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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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新たなプラン

 手嶋のところに、達樹から田上研究所について断りの電話が入ったのは月曜の夕方だった。


「そう……わかったわ」


 内心、しくじったと手嶋は思った。ともあれ、達樹はあれだけの材料を与えても引き下がった。よほど舞桜にご執心なのだろうと理解し、方針を考える。

 達樹自身を動かすことができないということは、取り巻きを動かすべきか。一番考えられるのは菜々子か。


「ふむ……」


 手嶋は思考する。彼女を利用してどうにかなるのか。


 その時、電話が。見るとそれは――


「あら、珍しい」


 電話に出る。聞こえてきたのは、男性の声だった。


『苦戦しているようだな』

「情報が早いですね」


 手嶋が言うと、僅かな沈黙があった。男性は肩でもすくめたのかもしれない。


『こちらに耳寄りな情報があるのだが、いるか?』

「……それは、西白達樹君に関する情報ですか?」

『いや、違う。笹原菜々子に関する情報だ』


 彼女の――達樹については断られた以上、干渉するにしても間を開けた方がいいだろう。なら彼女に接触してみるのも悪くはない。


「なら、聞かせてください」

『西白達樹は、断りの電話を入れたな?』

「はい、そうですね」

『それを吹き込んだのは、どうやら彼女らしい』

「とすると、彼女は――」

『情報によると、三枝という立栄舞桜の親衛隊の人物と図書館に行った。どうやら西白達樹の姉に関する情報を探していたようだ』


 ――となると、達樹が断りの電話を入れた理由は彼女にあるということか。


『もし干渉するとなると、笹原菜々子の方がいいかもしれん』

「ですが、達樹君の姉と直接的な関わりはありませんよね?」

『それをどうするかは、君の仕事だ』


 ずいぶんと突き離した物言いだった。とはいえ、手嶋は別段気にしない。そういう物言いをするのが常だからだ。


「わかりました。参考にさせていただきます」

『ああ』


 唐突に電話が切れる。手嶋は息をつき――その中で策を考え出す。


「予定変更だけれど……これは逆に、面白いことになるかもしれないわね」


 達樹だけに対象を絞ろうとしていたが、どうやら菜々子など舞桜に関わる人物も動き出している模様。これを利用しない手はない。


「だとすると、あっちにも連絡しておきたいところね」


 関石のことを頭に浮かべながら手嶋は声を発する。


 手嶋は今後のことを頭に浮かべながら行動を開始する。面倒なことになったなどと思いつつも、心の中ではこうした状況を楽しんでいる面もあった。

 やはり、計画通りいかないのは面白い――そういう心情と共に、さらなる謀略を実行するべく、手嶋は番号を検索し、通話ボタンを押した。



 * * *



 菜々子は達樹が田上研究所に干渉しない、と表明した翌日もその辺りのことについて多少ながら調べていた。

 本来なら達樹の姉と関わりの無い菜々子が調べる理由はないのだが――多少なりとも興味を持ったのだ。


(もし何かわかったら、達樹にも報告しよう)


 そういう考えをしつつ、菜々子は調べることにした。とはいえ、田上研究所について単独で調べるにしても、とっかかりがない。


「あるとすれば……手嶋さんか」


 けれど達樹が断った時点で、果たして彼女が動くのかどうか。


 彼女自身については、日町の紹介でもあるため信用していいだろう。達樹に話をしたのも善意に違いない。とはいえ、菜々子自身がそうした話をして受け入れてもらえるのかどうか――


 考える間に、昼を迎えた。普段菜々子はいくつかあるカフェで昼食をとるのだが、その日は少し違っていた。


「あら、奇遇ね」


 手嶋だった。菜々子は少々驚き、問い掛ける。


「手嶋さん……何か御用ですか?」

「ええ。ちょっと学校に用事があって」


 その時、手嶋を呼ぶ声が。菜々子が見れば、手嶋へ向け手を振る学生の姿が。

 彼女はそれに振り返し、改めて話を行う。


「直接授業に出てはいないけど、ちょっと教授とかの手伝いをしていてね。今日はその関連で学校に来たというわけ」

「お疲れ様です」

「平気よ。それで、ここで会ったのも何かの縁だし、ちょっと話でもしない?」

「はい」


 頷きカフェに入る。そこで注文を行い――なんだか昨日達樹と話し合った時と同じようなシチュエーションだ、と菜々子は思う。


「訓練は順調?」


 手島が質問。菜々子はすぐに「はい」と答えると、さらに彼女は問う。


「そういえば、笹原さん」

「何でしょうか?」

「西白君の様子はどうかしら」

「……訓練は順調だと思います」

「そう。ならよかった」


 その言葉は、もしかすると田上研究所のことについて懸念していたのかもしれない。

 もし話すなら今しかないと思い、菜々子は口を開いた。


「……一つ、いいでしょうか?」

「どうぞ」

「達樹から少しばかり話を聞きました。お姉さんのことを」

「……そう。もしかして断りの電話は笹原さんが話したからかしら?」


 問い掛けに、菜々子は首をすくめる。一瞬咎められると思ったのだが――


「あ、ごめんね。別に怒っているわけではないの。ただ私が話して重荷になっていないか確認したかっただけで」

「達樹自身は、そう感じている様子はありませんでしたよ」

「そう。ならよかった」


 安堵する手嶋。彼女自身も、試験のことが気になっている様子。


「……それで、なのですが」


 菜々子は本題に入る。


「今度は私が気になりまして」

「笹原さんが?」

「はい。田上研究所についてですが――」


 菜々子は調べた結果を報告する。すると手嶋は興味深そうに目を瞬かせ、


「なるほど……それは興味があるわね」

「なんとか調べられないものでしょうか?」

「うーん……実は田上研究所については智美に色々と話をしていたのだけど、それはあくまで見学という形で、調査をする気はなかったのよね」


 その言葉は至極当然と言える。しかし、


「もし……そこに何かあるのだとしたら……」

「笹原さんって、結構正義感強いのね」


 感心するように述べた手嶋。すると彼女はおもむろに携帯電話を取り出した。


「なら、智美に連絡してみましょうか」

「わかりました」

「話し合いをする場合、あなたの授業のこともあるから夕方以降になるけれど……場所はどうしようかしら」

「それはお二方で決めて頂ければ、従います。ただ」

「ただ?」

「他にも……同行者がいてもよろしいですか?」

「誰?」


 菜々子は三枝の名前を出す。彼女もまた調べて気になったと告げた一人である。


「ああ、立栄さんの親衛隊……」

「知っているんですか?」

「そこそこ有名人だし、実技で上位に位置する魔法使いの名前は結構憶えているのよ」


 返答しつつ手嶋は小さく頷いた。


「いいわ。事情がわかっているのなら」

「ありがとうございます」


 ――そこから手嶋は日町に連絡して場所と時間を決める。その間、菜々子は一つ注文を入れた。


「このこと、達樹には知らせないで欲しいのですが」

「わかっているわ。あくまで笹原さんが気になって独自に調べることにした、というわけね」

「はい」


 頷く菜々子に、手嶋は大きく頷いた。


「いいわよ。私としては決断した達樹君に余計な思考をさせる必要はないと思うから……けど、本当に調べられるかは保証がないから、そのつもりで」

「はい」


 菜々子は頷く――それと共に、ほんの少しだけ気合を入れ直すこととなった。


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