ヴェル君がお兄様になります
魔将軍のご主人様の続編になります。前作の数週間後という設定…から話が始まります。
宜しくお願いします。
温かいサラーを飲んで私はホォ…と息を吐き出しました。良い気候ですね…後、数日で秋祭りですね。
皆さまこんにちは、カデリーナ=ロワストです。
いよいよ、実りの秋も深まりカステカートの秋祭りの開催時期が近づきました。私は参加側で主催者側ではありませんが、是非とも一緒に盛り上がりたいと思います。いつもはおひとり様宜しく
「フッ…祭りなんて、若い子は元気ね」
なんて思ってましたが…今年は違いますよ!何と言っても一緒に祭りを楽しめる彼氏がいますしね!
彼氏…恋人、なんてうっとりとした響きでしょう…長い転生人生初の彼氏です。
恋人の名前はヴェルヘイム=デッケルハインさんです。カステカート騎士団の近衛部隊に所属しておられます。来年の一の季(春ですね)には新設される第三騎士団の副官に就任予定です。
そして、将来をお約束している、未来の旦那様なのです!
ヴェル君側のご両親にはご婚姻のご了承は頂いていまして、後はうちの家族の了承を頂けば良いのですが…まだ言えてません。取り敢えずまだ恋人気分を味わいたいっというのも本音です。
「戻ったよ」
玄関先にヴェル君の気配と声がしました。お仕事から戻られたようですね。私はいそいそと玄関口に向かいました。
「ヴェル君、おかえりなさいませ」
ヴェル君は今日も騎士団の制服をパリコレモデルなみに着こなしていて、本当にカッコいいですね!ヴェル君は満面の笑顔になると歩いて来た私をソッと引き寄せ、おでこに口づけを落とされました。
イケメンのデコチュウ頂きました。
「今日も変わりない?」
「はい、変わりなくです!今日の夕食はマッチャのクリームスープとモロンハンバーグですよ~デザートはマッチャプリンです」
ここで言うマッチャは抹茶ではありません。マッチャ…カボチャに似た三の季に出回る季節のお野菜です。ヴェル君はまた嬉しそうに笑うと今度は私の頬に口づけました。
「相変わらず仲が宜しいですね~」
ぎゃあ!ルラッテさんがニヤニヤしながら廊下の向こうからこちらを見ています。は、恥ずかしい~
「それはそうと、オリアナ様がちょっと具合がよろしく無いようなのです…姫様、診て頂けますか?」
ルラッテさんのお顔が曇りました…まっ、それはいけません!最近寒くなりましたしね、お風邪でしょうか…私とヴェル君はルラッテさんと一緒に居間のラブリーソファーに座っていたオリアナ様に近づきました。
「オリアナ様、お加減がよろしく無いと伺いましたが?」
「あ、ヴェルおかえりなさい。大したことないのよ?…何だかお腹に魔力が溜まってるみたいと言うか、体が怠いのよ」
お腹…と聞いて今月の初めの魔石がお腹に入っていたあの事件を思い出しました。
まさか…魔石をすべて消し去ったつもりでしたが、もしかしてまだ欠片のようなものが残っていたのでしょうか?オリアナ様のお腹を重点的に診ていきます…本当ですね、お腹にオリアナ様の魔力が流れて行ってます…あら?どういうことでしょう。オリアナ様の他に別の魔力も感じます…ごく微量ですが…
こ、こ、これはぁっっ!
「うん?母上…お腹に微量だが別の魔力も感じるよ?…カデちゃんコレって…」
思わずヴェル君と向き合います。せーの!
「赤ちゃんが出来てますよ!」
「魔石がまだ入っているみたいだ!」
おい…そりゃ無いだろ?ヴェル君よ?ヴェル君は私と叫んだ内容が違う為、え?え?と聞き直そうとしています。
「きゃあああ!姫様!?ご懐妊って本当ですか!?」
ルラッテさんの興奮の絶叫にヴェル君もオリアナ様もポカーンとしています。
「ええ、もう少し様子をみないといけませんが、ほぼ間違いないでしょう。オリアナ様は身籠られています。おめでとうございます、オリアナ様」
オリアナ様はワナワナと震えながらお腹に手を当てられました。
「私…子供が出来ましたの?…まさか、本当に?ア、ア…アポカリウスーー!」
と、オリアナ様が叫ばれると同時に、ポカリ様ことアポカリウス=カイエンデルト(魔神)がフワッと室内に現れました。
「どしたの~?オリアナちゃ……ん?あれ…あれれ?オリアナちゃんまた、魔力の廻りがおかしいの?」
「ち、父上、違う…その…」
ヴェル君がオロオロしてしまって役に立ちません。代わりにっ!と私が手を挙げました。
「オリアナ様はご懐妊されています!つまりお腹に赤ちゃんがいます!」
ポカリ様はしばしポカーンとした後オリアナ様を急に抱き上げました。あぁ!?危ないっ!
