表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

旅の恥はかき捨て

「え、でもリア姉は食べてる…けど…」


ヴェル君いつの間にそんな呼び方を?そ、それはともかく…


ヴェル君が指差す方向を見ると、皆様と同じく火炎魔法を使ってゴ…を焼き落としているリア姉様は落としながら、アレの足を捥ぎり…た、食べているじゃありませんか!?いやーーっ!姉様やめてーー!もう姿形がいやぁー!


ロイエルホーンも魔獣鳥も食べているくせに、今更何を言ってるんだと笑われそうですが、嫌なものは嫌なのですぅ!


あんなに綺麗な顔をしてゴ…をモリモリ食べている姉様の中身がおっさん過ぎる…


「美味しいの?」


「ルル君っあんなの真似しちゃっダメですよ!」


「いや~うちのリアは豪快だねぇ~」


何がうちの…ですか。急に距離を詰めてきたような言い方のダヴルッティ様のキラキラ顔を睨みます。


「そういえば、ナッシュルアン皇子殿下がおっしゃっていましたが…何故ダヴルッティ様とリア姉様までシュテイントハラルで婚姻式をするのですか?例の偽装の為…ですよね?」


ダヴルッティ様は何だかいや~な謎圧?を出しながら片手は休むことなく火炎魔法を出している。


「まぁ~色々あるのだよ?色々ね…フフフ…」


と笑いました。なんだかなぁ、イヤだわ。リア姉様の事だから流されて…とか考えなく…ということは無いだろうけど。


「よしっ、この辺りの魔獣の群れは大方、討伐出来たようだ。どうやらこの先に人の気配があるな。そちらに行こうか」


ナッシュルアン皇子殿下の提案に皆様、素早く移動します。私はルル君とジャックス君の少年2人に手を引かれて歩いています。ルル君が足首辺りに風と重力無効魔法を使ってくれます。うわわっ!これ早く進みますね。足さばきが軽ーい。私も使えるように練習します!


「足が軽く…動く…便利な魔術です」


ルル君ちょっと照れてますか?可愛いなぁ!


前方に少し大きな建物が見えて来ました。公民館みたいな建物でしょうか…あの中にたくさんの人の気配がします。


「あそこの青い色の屋根の建物の中にたくさんの人がいらっしゃいます!」


私がそう言うとヴェル君が少し頷いて、その建物の前に向かいました。ナッシュルアン皇子殿下達も続きます。扉の前でギリデ様が建物内に向かって声をかけられました。


「カステカート冒険者ギルドから参った者です。開けて頂けますか?」


すると…恐る恐る扉が開けられ、若い男性達数名が顔を覗かせました。


「ギ、ギリデさん!」


顔を覗かせたお一人がギリデ様とお知り合いだったらしく、飛び出して来られると泣き崩れられました。


「もう…も…ダメかと思っていました…良かった…」


「うんうん、もう大丈夫だよ〜よく頑張ったね」


ギリデさんは飛び出して来た男性を慰めました。扉近くにいた他の男性の方々も半泣きですね…怖かったしお辛かったでしょう。


「中に冒険者ギルド支部長はいらっしゃるか?」


ナッシュルアン皇子殿下の押し出しの利く雰囲気に、男性達は慌てて、中に案内してくれました。


ルル君とジャックス君は建物内に入ると我慢仕切れずに、駆け出しました。私も慌てて走りましたが間に合わず、2人におもいっきり置いていかれつつも…なんとか大きな広間に入りました。


「ばあちゃんっ!リリアッ!」


ルル君の叫びに、奥の方から誰かが飛び出して来ました。小さい銀髪の女の子です!あ、あれはっ!?


