔獣討伐に関してはヴェルヘイム様やナッシュ様の足元にも及ばない剣技だし。ああ、何の為にここに来たのだろう…
「情けないわね…冒険者ギルドを代表して来ているつもりだったけど…ヴェルヘイム様や殿下みたいには強くないし、役に立ててないわ。だからお嬢様の遊びだなんて言われちゃうのかしら…」
ポン…と頭にルーブの手が乗せられた。優しい魔力波形だわ…魔力は嘘をつかない。カステカートに嫁いだルヴィオリーナの口癖を思い出した。そう…人は口で嘘をつくけど魔力は嘘をつけない。魔力波形に持ち主の感情…心の闇が照らし出される。この人は食えない、元王子様だけど、心根は真っ直ぐな人だわ。
「リアに出来ることはいっぱいあるよ?勿論治療もそうだけど、特に俺にとっては救われたよ~?」
「救われた?」
「今度のガンドレアのご招待…本気で困ってたんだよ?ヴェルの仕打ち聞いたでしょう?あの姫、えげつないんだよ!もし俺がすげなくしたら…外交問題にされそうで、また戦争の火種になるかも…て思って本当に悩んでたんだよ?一緒に来てくれるのが、君で本当に嬉しいし助かるし頼りにしているよ!」
この人って…人心掌握のツボを知っているのね。私がどう言えば喜ぶかとか、安心するかとか…分かってて発言しているわ。この人の魔力波形はすごく落ち着いている。これは上に立つ方の波形ね。王族か…実際はまだこの王族風をあちこちで吹かしまくっているに違いないわ。この王族風に煽られたら一溜りもないわね。
「皆さん屈強な軍人でしょう?女性一人に何をそんなに怯えていらっしゃるの?たかだか年増の王女でしょう?」
仕方ないので、王族風に煽られたフリをして大げさにラブランカ王女殿下を罵ってあげてみた。途端にルーブは嬉しそうな顔で私に抱き付いて来ようとした。
あらっ?それは厚かましいですわよ?私はヒラリとかわすと
「ご心配なさらなくても私がしっかり護衛して差し上げますから、お・う・じ・さ・ま!」
と、ルーブに笑いかけてみた。ルーブはしばらくボーッと私を見ていたけれど突然、ガバッと頭を抱えて俯いてしまった。
ど…どうされたの?頭、痛いのかしら?
「おぉ…」
「お?」
「俺のーーリアーーがぁーー可愛すぎるーー!」
嫌ですわ…もうお酒に酔ったのかしら?それとも食わせ者に見せかけた、只のお馬鹿さんだったのかしら。
俺の~とか自分の~とか女性を所有物扱いする男に碌な男はおりませんわ。まあ所詮偽装だし?適当にあしらっておきましょう。
グラスの果実酒を一口飲む。おつまみは…へえ、マンマの炙りね…なかなか美味しいわね。横で…拷問だ~とか滾る~っとか叫びながら悶絶している、元王子は放置しておいて…一人酒と洒落込みましょう。
「ああ、美味しい…」
FIN
SIDE ルーブルリヒト
「あ~あ、参ったなぁ…あんなに執拗な王女だとは思わなかったよ~」
「ル、ルーブ兄上っだからあれほど、気を付けてっと…」
がなり立てるフィリペラントの可愛い顔を見て思わず苦笑した。だってねぇ…てっきり可愛い系の男が好みかと思ってたもんな。ヴェルだって体は大きいけど中身はかなり可愛いし。フィリペは外見は可愛いしな…外見はな…
「アレは…外見の美醜のみで選んでいるのだろう?男の心根など露も興味が無いと思う」
王太子殿下ルーイドリヒト、俺の腹違いの弟がそう断言する。お前…すぐ荷馬車の後ろに隠れてやり過ごしてたくせに。因みにフィリペもルーイと同腹で俺の腹違いの下の弟だ。
意外と思われるかもしれんが、俺達三人は仲が良い。早々に王籍を離脱した俺を担ぎ上げようとする馬鹿はまだいるのだが、それすらも三人で撃退してきた。母親同士が大親友ということも関係あるかもしれん。今日も母親達は二人仲良く、遠方の美肌効果のある…という噂の温泉に出かけている。
王籍を離れたい…と宣言した時に一番反対してきたのはルーイ達の母親、王妃だった。
「あなたが一番王位に向いているのよっ!どうしてなのっ!」
めっちゃ詰られて泣かれた。あまりに激昂するから俺の母…妾妃とルーイ達、父…国王陛下までもが宥める始末。しばらくネチネチそのことに触れられて愚痴られた。何だよ一体…しかし最近では…
「本当は今でもルーブが一番王位に向いていると思っているのよ?でもね、あなた達三人で何でも相談して決めている姿を見て、本当は三人で王位につきたかったのかな?とか最近は思っているのよ?」
正解です、王妃殿下。