「オリアナちゃんっオリアナちゃ~ん…オリアナちゃあぁぁぁん~~」
オリアナ様を抱き上げて抱っこしたまま、ポカリ様はしばらくそのままでした。余程嬉しかったのですね、魔神様も人の子と言う所でしょうか…イヤこの場合は魔の子と言うべきでしょうか。
「カデちゃんっ!絶対っ絶対頼んだからね!なんとしても無事に赤ちゃん産めるように頼んだよ~~」
ポカリ様の魔神圧がすごいですっ…そんなに興奮されずとも、ちゃんとオリアナ様のご出産をお助けしますってば。ぎゃいぎゃい騒いだ後、ポカリ様は帰っていかれました。
私達は急いで夕食の支度に取りかかりました。オリアナ様はヴェル君をご出産の折に、随分体力を落とされていたとお聞きしていますので、心配ですね。しかしまだつわりは無いそうなので今日はいつも通りの食事にしました。
「オリアナ様、気分が悪くなりそうなら無理に食べなくても大丈夫ですからね?」
オリアナ様はコクコクと笑顔で頷かれている。ルラッテさんはまだ生まれていない赤ちゃんのことを考えてワクワクしているようです。
「姫様~赤ちゃんの性別は分かるのでしょうか?」
「いえ、まだこの段階ではどちらとも…」
「じゃあ、産着などはどちらでも使えるような物から作りましょうかね!」
張り切ってますね…子供服関係はルラッテさんに任せましょうか…私はまずは母体、オリアナ様の健康管理からサポートせねばっですね!
その日の夕食はまだ見ぬ赤ちゃんの話で、盛り上がりました。ついでにヴェル君の赤ちゃんの頃の話になりました。ヴェル君の幼少期すごく気になります。
「ヴェルも今は大きいけど~昔は小さくてそれは女の子みたいに可愛かったのよぉ」
おおっですよね!今は縦にガンガンに伸びている気がしますが、誰しも幼少の頃は若干ポチャッとして丸みを帯びた、プニプニした子供ですものね。
「ヴェル坊ちゃまは大人しくて、夜泣きもあまりされませんし…本当に手のかからない赤子で…」
ふんふん…盛んに頷く私の横で、ヴェル君は渋い顔をしています。恥ずかしいのでしょうか?うふふ。
「小さい頃は貴族のあの子に苛められた…とか言って泣いていたわね…私が、負けるな!やり返せ!て言っても泣いてばかりでね」
オリアナ様…ヴェル君にそんなことをけしかけていらしたのですね、流石オリアナ様。
「見かねたグーデが体を鍛えれば心も一緒に強くなれるから良いよ…と助言をしてくれてお兄様…あ、ヴェルの伯父に当たる、私のオランジェルお兄様ね…が剣術の先生をつけてくれたの」
ほ~う、それでそれで?