「ニィニ〜!ジャクニ~!」


「リリア!」


ルル君の妹さんらしき…リリアちゃんは転がるように駆けて来ます。その後を初老のおば様がヨロヨロしながら歩いて来られます。ああ、いけない!私はルル君によく似た眼差しのご婦人を支えました。


「ご無理はいけませんよ」


私は治療魔法と回復魔法をご婦人…ルル君のおばあ様にかけました。おばあ様の体を治療ドームが包みます。おばあ様のお怪我は軽症だったようです。すぐに魔力の廻りが良くなってきました。


ルル君は号泣するリリアちゃんを抱き締めています。ジャックス君も泣いています。ああ、良かった…本当に良かった。


「ナッシュ様ギリデ様っ!ああっ!?ヴェルヘイム閣下!」


足を引きずって初老のおじ様が、人垣から出て来られました。


「支部長っ、良かった無事だったか!他のSクラスの者は?」


ナッシュ様が駆け寄られると支部長さんは肩を落とされました。ああ、もしかして…


「5人の内1人は亡くなりまして…3人が危ない状態で…」


「カデリーナ姫様!」


ナッシュルアン皇子殿下の鋭い声に、私と姉様とアル兄様はすぐに前へ出ました。


「シュテイントハラルの術士です!すぐに患者の所へ案内して下さい、それと他の方の治療もすぐに開始します!」


私達がそう名乗ると、周りから歓声とすすり泣きが上がりました。皆様っもう大丈夫ですからね!ヴェル君はこの辺りでは有名人のようで皆様、閣下、閣下よく来て下さいました。とか、お声をかけられています。今もご老人に泣き付かれてヴェル君が慰めておられます。


私はヨジゲンポッケの中から作り置きしていたロールパンとミルクサラーのポットをナッシュルアン皇子殿下にここに居る皆様に配って頂くようにお願いして、すぐにSクラスの方の治療にあたりました。


お一人はすごく危なかったですが、なんとか間に合いました。3人の治療ドームを形成すると、今度は住民の方の治療にあたります。皆様お怪我もありますが、疲れていますね。治療が終わった方、一人一人に小さい飴をお渡しします。疲れに糖分は必要ですからね。こちらの建物には50人くらいの方が避難されて来ているようです。聞けば通常住民は200人ほどいらっしゃるとのことでした。もしかするとまだお家の中にいらっしゃるような感じでしょうか…安否が気になります。


「ナッシュ様、ギリデ様、無理は承知でお願い致します。もう町は壊滅状態です。しかし国の援助は望めません…討伐に誰も来てくれません。どうか逃げ遅れた住人をお救いして頂けないでしょうか」


そう言って叫びながら町長様の奥様が、床に擦り付けんばかりに頭を下げていらっしゃいます。ご主人である町長さんはすでに亡くなっていらっしゃるそうです。私と姉様が泣き崩れてしまった町長夫人を支えます。ヴェル君がゆっくりとナッシュルアン皇子殿下とギリデ様を見詰めました。ギリデ様は頷かれるとナッシュルアン皇子殿下を見ました。ナッシュルアン皇子殿下は美しい菫色の瞳を周りに向けられて、大きく頷かれました。


「ここはアルクリーダ殿下とギルと護衛の方にお願いして、私達は町民の捜索に行きましょう!」


「まだ…町に少しですが…人の気配を感じる…」


ヴェル君が気配を読んでいます。私も真似をして意識を建物外へ飛ばします。そんなに大人数ではないですが人の気配がします。残りの住人の方は、もしかして…今は考えたくはありませんが、恐らく…


「落ち込むのは後で良い。今は助かる命を優先させよう」


ナッシュルアン皇子殿下の声にハッとしました。そうです、落ち込んでいては助かる命も助かりません。


何の為にここに来ているのですか!一人でも多くの方を助ける為ではないですか、よしっ!頑張りますよ!


私は作り置きしてきた食材を住民のご婦人方にお渡ししてから、建物の外へ出ました。流石にルル君とジャックス君はお留守番です。


「北の方角に数人の方がいます」


私が指し示す方向に向かって皆様、超高速で移動されます。私は申し訳なくもまた、ヴェル君におんぶです。本当にすみません。


そして、各民家にいらっしゃる方にお声かけをして、見つけた怪我人を治療しつつ、なんとか50人ほどの方々を転移魔法で連れ帰り、避難させることが出来ました。


そして…もう近隣には人の気配が無くなり、最後の住人と思しき腰を痛めたおばあ様を助けた時に、そのおばあ様が気になることを言われました。


「森に近い所に住んでいた3人兄弟は、大丈夫かいな?あの子達の父親は兵士なんだが…最近は帰ってきてないし、母親も病弱だから気になるねぇ…」


ヴェル君と思わず目を合わせます。気になりますね、一応確認だけしてきましょうか。ナッシュルアン皇子殿下にお断りを入れて、私とヴェル君でおばあ様から聞いたお家の方向へ急ぎます。何事も無ければそれでよし…ですしね。


ところが…


「ヴェル君っ!お家の中に微力ながら魔力の気配を感じます!」


ヴェル君は周囲に居る魔獣を蹴り飛ばして、家の扉をぶち破りました。す、すごいっ!そして私は急いで三重魔物理防御壁を張りました。


「奥の方に4人です!」


私達は奥の…キッチンの方でしょうか?に歩みを進めました。


「こんにちは~お邪魔します~カステカートの冒険者ギルドから来ました~」


ハッキリ言って不法侵入なのでつい声も小さくなってしまいます。すると…


「お兄ちゃん…誰?」


と、小さい男の子の声が聞こえました。


「しぃぃ、黙ってっ!」


と今度は別の男の子の声が聞こえました。私達は声のした、キッチンテーブルの下を覗き込みました。すると野菜袋の後ろにこちらに背を向けて、4人の子供達の背中が見えます。1人は女の子です。ああ~良かった魔力を視る限り怪我は無いようです。


「怪我は…無いな」


ヴェル君もホッと安堵の息をつきました。私が屈んでテーブルの下に入りました。


「勝手に入っちゃってごめんなさいね、私達、カステカートの冒険者ギルドから来ました。このお家に君達4人だけでしょうか?」


私がそう問うと、一番上のお兄ちゃんかな?が、ゆっくりと私を振り返りました。もう目には涙が一杯溜まっています。私が笑いながら手を伸ばすと、お兄ちゃんが私の方へ飛び込んで来ました。こ、コケるっ!?


と、思ったら私の後ろにはヴェル君がちゃんと居てくれました。流石ヴェル君。子供達が次々泣き叫びながら、私達の胸に飛び込んで来ました。


「怖かったね~良く頑張りましたね!」


ヴェル君も優しい目で女の子の顔を撫でています。一番上のお兄ちゃんかな?が、しゃくり上げながら話してくれました。


「お母さんはた、たすけ…助けをよびに…役場に…」


ああ、お母さんは外へ出てしまいましたか。もしかすると…ううん、今はその考えは止めましょう。私はヨジゲンポッケからヴェル君用に作り置いていたお菓子の入った籐籠を出しました。


「今は甘いお菓子しか手持ちが無いのですが、皆で召し上がりましょうね。もうっヴェル君もそんな怖い顔しなくても、一緒にどうぞ」


ヴェル君も含めて5人にホットミルクサラーを携帯コップに入れて渡し、そしてヒートの魔法で熱々にしたドーナツを皆に配りました。


「お菓子だ!美味しいっ」


「もう何日も食べてないの…お腹空いてた!」


ああ、こんな小さいのに。私は回復魔法を子供達に順番にかけてあげます。皆、笑顔になりましたね。そしてクリシアネがくれた回復薬を飲んで貰います。よしよし…皆、魔力の廻りが良くなっていますね。


「もう動けそうだな…礼拝所に連れて行こう…」


あの集会場みたいな場所は礼拝所でございましたか、成程。私は女の子の手を取りました。どうやらこの女の子は3軒隣の家の子供らしく、1人で家に居たのをお兄ちゃんが見つけて保護したそうです。


ヴェル君は男の子2人を腕に抱えてお兄ちゃんの手を引いています。すごいぜっヴェル君。


「じゃあ忘れ物は無いわね?」


「はーい」


子供達を促してヴェル君と共に外へ出ました。あれ?外は真っ暗です。え?まだ昼間ですよね?そして…何か森の方から魔素の濃い気配を感じます。森の方をソロリと見てみました。グローデンデの森の方から何かが動いて来ます。黒い黒い何かが…静かにそして流れるようにこちらに向かって…来ますぅ!?