俺が王位を継いでしまうと弟達は何でも俺に従ってしまう。それでは俺は誰に意見されることなく傲慢な…愚王へ転落していってしまう。自分でも分かっていた。だから三人で決めていきたかった。俺はルーイに丸投げしたフリをして、この国を後ろから支えることにしたのだ。今でも後悔はしていない。
只、この後ろから…とか前に出ていない立場が貴族の娘達から見れば歯がゆい状態らしかった。
「ルーブ様はいつでも王位に返り咲けますものね」
こんな馬鹿を言う女は切り捨ててきたし…勝手に俺を王位につけようと躍起になる女も粛清してきた。
結果…俺の周りには見目だけを褒め称える頭の軽い連中と、本当の俺に付き従う腹黒しかいなくなってしまった。
俺の隣に立って一緒に歩いてくれるだけの人でいいんだけどなぁ…そりゃ、家柄とかは確実に必要になってくるけど。
正直、王族だって何が起こるか分からない…ルーイに魔手が伸びて来るかもしれない。今はヴェルが居るから安全度が格段に上がったけど、それでもカステカート王家の血筋を絶やす訳にはいかない。
血族を残す…その為の婚姻だ。万が一の保険は取っておきたいしな。これを女性に言うとドン引きされて逃げられるので言えないが…婚姻選びの必須条件はそれだ。
しかし今までの出会いでそれすらも凌駕出来るほどの、一目惚れをした女性もいなかったしな。今更そんな身を焦がすような恋愛が出来るとは思えない。
実は俺の愛読書は、巷で若い女性がよく読む純愛小説なのだ。読みながら、こんな運命的な出会いなんてあるものかっ!と思いながらも…こっそり憧れている。あの世まで持って行く秘密の案件だ。
偽装婚姻か…自分で言いだしてみて、まるで小説の中の話だなぁ…と他人事のように思える。心でこっそり思い描く理想の条件をヴェルに話して聞かせて…翌日、ヴェルがカデリーナ姫の従姉妹の話を持ってきた時は正直驚いた。
冒険者で公爵家の令嬢だって?しかも21才で未婚。シュテイントハラル一の美貌…嘘だろう?
そんな小説の登場人物みたいな令嬢なんているものか…どうせ身内贔屓でカデリーナ姫が話を盛っているだけだろう?
いや、待てよ…カデリーナ姫も小柄な体躯だがかなりの美貌だ。ルーイの嫁のヴィオ妃も美形だ…これはひょっとするのか?
まあ…美麗な顔はどっちでもいいか。自分の顔で見慣れているしな。家柄や年を考えれば偽装婚姻の適任者であることは間違いない。しかし…何故か胸が逸る…決して運命的なアレコレを妄想している訳ではないっ!
コーデリナ神よ…
今はあなたに感謝致します…この運命をありがとう!
フォリアリーナ=カッテルヘルスト。21才、シュテイントハラル一の美貌の持ち主。加えて冒険者でSSクラス…性格は明るく、打てば響く受け答えで、小気味良い。
理想が居たーーー!妄想の産物のはずの俺の嫁がここに居たーーー!
しかし妄想の俺の嫁は素っ気なかった。俺を見ても一瞥しただけで、偽装婚姻には二つ返事で快諾はしてくれたが、それ以上の話には乗ってきてくれない。
いつもこれで女性は堕ちる!という接し方をしてみても胡乱な目を向けて来るだけで、ニコリともしてくれない。
いつもなら…どうでもいい女なら一発で俺の虜なのに。ああ…彼女は俺にとことん興味が無いのか…いや、まだ諦めることはない!このガンドレアで押して押して…必ず偽装から本物の婚姻関係へと変えて行けばいい!
フォリアリーナ…リアは見た目は派手な美人だが、心根は非常に優しい女の子だった。今も治療しながら中年のオヤジと笑顔で話している。おい…そんなおっさんには笑いかけるのに俺には渋い顔しか見せないってどういうこと?
その日の晩、明日の打合せを終えて各自休もうとした時に、思い切ってリアを晩酌へ誘った。
女の子向けのお酒、持って来てて良かった~何が幸いするか分からんな。
リアを誘って無人の温室に入って行った。コソリと温室周りに消音と防御障壁を張る。
リアは落ち込んでいた。どうして自身との比較対象がヴェルやナッシュルアン皇子殿下なんだ?あんな強さじゃ人外領域にいる武人と可愛いリアが同レベルの強さなら逆に怖いわ…
俺の話をジッと聞いていたリアは俺を王子様呼びした後に、可愛くフワッと微笑んでくれた。
し、幸せすぎるっ!今、魔人に襲われても悔いは無いっ!
散々悶絶してリアに呆れられながらも、その笑顔を脳裏に刻みながらその日は熟睡出来た。
その次の日から俺のリアへの想いは日に日に増す一方だった。
リアはガンドレアから帰国後は俺の住む離れに引っ越して来てくれた。勿論、すぐに国王陛下と妃殿下と母に紹介した。弟達もものすごく喜んでくれた。家柄最高、容姿も最高、性格も最高。どうだ俺の嫁すごいだろう?
