35 忍
「あのー、それはそうと、佐助さん。一つ、訊いておいていいかな?」
「なんだ? 幸村」
「その、信玄先生が言ってたこと……契約とかって本当のこと?」
佐助は不意を突かれてなんのことかと戸惑ったが、すぐさま「ああ、あれか」と思い出して答えた。
「信玄が言った忍の定理や、お前と、俺や伊三や清海が主従契約を結んだのは、全部事実だ」
「そう、私たちも猿飛様と同様にアヤカシ。だけど、幸村様と契約を結んだ忍なの」
「だから、俺たちは元から知り合いだったんだ。騙してて、ごめんね」
そうなのだ。
ミズナとゴウも、実は忍で、ずっと学生寮仲間のふりをして、幸村を見守っていたのだ。
「私の本当の名前は三好伊三」
「俺の本当の名前は三好清海。伊三は俺の妹にあたる」
「ええ! そうなの!?」
そうだ、と佐助が首肯した。
「前世でお前は、俺たち三人を含む十人のアヤカシと契約を交わし、忍にした。それが真田十勇士だ。……証拠を見るか?」
「証拠?」
そう言って、佐助は雑誌の撮影時でも決してはずさなかった右手の黒革の手袋を取って、手の甲を見せる。ミズナ――伊三は制服の右袖をめくって右腕を、ゴウ――清海は左袖をめくって左腕を。そこには、赤い六連銭が刻まれていた。
「これ……」
「これはお前の力を刻印と化したもの。お前はそれを契約印として、自らの血を使って俺たちの体に刻んだ。契約印は主と従者を繋ぐ大切なものだ。特に、従者側からすれば、命と同等の価値はあるだろう。だから、容易く他人に見せていいものじゃない」
「そっか。それでいつも、手袋で隠してたんだ」
「そういうことだ。本来ならば、契約印は主が死ぬと消え、契約は解除される。だが、俺たち真田十勇士は、前世でお前が死んだときに、特殊な術を施して消えないようにした。そのため、現在も契約は継続されている。俺のすべては、今もお前に捧げてあるんだ、幸村……いや、我が主君よ」
「「幸村様」」
三人が畏まって片膝をつき、その敬意を示す。それに、幸村はあたふたした。
「そ、そんな、主君とか様なんて……普通に幸村でいいよ」
「と、前世のお前も言っていた。……まったく、本当に相変わらずだな」
苦笑する佐助に、幸村も顔を綻ばせる。そこへ、信玄が真っ直ぐな視線を向けてきた。
「幸村、前に言った通り、貴方は我々武将とアヤカシの戦の要です。これから私たちは、そのせいで貴方をつらい目に遭わせるかもしれません。ですけど……」
しかし、暗い表情をしてそう言う信玄の不安を打ち消すように、幸村は笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。俺、頑張ります。人類の存続が懸かっているのなら、自分が誰かを助けることができるのなら、必要としてもらえるのなら、なおさら。痛いのは事実かもしれないけど、俺にはみんながいるから、一人じゃないから」
『充分でございまする』
前世で幸村が言った言葉を改めて理解し、信玄は涙ぐむ。
「幸村……ありがとう。ありがとうございます」
差しのべられた信玄の手を取り、幸村は立ち上がる。
いつの間にか雲は晴れ、夜空には月と星々が綺麗に輝いていた。




