21 絶望
SASUKEがアヤカシ。それならば、ずっと聖をつけていたのにも説明がつく。聖を殺すためだと。
「ずっと、狙ってたんですか? 俺を、俺の命を! だから、初めて会ったときも俺の名前を知って……。不良から助けてくれたのも、俺を欺くための演技だったんですか!」
「ひ……幸村、違う! 俺は……」
「何が違うんですか!」
涙を堪えながら叫んで、聖はSASUKEとの距離を取る。
逃げなければ。自分はまだ、アヤカシを倒すことができない。だから、逃げなければ。この場から逃げて、甲斐谷に助けを請うしか、生き延びる術がない。
「……っ」
聖はSASUKEに背を向けて、全速力で走り出した。
「幸村!」
SASUKEが追いかけてくる。それは人とは到底思えないすさまじいスピードだったので、瞬時に追いつかれ、手首を掴まれた。
「やっ!」
振り払おうと暴れる聖。これでは話をするどころではないと、SASUKEは力尽くで壁に追い詰め、掴んだ聖の手首を押しあて、もう片方の手は肩を捕らえて動けなくした。
「離せ! 離せってば!」
「幸村、俺の話を聞いてくれ!」
「嫌だ!」
それでもなお、暴れる聖だったが、まるでびくともしない力の差により絶望感を覚え、徐々に大人しくなく。
込み上げてくる死という恐怖。自分はここで殺されるのか。
「離せ……。離せ、よ……」
それでもあくまで口で抵抗して意地を見せようとするも、唇は震える。そんな聖に、SASUKEは懸命に訴えようとした。
「幸村、俺はだな……」
「何をしているんですか、佐助」
突如、割り込んできた声に、二人は、特に聖の方が驚いた。二人してゆっくりと首を動かし、その人物を視界に入れる。
「甲斐谷、先生?」
先に声を出したのは聖だった。だが、甲斐谷は何も返答せずに、歩み寄ってくる。
「し……甲斐谷、これはその、違うんだ」
……え?
聖に更なる驚きが積もる。
SASUKEの受け答えの仕方。甲斐谷はSASUKEを知っているとは言っていたが、まさか……。
慌てて聖から手を放すSASUKEだが、甲斐谷は冷たい笑みを浮かべたまま静かに接近し、SASUKEの腕を鷲掴む。
「な・に・が……」
そして。
「違うんですか、この変態!」
鈍い音が響く。甲斐谷は握力だけで、SASUKEの腕の骨をへし折ったのだ。
「いっつう!」
痛がるSASUKEだが、それも最初だけで、すぐに折れた腕を元に戻し、抗議した。
「この、何も骨を折ることはないだろう! 馬鹿力男女!」
「ええ、馬鹿力男女で結構。貴方の数々の失態を考えれば、相応な罰だと思いますが? それに貴方の場合、力ですぐに完治できるでしょう」
SASUKEは渋った表情をする。
「貴方は幸村を幼少時から見守り続けていたみたいですが、その時点でもうすでに薄々感づかれ、ついには尾行もばれる始末。本当に邪気を隠すのが下手くそですね。その上、最後には力にものを言わせるなんて、最低の極みです。スポットライトの浴びすぎて、腕が鈍りましたか?」
「なっ……そこまで言うか! だったら、スーパーの件はどうなんだ! 俺がいなければ、今頃、幸村は……」
「そこは褒めてあげますが、失態の方が断然際立っています。まったくもって、反吐が出そうなくらい使えない野郎ですね」
「だから……」
甲斐谷からほぼ一方的にバカにされまくるSASUKEだが、二人が醸し出す雰囲気は、相当長い間一緒にいるような、互いに心を許し合い、慣れ親しんでいる感じがある。
なので、聖は質問した。
「あ、あの、二人は知り合いなんですか?」
答えたのは甲斐谷だった。
「ええ。というか、仲間です」
「え……。だって、SASUKEさんはアヤカシ……」
その仲間だと言うのなら、もしや甲斐谷も……。
しかし、甲斐谷から邪気は感じない。けれど、懸念はある。握力だけで骨をへし折る剛力に、SASUKEに対して放った、邪気を隠すのが下手くそという言葉。まるで、自分ならばアヤカシだと気づかれないように、邪気を巧みに隠せると述べているかのようだ。
「嘘……」
聖は後ずさりをする。
もう、何を信じていいのかわからない。一度生まれた疑惑は簡単には拭えず、更なる絶望感を植えつける。
「そんな、そんなことって……」
SASUKEだけではなく、甲斐谷までもが自分を騙していたというのか。感じた懐かしさは、前世からの敵であるという本能の警告だったのか。何かある事に自分を包んでくれた優しさは、全部、偽りだったというのか。
不安に満ちた顔をする聖に気づき、甲斐谷は説明しようとする。
「幸村、あのですね、勘違いしないでください。実は……」
「もうやめてください!」
聖の絶叫に、甲斐谷とSASUKEが目を見開く。裏切られた、その文字が浮かんできて脳内を駆け巡り、心臓を押し潰すかのような痛みが聖を襲う。
「もう、嫌だ……。そんな優しい声で綺麗事を並べられるのはたくさんです!」
「幸村、誤解です。私たちは……」
事情を話そうとした、その矢先、甲斐谷はぴくりと何かに気づき、振り返った。




