32 激突
「せちなる輩損ずる咎、え免ぜず、激昂にてたぎる魂を聖なる精根と化して滅さん」
すると、光が集まって幸村を包み込む。
光は和装の衣服となって、幸村にまとった。動きやすさを重視してか、史実の武将と比較すると鎧の部分はほとんどなく、神秘的で神様の衣装のようにも見える格好だ。だが、赤色を主体としたその外見は、真田幸村以外の何者でもない戦国武将の出で立ちである。
そして光は、更に一冊の古書を形成した。見た目こそはただの本だが、幸村はその本から計り知れない力を感じ取り、迷わず手にした。
「この、浄化人めええええぇぇぇぇ!」
信玄――否、偽信玄が本性を現す。皮膚から茶色い毛が生えて全身を埋め尽くし、獣のような耳と大きな牙が出現する。鼻は伸び、服装は鎧へと変わり、そこにはもはや人間の面影はなくなって、その姿は例えるなら狼男だ。
「行け!」
偽信玄が手を前に出すと、何もないところから黒い霧が現れ、そこから昨日、甲斐谷と佐助を襲撃した狼と同じものが数匹出てくる。
しかし、幸村はもう臆さない。本を開き、他人が見たらどこの国のものかもわからないであろう意味不明な文字を、あっさり読み上げた。
「出でよ、天照の盾!」
円形の光る壁が複数出現し、それに突進した狼は浄化され、消し飛んでいく。
「クソッ! ならば、これでどうじゃ!」
偽信玄は手から数発の火炎弾を放つ。黒みを帯びた炎……邪炎である。
「そんな強力な盾ならば、体力の消耗も激しかろう。さて、いつまで持つかな?」
火炎弾が盾に命中し、ひびが入った。が、そのひびは、すぐにすうっと消える。
「な……! どういうことじゃ、ヒョウラ!」
それに動揺する偽信玄。ヒョウラとは、どうやら家康のことを言っているようである。
家康は、まだ消えぬ聖なる領域を眺め、言う。
「神霊加護。この聖なる領域内にいるすべての武将の力を増幅させるという、浄化人の得意技の一つですヨ、ガライ」
偽信玄――ガライは苦虫を噛み潰す。だが、それも少しの間で、ガライは次の火炎弾を放つ。
「ふん。だが、護るだけの相手など、恐るるに足らぬわ!」
「くっ!」
確かにそうだと、幸村は顔を歪ませる。しかし、それも束の間だった。
「そうですね。貴方を倒すのは、幸村を護る私たちの役目です!」
甲斐谷が、呪文を唱えた。
「ひしと醸し圧する露骨なる危むの意、いざさば我も、剛健の岩となりて渡し合わん……出でよ、華厳!」
幸村と同様にして、甲斐谷もまた光に包まれる。幸村とはまったく違うデザインの、虎を彷彿させる勇ましい武将の衣装をまとう。武器は華厳という名の……岩で形成されたブーツのような靴で、甲斐谷の剛力を最大限に引き出すものだった。
「はああああ!」
甲斐谷は勢いよく跳躍し、ガライに飛び蹴りを食らわせようとする。
しかし、すんでのところで避けられた。が、代わり地面に蹴りが命中し、その衝撃はすさまじいもので、ガライはのけぞる。そこへ、
「ジェットフィアー!」
黒い邪気をまとったクナイを佐助が投げつけ、何本かがガライに当たり、爆発する。
「甲斐谷先生、佐助……」
「「幸村」」
幸村の前に立った二人の背中は、なんと頼もしいことだろう。二人は肩越しに幸村を見遣り、微笑んで言った。
「貴方を……」
「お前を……」
「「信じてよかった」」
その温かく柔らかな表情に、幸村は涙ぐむ。
「ありがとうございます。それから、ごめんなさい。二人を疑って……ひどい言葉をたくさん浴びせて……」
後悔があるとするなら、その点だ。だが、そんな幸村の不安を打ち消すように、二人は微笑み続けた。
「いいんですよ、そんなの」
「そうだ。最終的に、お前は俺たちを選んでくれたんだから」
「甲斐谷先生、佐助……」
もう、怖いものなどない。苦しくても、みんながいるのだから。
そんな三人を見ていたガライは、忌々しげに舌打ちする。
「おのれぇ! あと少しというところで、浄化人を利用し、我々を裏切って人間などについた忍を倒し、あわよくば武将も一人葬れたというのに!」
「ええ。そうですネ」
「ヒョウラ、お前はこの作戦は完璧だと言った。裏切られた直後の人間の隙につけ込めば、必ず騙せると言った。浄化人は我々を信じると言った。なのに、この結果はなんだ! 浄化人が覚醒したときが一番の狙い時だと、養護施設の院長を殺してその皮を被り、何年もこのときを待っていたというのに!」
「ええ、普通の人間相手なら、うまくいったでショウ。ですが、あの方々には魂同士で結ばれた強い絆がアル。誤算があったとするなら、それでショウ」
「ええい! そんなのは、そんなのは認めん!」
ガライは狼たちを呼び出す。幸村は本に力を込め、再度、天照の盾でガードする。
「くっ! 目障りな!」
火炎弾も放つが、やはり神霊加護で強化された盾は中々破れず、火炎弾は当たって爆発するだけだ。
煙が舞い、一瞬、両者共に相手の姿が見えなくなる。そして、煙が消えたとき、ガライは目を剥いた。甲斐谷と佐助の姿が消えていたからだ。
「はああ!」
「食らえ!」
甲斐谷と佐助が同時に攻撃するも、大斧を振り回されて、阻まれる。
「ふん! その程度で、出し抜いたつもりか!」
まだまだ余裕を見せつけるガライだが、しかし、冷ややかな声が場に広がった。