しかしその凄い嫁は今、すごく渋い顔だった。今日は城にドレスの仕立て屋を呼んでいる。
「服なんてどれでもいいわよ?着れればなんでもいいじゃない」
「リアッ!ガンドレアでの君の使命を忘れたの?君は最高の状態であの王女を完膚なきまでに叩きのめして見せなければいけないのだよ!」
リアの負けん気の強さを擽ってみた。思った通りリアは表情を変えた。
「そ…そうね。実はヴェルヘイム様にもちょっと言われたのよね、ラブランカ王女殿下をへこまして下さい…てね。フィリペ殿下も半泣きで義姉上なら絶対勝てます!て、でもね?いつの間に勝負ごとになったの?」
俺はリアの手を取った。
「今度の婚姻式は正に戦場だよっ…ヴェルも酷い目にあったけどフィリペだって…お見合いの席で○○○を△△△してあげるから□□□になって○○○とか…ものすごく卑猥な事言われながら、若干15才の幼気な少年の時にあの王女殿下に迫られて…うぅ…未だに女性と上手く付き合えないほど心に傷を負ってしまったのだよっ!」
古傷を抉るようなことを…フィリペすまんな。お前の犠牲は無駄にはしない!
リアはそれを聞いて真っ青になってしまった。まずい…女性には刺激が強すぎたか?
リアの肩を抱き寄せようと手を伸ばしたが、急に立ち上がったリアにその手を叩き落とされた。ええ?何?
「なんてことっ…そんな年端も行かない少年に、ひ…ひわっ…卑猥すぎるわっ!許せないわね!ええ、ルーブ…これは敵討ちねっ。最高のドレスでぐうの音も出ないほど格の違いを見せつけてあげましょう!」
よ、良かった…乗り気になってくれた。良かった…よな?
リアはそれから、俺の言うがままにドレスを採寸し、俺の好みの色彩のドレスにも文句も言わずに付き合ってくれた。恐らく怒りに燃えているからだ。しばらく燃料投下してこの勢いのままリアの気持ちを高ぶらせて、シュテイントハラルの婚姻式まで持ち込みたいっ!
我ながら姑息な手だが致し方あるまい。リアは俺の事にさほど興味があると思えないのだ。情けないが怒りの矛先を上手く誘導しなければ、俺の方すら見てくれない…もう泣きそう。
俯いて顔を手で覆っていると、ソッと背中に手が当てられて魔力が流れて来るのを感じる。顔を上げると女神が如く美しい微笑みで俺を見詰めるリアが横に座っていた。
「ルーブ疲れたの?女性のお買い物って付き合うの疲れるでしょう?当の本人の私が疲れているのだからね…うふふ、どうしたの?」
リアを見詰めたままゆっくりと顔を近づけた。拒絶されるかな…と思ったがリアの柔らかい唇に触れる。魔力がまた流れてくる…心地良い。暫く軽く口づけを交わしてからゆっくりと顔を離した。
「ごめんね…偽装なんてもう無理だ」
俺がそう言うと驚いた顔をしたリアは呆けたような顔をしていたが、一度目を閉じてそして…その美しい瞳で俺を見詰めると
「じゃあ仕方ないわね…こうなったら最後まで付き合ってあげるわ」
と笑いながらそう言った。
え?
今なんて言ったの?
今度は俺が呆ける番だった。あまりに俺がポカンとしてるので怪訝に思ったのかリアは
「もしかして…冗談…だったの?」
と聞いてきた。そして段々悲しげな顔になってきたぁぁぁ!?マズいマズいっ違う違うっ!
「ちがっ…そ…っ本当なの?本当に最後まで付き合ってくれるの?死ぬまでだよ?イヤ…死んでも離さないよ?俺、ねちっこいから、本当に離れないし離さないよ?」
すると、頬を赤く染めながら優しく微笑んだリアは俺に口づけをしてくれた。
「私も一度好きになったらねちっこいのよ?覚悟してね」
くわーーーっ俺のリアが神がかって可愛すぎるーーーっ!
我慢出来ずにガバッと抱き付いて深い口づけをする。リアが消音、三重魔物理防御、おまけに透過魔法までかけてきた。そんなにイチャイチャしてるのが周りにばれるの、恥ずかしいの?
「ルーブ…もうっ…こんな所で…う…ん」
いちいち可愛いなぁ…リアの体を弄っていく。今日は質素だけどドレスを着ている…素足に触りやすいな…臆せずに拒否されないのをいいことにドンドン触っていく。
「ル…やっ…ちょっとここで?待って…」
口ではイヤイヤ言っているけど本当に嫌なら実力行使するはずだよな?体は全然力が入っていないし…
「リア、ダメ?」
「…そんな可愛いフリして…うぅ…ん…あ…もう…わかっ…優しくして…」
「りょーかい」
じっくり時間をかけた。
かけたけど…
「優しくするって言ったのにっ!」
と、終わった後で散々怒られた…
反省はしているけど後悔はしていない。
俺のリアは世界一可愛いのは間違いない。
FIN