「それが、剣の教えを受けるともうびっくりするくらい剣技の腕が上がってね~。アポカリウスの遺伝もあるのだろうけど…先生にも勝てるほどになってね、先生に近衛か軍属に志願されては?て勧められたの、その時が8才ね?」
と、言ってオリアナ様はヴェル君に同意を得るように顔を向けました。ヴェル君は無言で頷いています…が、ルラッテさんがデザートのマッチャ(カボチャ)プリンを出してくれると満面の笑みになりました。
しかし…8才ですでに先生御墨付の剣の達人ですか。
「そういえば、12才で軍に入る前に時々一人で、魔物退治とかに行ってたわよね?」
えええっ!?それは、あ、危ないぃ…まだ子供じゃないですかっ!心配そうに見つめた私に、ヴェル君は少し顔を近づけると小声でこう言いました。
「大丈夫、父上が様子見で付いていてくれたし…」
あらら!それはポカリ様も流石に人の親!お優しいですね~我が子を見守る親ですね。少し見直しました。本当にほんの少しだけですが、見直しました…
夜、お片付けを終えて自室に戻ろうとしていると、お風呂帰りのヴェル君に呼び止められました。
「カデちゃん、明日…ガンドレアから二人の引き取りに…向こうの役人が来るらしい…」
二人というと…ガンドレア帝国魔術師団長のグーデリアンス=ロブロバリント様とヴェル君の偽物、カーク=ライナイズさんですよね。や、やっとですね〜でも、いきなりですね。よその国の事情なので口出しもおかしなものですが、もっと誠実な対応をして欲しいですね。
「随分時間がかかりましたね?」
「ダヴルッティ隊長も気にされている、罠かもしれんと…」
罠…確かにその可能性もありますよね。まさか大人数でやって来て暴れたり、とか?いやそれはないか…万が一あったとしてもヴェル君達が捕まえますかね。でも、不気味なことには違いないですが。
「ヴェル君、大丈夫ですか?」
ヴェル君は少し微笑みを浮かべると、私をゆっくりと引き寄せました。麿力波形の元気が無い気がしますね。
「引き渡しの時にルーイドリヒト殿下も立ち会われるとかで、殿下の警護で俺も行くのだが…何か嫌な予感がしてな…」
嫌な予感…虫の知らせというのでしょうか?ヴェル君は魔神の子だし、特殊な第六感とかあるのかもしれませんよね。ヴェル君は私の背中をゆっくり撫でながら、少しずつ会話を続けています。
「引き渡し場所はカステカートのエーマント、ガンドレアとの国境近く…近衛騎士団と隠れてうちの軍部と暗部も控える予定だ…なのだが…」
「では何も危ないことは無いのでは?」
「だと思うのだが…」
ヴェル君はそう言って一つ私に口づけを落として、お部屋に戻って行きました。うむ、ヴェル君は何か…を感じているのですね。これは…元ご主人様としてはうちのヴェル君の心配事を減らしてあげなければなりませんね。
翌日…
私はお勤めに出て行ったヴェル君の後を、消音消臭そして透過の術を使いつつコッソリと付いて行きました。流石に部外者が城に入るのは躊躇われたので、正門の前でヴェル君が偽物さん達の引き渡しの為に、お城を出てくるのを待ちました。
しまった…さり気なく何時に引き渡しが行われるのか聞いておけばよかったですね。どうしようか…と思案しているところに、ヴェル君達が何か荷台に乗せて馬に乗って出て来ました。他にもダヴルッティ様やルーイドリヒト王太子殿下もいますね、そこにいるメンバー…ロブロバリント様もいます。ああ、どうやら今から引き渡しのようです。
さあ付いて行きますよ!て…あ、あれ?ヴェル君達はすごい勢いで馬で駆けて行ってしまいました。う、うそでしょう?置いて行かれてしまいました…いえいえ、待って!落ち着いて…どこで引き渡しでしたっけ…エーマントだわ!
私はニーゴの町まで転移してエーマントを目指します。取り敢えず方向さえ分かれば問題ありませんよ!ヨジゲンポッケの中から地図を出して確認します。よしよし。ニーゴからエーマントまで歩きで一時間ほどです。自動回復魔法を自身にかけながら順調に街道を歩いて行きます。
ああ、もう少しでエーマントですね…ふぅ。と、思ったところに街道の後ろの方からヴェル君達の魔力を感じます!あわわっ…と慌てて草陰に隠れます。そして、私の前を行き過ぎたヴェル君達の集団を、なんとか駆け足で(鈍足)後を追いました。
よ…良かったっ!エーマントの砦の向こうにヴェル君達を見つけました。ソォッ…と後をつけて行きます。うん?向こうの方から、なんだか派手な馬車が近づいて来ますよ?役人の方が乗っている割には豪奢な感じですね。馬車は少し手前で停まりました。中から誰かが降りて来ました。と、思った瞬間…
「きゃあっ!」
目の前が暗くなり良く知っているヴェル君の体に抱き締められています。ど、どういうこと?
「ヴェ…ヴェル…ヴェル君!?どうしたの…」
「しっ!カデちゃん静かにっ!」
私はそう言ったヴェル君の只ならぬ緊張感のある魔力に、慌ててヴェル君を私の作った消音消臭と透過の障壁の中に入れてあげます。
「ヴェル君、お声は外に漏れませんのでご安心を」
ヴェル君は、はぁ~と息を深く吐くと恐る恐る後ろを振り向きました。私も一緒に覗き込みます。
「ラブランカ…王女が来ている…」
ええ!あの噂のラブランカ王女殿下ですって!?どういうことでしょうかっ!?