「ま、魔素の、魔素の瘴気だ!」


ええええ!?そう言うや否や、ヴェル君は弾丸の勢いで走り出してしまいました。ちょ…おーーい!私と女の子、メルリンちゃんは取り残されてしまいました!?


仕方ないっメルリンちゃんと2人でヴェル君を追って駆け出しました!が…ま、待ってーーーっ私っ走るの遅いのですっ!メルリンちゃんの方が走るの早いよっ!


「お姉ちゃんっ!?う、後ろっ後ろっ!早くっ!」


「ひええええっ!」


めっちゃ瘴気の流れてくるスピード速ぇぇ!飲み込まれるっ!私はゼイッハア、言いながら走っていると、また弾丸のスピードでヴェル君が戻って来てくれました。


「カデちゃんゴメンッ!うっかり…」


「うっかりどころじゃありませんよっ!まさに死にかけましたよっ!」


ヴェル君が子供達を一旦降ろすと、背中を向けて屈みました。ん…何?


「時間が無い、早くおぶさって」


ひえっ!ここでもおんぶ!?思わずモジモジしているとヴェル君が白い紐を差し出してきました。これ何?


「手が塞がるから、カデちゃんを縛る紐」


これまさかの抱っこ紐~!?ええ?いやしかし…


「お姉ちゃん早くしないと黒いの来るよっ!」


「はずかしくないよっボクもおにいちゃんに抱っこだし!」


「お姉ちゃん走れないなら無理しないっ!」


「はやく、はやくっ!」


ふええ…チビッ子に説得されて、半泣きになりながらヴェル君の背中におぶさります。ヴェル君が流れるようなスピードで紐で私の体を縛ると、子供達を片手2人ずつ、4人全員を抱えて立ち上がりました。すごいっ全然、体幹がぶれてないですよ。


「走るぞ、カデちゃん念のために障壁頼む」


すぐに私達の周りに四重魔物理防御障壁を張りました。そしてフワッとヴェル君は駆け出しました。どうして転移しないのかな?と思っていたら…な、なんと!道の途中で蹲っている女性を更に抱え込みました。


「お、おかあさーーーんっ!」


ええっ、皆のお母さん!?慌てて治療魔法と回復魔法を使います。お母さん、ヤバい状態です。


「転移する」


一瞬です。もう目の前には礼拝所が見えました。建物の前にはナッシュルアン皇子殿下とダヴルッティ様のお2人がいらっしゃいます。ヴェル君の背中で阻まれてお姿は目視出来ませんが、おられます。


「良かった!グローデンデの森から濃い魔素の気配がしたから心配していまし…あれ?カデリーナ姫は?」


「あれれ?気配はあるのにどこにいるの?」


ナッシュルアン皇子殿下とダヴルッティ様の呼びかけに背中からお返事をしました。


「こ、こちらに…おります」


「え?」


お2人の声が重なって…何とかヴェル君の背中越しに私は手を挙げました。こんな所から失礼します…元王子と現皇子様方。


ヴェル君は子供達を地面に降ろすと、屈んでくれました。


「ぶぶっ!姫っ紐で縛られているの!?」


「これは…確かにヴェルヘイム閣下の両手は塞がってますしね…うん」


ちょーーーぃ!なんで2人共笑っていらっしゃるのですか!?イヤ今は非常事態ですよ?それよりも子供達のお母さんですよっ!


「ヴェル君っ!それよりも…先にお母さんを兄様達の元へっ!」


ええ…焦っていたのでうっかりそう言ってしまいましたよ。ヴェル君におぶわれたまま、礼拝所内を練り歩いてしまいましたよ。アル兄様とリア姉様に大笑いされてしまいましたよ。コレが世に言う羞恥プレイというものなのですね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